何時か、何時か。
また、此処で会いましょう…。









幾千の祈り T





気がついたら、一面、花畑で。
沢山の綺麗な花達がこの場所を埋め尽くしていた。

「……此処、どこ」




此処に来てしまったのには訳がある。
それは、今から、数分前の事。B組は、何時もの様に、元気に学園生活をおくっていた。が、あるタイムトリッパーの男子生徒によって、蜜柑は、どこかに飛ばされてしまったのである。

『あ〜、つまんねぇ。佐倉ってアリス効かねーんだもん』
『ふふんっ、無効化アリスやも〜ん』
『くっそ〜〜…、普通の奴ならこうやってアリスかければ………』

ごおおおおっっっ

『へっっ!!?』
『えっ、佐倉!!??』

タイムトリッパ―の男子生徒が試しにアリスを使ったその時だった。蜜柑の身体は、一気に黒い渦に包まれ、どんどん姿をのまれていった。

『だ、だれか……っ!たす…ッ』

唯一、伸ばされた少女の腕を、咄嗟に向かってきた棗と蛍が懸命に引く。けれど、子供の力では、その黒い渦には勝てなくて。
蜜柑の身体は、完全に黒い渦にのまれ、あっという間に姿を消してしまった。

一気に静かになったB組教室。皆、信じられない事に其処で突っ立っていた。そんな場の中、棗が細い眉を吊り上げながら、タイムトリッパーの男子生徒の胸倉を掴んだ。タイムトリッパーの少年は、びくびくしながら、言葉を失っていた。

『テメェ!!どうんすんだよ!?何とかしろよ!!!』

顔を真っ赤にして怒る少年を前に、タイムトリッパーの少年は、如何し様も出来ず、ただ泣きそうな小さな声で『…ごめん』と謝った。

『謝って済む問題じゃ……っ』
『………蜜柑ちゃん』
『……は…?』
『…無効化なのに……どうして、、蜜柑ちゃん………』

棗がまた少年に突っ掛かろうとした瞬間、一人の女子生徒が言葉を漏らした。
そして、皆その言葉ではっとした顔をする。

確かにそうだ。
何故、どうして。
蜜柑は、無効化のアリスの持ち主。
アリス等効く筈がないのに。

――――どうして……







「だれかあーーーいーひんのぉーーーー??」

花畑の道を踏みながら、広いその風景に向かって声を響かせた。けど、声を返してくる者は居ないし、人気さえない。蜜柑は、ふぅと息を一つ吐くと、ばさっと全体重を花畑に落とし、仰向けになって寝転んだ。その瞬間に、ふんわりと鼻に広がる沢山の花の香り。蜜柑は、一気に目を輝かせた。

「…ぅ〜ん、良い香り…」

犬みたいに、くんくんと花を嗅いでいると。



「おい、其処の犬。どけよ」

どか

急に後ろの方から細い声が聞こえてきたかと思うと、一気に足で腰を蹴られた。蹴られた衝撃で、少しずれたその場所から上半身を起き上がらせる。『…ったぁ』と小さく言いながら、声のした方を見てみれば、其処には、黒髪の鋭い目をした小さな小さな少年が突っ立っていた。
背は、自身より、大幅に下で、年は七、八歳くらいだろうか。けれど、その割には、しっかりしているように見えた。

赤い瞳を睨む形に変えて、蜜柑をぎりりと見下げてくる。
何だか誰かに似ていた。

蹴られた事により、蜜柑は思い切って怒鳴りつけてやろうかと思ったが、相手は自身より子供。
我慢しなくてはならない。

蜜柑は、怒りを懸命に呑み込むと、にっこりと少年に合わせて跪【ひざまず】いた。


「ごめんねぇ、お姉ちゃん何か悪い事しちゃったかな?あ、名前何てゆーの?」
「子供扱いすんな、ブスのくせに」

ぴしり


一瞬、笑顔が引きつった蜜柑だが、此処はリラックスにいこうと、また怒りを懸命に呑み込んだ。
だが、心の中では…

(何やこのガキ!!!ブスは関係あらへんやろブスはああーー!!)

等と思っていた。


すると、蜜柑の事等無視し、少年は無言で花畑の奥の奥へと進んでいく。放っておきたいのは山々だが、今、此処にはこの少年しか見当たらないし、蜜柑は渋々少年の後をついていく事にした。

少年の手には、大きなビニール袋が下げられている。
そして、少年は、無言で花畑の綺麗な花達を次々に小さな手で摘んでいく。


「なあ〜、何しとんの?」
「…………………」


無視。

少年は、蜜柑の存在等無視し、ただ咲いている花を次々に摘んでいる。
けど、蜜柑はめげない。

「なあっなあっ!聞いとる〜??何しとんの???」

蜜柑が二度目の声を鳴らした時、少年は無愛想な顔をして振り向いた。


「花摘んでんだよ。見て分かんねぇのかボケ」


ーボケ。
蜜柑は、その言葉に相手が年下である事を忘れ、思い切り引きつった顔を見せた。
そして、爆発する。


「ブス、ボケって年下のくせに生意気やな!!!花摘んでるくらい
ウチかて分かるんじゃボケ!ウチは何で花摘んでるんかって聞いてんの!
それくらい雰囲気読んで分かれ阿呆!!!!」


