せんせい せんせい
もうここにはいないの?
もう逢うことは出来ないの?
せんせい…
「あひ見しもまだ見ぬ夢も -- T」
盗みなんかしないのに。
嫌になっちゃう。
「お願いだから俺のアリスだけは盗まないでくれよ」
私の顔を見る度に学校の生徒がそう言ってくる。
初対面なのにこれだ。
何も知らないくせに勝手なこと言わないでよ。
怯えた顔して…
あたしは幽霊でもなんでもないのに。
「…ちょっと、そんな言い方失礼だよ」
あたしを恐がる生徒をそう言って止めてくれる生徒もいるが…。
けど、それだって…
「あの…あなたに何にも迷惑かけないから…私のアリスは……」
おなじだ。
アリスをとらないで、って?
全然、わかってないじゃんか。
「…あたし、人のアリスを盗るなんて卑怯な真似しないから」
盗むアリスだからってそんな卑怯な真似、あたしはしない。
まあ、それを分かってくれる友達も沢山居たけど…
それが全部の人間なんていないから
クラスに何人かは私を盗人扱いする人もいた。
『近寄るんじゃねえよ!』
慣れてたから無視すれば済んだことだけど…
正直、寮で泣いてたこともあった。
自分が嫌いだった。
信じられるひとはいなかった。
当然、教師も口だけで、心の中ではあたしを差別する。
アリスが盗られるんじゃないかって恐がってるんだ。
馬鹿じゃないの。
けど。
「おいコラ。授業さぼってんな」
裏庭に当たる日差しが気持ちよくて
芝生の上で寝入っていたら誰かが頭を軽く叩いた。
ゆっくり目を開くと、其処には見た事もない茶金の髪をした男の人。
「…だれ」
「今日新しく入った新米教師」
「……ふぅん」
新米教師、その言葉に興味が沸き、少し新米教師と話したくなった。
少しだけ起き上がって突っ立って自身を見下げている教師を見上げた。
太陽の光に反射した茶金の髪が少し眩しかった。
「何で授業をさぼってる」
「何でっていつものことだし」
「他の先生はなにも言わないのか?」
「言わないに決まってるじゃん」
「なんで」
教師のその問いに思わず、はんっと呆れるような笑いが込み上げてくる。
まだ何も知らないんだ。
私のことを。
私のアリスのことを。
まあ、新米だから仕方ないけど…。
「あたしが恐いから」
その言葉に教師は目を見開いた。
きっと次のあたしの言葉を聞いたら恐がって逃げだすんだ。
決まってる。
「あたしのアリスって人のアリス盗めるんだよね。
だから簡単に人から奪うこと出来るし…
だから教師はあたしが何しようと関わってこない。
関わってこれないんだよ」
信用なんかしない。
信用なんかしたくない。
恐がるくせに。
盗みなんかしないのに。
どうせ、あんただって……
「…俺のアリス、盗んでみろよ」
恐がるんだ……
あんただって………って。
「………は…?」
先生は真剣な顔をして、そっとあたしの隣に腰掛けた。
盗め、って本当に言ってるんだろうか。
「あ、あんた可笑しいんじゃないの!?盗めなんて言う人初めて…ッ」
「いいから盗め。盗めるんだろ」
本当に、
…初めてだ。そんな風に言う人。
「…ど、どうせ、いざとなったら逃げるんでしょ!?」
教師なんてみんなそうだ。
口だけで。
「逃げない」
くち……だけ…なのに…。
「…知らない…からね…」
先生のあまりの真剣な顔におされて、
そっと向かい合わせになるように先生の両肩を掴んだ。
目を反らしもしない。
恐がりもしない。
真っ直ぐ、あたしのことを見てる……。
「…どうした」
本当の話、一度も自分のアリスを使ったことがないのだ。
言葉どおり、人のアリスを盗むなんて卑怯な真似したくなかったから。
「まさか…盗めないとか言うんじゃないだろうな?」
目の前で先生が嘲笑う。
なんでそんなにも余裕なのか。
腹が立つ。
「…っるさい……盗めるって言ってるじゃん…!」
言葉ではそう言っていてもどうしていいか分からない。
盗み、なんて犯罪だし。
自分でもそれはよく分かっていることだから。
できない。
したくない。
こわい。
「…お前に盗みなんかできっこねーよ」
息を吐き捨てるように先生は起き上がった。
あたしの心を見透かすように背の高い彼はあたし自身を見下ろす。
「……っ今日…は……調子が悪い…だけ、で………」
負けたままで終わりにしたくはないから、
少し震えた声で意地を張った。
どうしてこんなに必死になっているのだろう。
見下ろす先生を懸命に睨みつけていると、先生があたしの前にしゃがみ込んだ。
急なことにびくりとした私の肩を先生は軽くトンっと押してきた。
すると、押された衝撃で簡単に後ろに転げ落ちるあたしの身体。
強く押された訳じゃないのに…。
「震えてた」
「……へ………?」
「盗む、とか言ってお前さっきから肩震えすぎてんだよ」
「………………………………」
「人のアリスを盗めるくせに、力入れすぎだから」
本当に。
見透かされているようで。
言葉が出なかった。
「お前は人のアリスを盗むような奴じゃない」
自分でも分かってるんだろ?
なんで。どうして。
誰ひとりと言ってくれなかった言葉を
あなたは、そんなに簡単に…。
初めてで…
とてつもなく嬉しかった。
「…ねえ、先生」
立ち去ろうとする先生の後姿に
思わず声をかけた。
「なに」
「先生のアリスってなに?」
先生は、振り向きもせず、
歩きながらこう答える。
「…無効化」
なんだか先生らしくて。
思わず笑みがこぼれてきた。
「……ふぅん、良いアリスだね!」
先生は、軽く手を振って学校の中に入っていった。
最後に、
『明日は、ちゃんと授業に来いよ』
と言い捨てて。
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結構、蜜柑父×柚香も良いもんですね。
切ないの書くの大好きな私にとっては書きがいがある。
一応、続きます。
文は色々と語りもまじって適当なので気にせずに。