せんせい せんせい
もうここにはいないの?
もう逢うことは出来ないの?
せんせい…
「あひ見しもまだ見ぬ夢も -- U」
「せんせーーっ」
あれから、私はちゃんと授業に出るようになった。
そして、もう一つ変わったことと言えば、
最近、よく先生が現れる裏庭に行くようになった、という事だろうか。
裏庭はあたしの泣き場所でもあるから行動は何時もと何ら変わりはなかった。
「また喧嘩でもしてきたのか?」
そう言って先生は何時もあたしの頬の傷口を大きな優しい手で撫でる。
その暖かい手が大好きで、ずっと触れていてもらいたかった。
「こんなのへっちゃらだよ。相手の方がもっと重傷だしさ」
そう言って、へらっと笑うあたしを何だかんだ言って先生は心配してくれる。
そして、何時も大きな手であたしの頭を撫でてくれる。
幸せだった。
「ねえ、先生のアリスって、本当何も効かないんだね」
「カッコ悪いか?」
「ううん、羨ましいんだ」
「アリスなんてない方が断然マシだよ」
あたしは自分のアリスが嫌い。
アリスを盗む、という縁起の悪いアリスが。
どうしてこんなアリスに生まれてきたんだろう、って、
時々、悔しくて、哀しくて、泣いてしまったこともあった。
こんなアリス、いらないんだ。
「どんなアリスだって、その持ち主の使い方次第で毒にも薬にもなる。
大事なのは自分のアリスを信じて愛する事だろ?」
嗚呼、先生は全部お見通しなんだね。
そして…誰も言ったことない言葉ばかりを…
ひとつひとつ……
「お前がこのアリスを持って生まれたことは
きっと、ちゃんと意味のある事なんだよ」
せんせい せんせい
胸がいたいよ
胸がくるしいよ
好きなんだ先生
大好きなんだよ先生…
せんせい……
・
・
あいしてる
「先生がそう言ってくれるなんて夢みたいだな」
「先生と生徒の恋愛も夢みたいだけどな」
そう言って、しわになったベッドの上で笑いあう。
手も繋いだし、キスだってした。
幸せだった。
「愛してる、なんて…嬉しいな」
ベッドの上で先生が言ってくれた言葉にうっとりしていたら
先生が優しくあたしを抱きしめてくれた。
「…俺は何度も言ってるけど、お前は言ったことねえよな?」
「ええ〜っ、ちゃんとあるよっ」
「好き、大好き、は聞いたことあるけど?」
確かにそうだ。
好き、大好きは腐る程言い続けていた。
けど。
まだ『愛してる』は……。
「…は、恥ずかしいんだ…それに…何だか自分じゃないようで恐い…」
そう言って、先生の胸に顔を埋めるあたしの頭を
先生は大きな手で優しく撫でてくれた。
ひとつひとつの言葉と。
時々、撫でてくれるその大きな手が愛しくて堪らない。
「……ゆっくりで良いから、いつか言ってくれな」
「…うんっ、もう少し経ったら、ちゃんとゆったげるよ」
『あいしてる』
言いたいな……。
いつか、もう少し経って、
あたしが自分のアリスに自信が持てたときには…
そのときには……
・
・
「……じ……さつ………?」
急に生徒達が集められ、それは告げられた。
先生が自殺したらしい。
肩の震えが止まらない。
だって、ありえないじゃないか。
先生は、自殺なんかする人じゃない。
誰よりもまともな考えを持っている、そんな人だった。
あいしてる
言おうと思ってたのに。
自信が持てるようになったから…
言おうと思ってたのに。
ー思ってたのに。
「嘘だ!先生は自殺なんかする人じゃない!!!」
『位置に戻れ!自殺したと言ってるだろうが!』
「ちがう…!先生は殺されたんだ…っ!自殺なんかしてない!」
『お前がこのアリスを持って生まれたことは
きっと、ちゃんと意味のある事なんだよ』
先生の言葉が…
ひとつひとつ……
蘇って……
『お前は人のアリスを盗むような奴じゃない』
ねえ、せんせい…
あなたの言葉で、どんなにあたしが救われたと思う?
なのに。
なのに。
こんな終わり方………
『愛してる』
『愛してるよ、柚香』
「…っまだ…言ってないよ…!やく、そ…く…した…っのに…!!」
『……ゆっくりで良いから、いつか言ってくれな』
『…うんっ、もう少し経ったら、ちゃんとゆったげるよ』
言おうと思ってた。
言われたときの先生の顔、想像しながら。
わくわくして。
ドキドキして。
「……せ…んせぇ……っ」
せんせい せんせい
死んだなんて嘘でしょ?
自殺だなんて嘘でしょ?
愛してる、って言ったじゃないか……
「…っふ……う……わああああ…っっ!!!!」
せんせい せんせい
もうここにはいないの?
もう逢うことは出来ないの?
せんせい…
あの日から…
随分、遠く………。
みかん
みかん
「…みかん、ごめんね……」
寒い冬、一人の女の子が誕生した。
END
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…我ながら、書いてる途中哀しくて哀しくて号泣状態でした。
マジで、哀しい……先生…。