思い切り大声をあげた為か、はあはあと息を荒くして、少年の顔を覗いてみれば。

ギロリ


其処には、七、八歳とは思えない程の鬼の様な表情をして睨み込んでくる少年。
周りはどす黒いオーラで包まれている。


「………ちょ、調子こいて……すいませんでした……」


やはり、勝てない蜜柑だった。





色んな事があったが、蜜柑はめげずに少年の後をついていった。
その時にはもう、少年の手に持たれているビニール袋の中には、ぱんぱんになるくらいに綺麗な花が入っていた。

「なあ、何であんたしかいーひんの?もっと人がおってもええ筈やん」
「この場所は、俺と妹しか知らない秘密の場所だ。お前はどうやって此処に来た?」

(妹……?秘密の場所…?)

「……え…ウチも……何で、どうやって此処に来たんやかさっぱり………」


ーああ、そうだ。
ウチって…変な渦に包まれて……それで……………。
でも、何で………?


そんな事を考えて、考え込んでいると。

「……変な奴」


馬鹿にするような感じだったが、初めて少年が笑った。
蜜柑は、その笑みに嬉しくなって、少し調子にのってみる。

「なあっ、名前教えて!?ウチ蜜柑っていうんよ〜!可愛い名前やろ!?」
「……………………」
「そんな恥ずかしがらんでもええってぇ〜!可愛いんやから!!」

「…調子のってんじゃねぇぞ」

「……あ、すいませんでした……………」


やっぱり勝てない蜜柑だった。




沢山の花が入ったビニール袋を手に下げて、花畑からどんどん遠ざかっていく。
夕暮れ時に影二つ、小さく揺れている。

「なあ、家に帰るん?」
「ああ」
「…ふぅん」
「お前、何時までついてくんだ」
「………え」

先頭を歩く少年が、後ろをついて歩く蜜柑の方に向きながら、そう言った。蜜柑は、困ったような表情を見せて『あ〜…う〜…』と不明な言葉を漏らしている。

(……此処どこだかも分からへんし…、帰り方も分からへんし………)



蜜柑は、少年を真剣に見ると、ごくりと息を鳴らした。

「………今日、泊めてくれへん……?」


「………………は?」

「ウチ…帰るとこあらへんねん……」


蜜柑が弱ったような表情を見せると、先程までつり上がっていた少年の眉がその瞬間、緩んだのが分かった。そして、少年は優しい表情で蜜柑の方を見詰める。

「……別にいいけど」

そう素っ気無くなく言い捨てると、少年はまた背を向けて家への道を歩き出した。
思いもしなかった少年の暖かい言葉に蜜柑は、物凄く嬉しくなって、『ありがとう』と大きな声を響かせた。その時、見えないように少年がまた笑んだ気がした。




暫く歩くと、町が見えてきた。
広い道路や、レンガで出来た豪華な家。
田舎では見られなかった都会の風景に蜜柑は言葉を失った。

そして、先程まで無かった人の姿がどんどん増えていく。



けど。
そんな素晴らしい風景の中で、一つだけ気になる事があった。町の人々はお互い明るく話したりしているのに、見ている限りだと、少年が横を通り過ぎようとしても、挨拶をする人は誰一人居ないし、避けようとする人間だって居る。蜜柑はその光景を度々目にして、少し複雑な気持ちになった。

前を歩く少年の後姿は少し寂しかった。


「……なあ、何で誰もあんたに声かけへんの?」


聞いちゃいけない、そう思ったが、思わず口が滑ってしまった。

少年は、ぴたりと足を停止させると、振り向かずにこう言う。


「…お前には関係のない事だ」


どうして、こんなにもこの少年は、物事に無愛想なんだろう。
どうして、こんなにもこの少年は、笑顔を沢山見せないのだろう。


「…………そうやね」


その言葉が合図となって、またその足が動き始めた。








ある家の前につくと、少年は足を停止させた。
見れば、どの家よりも大きいレンガ造りの豪華な家が立っていた。
どうやら、此処が少年の家らしい。

「えええーー!!?此処があんたん家!?」
「煩い。さっさと来い」
「…う、うん…っ」

(坊ちゃんやあ………)

そんな事を考えながら、少年の後ろについて、ドアの前まで歩いていく。


ぎぃぃ……

子供には少し重たいドアを開くと、其処には想像以上に広いフローリングの床。蜜柑がそれを見て、呆然としていると、上の階の方から足跡が慌しく響いてきた。そして、その足音は此方に向かってくる。

「おかえり、お兄ちゃん」

『お兄ちゃん』そう言って姿を見せたのは、茶金の髪の小さな女の子。少年より、一つ、二つくらい年下に見えた。足を怪我してるのか、足に包帯をしており、杖を使って立っているという状態だ。
にっこり微笑んでいる少女は、直ぐに蜜柑の存在に気づいた。


「……お兄ちゃん。誰、その人」


少し恐がった表情を見せながら、少女は少年にしがみ付いた。


「恐がる程のもんじゃねぇよ。ただの阿呆だ」

その言葉に、蜜柑の表情はひきつったが、第一印象を悪くしちゃいけない、と思った蜜柑は、必死に笑顔を作った。

「そっか!ただの阿呆か!私、奈々っていうんだ宜しくね」
「え…あ、ウチは蜜柑。こちらこそ宜しく〜…」

少年の言葉に安心したらしく、直ぐに少女に笑顔が戻った。


(……何か安心されとるよ…)

そんな事を思い、苦笑いしながら、蜜柑はその少女が『天然』である事を確信した。





導かれた居間の室で蜜柑はソファに座って、待っていると、台所の方から二人の声が聞こえてきた。何気なく、覗いてみると、其処には摘んできた沢山の花を妹に手渡している少年の姿。
少女は、嬉しそうな表情を見せて受け取っている。

「お兄ちゃん、また取ってきてくれたんだね、有難う」
「だって、お前の好きな花だろ。言えば、幾らでも兄ちゃんが取ってやるからな」
「ほんとっ?嬉しいなあ〜」

馬鹿にした様な表情は見た事があったが、妹である少女に贈られているのは、明らかに先程とは違う優しそうな笑みで。


(……何や、意外と妹思いなんや………)

ー摘んでいた花は妹の為やったんやね。


その光景を見て、蜜柑は暖かい気持ちになった。そして、バレないように覗かせていた頭を戻すと、ソファにまた深く座り込んだ。


すると、その数秒後に、にこにこした少女が花を持って此方にやってきた。
来たのは妹の方だけで、兄の姿は無かった。

「…あれ?奈々ちゃん、お兄ちゃんはどうしたん?」

そう問うと、妹は、此方に向いてにっこりと微笑んだ。
人見知りはしないし、良い子そうだ。

「お兄ちゃんはね、今、ご飯作ってるよ」

『勿論、蜜柑さんの分も』と最後に付け足すと、少女は、花瓶に水を入れようと、動かぬ足を懸命に杖を使って動かし、洗面所へと向かっていった。
そういえば、もう夕御飯の時間、お腹の虫も丁度良く音楽を鳴らした。


泊まらせてもらっている訳だし、何か手伝う事は無いか、と蜜柑が台所に向かうと、人参【にんじん】等を慣れた手付きで切っている少年の後姿が見えた。
蜜柑は、その包丁さばきに釘付けになって、無言で少年の隣につくと、じーっとそれを見詰めた。


「……上手いなぁ」
「何時も作ってるから」


何時も作ってる?
何でこんなに小さいのに。

まだ幼い頃は、普通親が作るものではないのか。
そういえば、先程から親の姿を目にしていない。



「……なあ、お母さんとか、お父さんは?」


その言葉を口にした瞬間、少年の横顔がひきつった。
けど、それは一瞬だけの事で、それは直ぐに無愛想な表情に戻った。


「……居ない。急にどっか消えたらしい。金だけ残して」


その言葉に蜜柑は言葉を失った。
何でこんな事聞いてしまったのだろう、後で後悔した。


「…金さえあれば、どうにか生きてくれるとでも思ったんだろ」


その時の少年の表情は、重く、冷たく、悲しかった。



暫しの沈黙。
けれど、蜜柑はそれに耐えられなくて。

「あっ!ウチ何か手伝お思うて来たんよ!何か手伝う事あらへん?」

そう明るく言うと、少年に今までの表情が戻ってきた。

「…じゃあ、冷蔵庫から玉葱【たまねぎ】取って」
「はぁい」


そう言って、慌しく冷蔵庫へと走っていく。家が豪華な為か、台所は広い。冷蔵庫の場所へ行くのに無駄に足を使う。
どでかい冷蔵庫を開け、玉葱を探す。けど、先程の事を思い出して、何気無く少年の後姿を見た。

けど、其処に映った光景は。


ボッ

その音と共に目に映った赤い其れは、火。
焜炉【こんろ】でつけた火じゃない、それは手から………。




「…あんた!何しとるん!!?」


その場所から、大声をあげると、少年が此方を振り向いた。

「…んだよ。鍋に火つけようとしただけじゃねぇか」
「………そうやなくて……」



人差し指の先から出ている真っ赤な火は、今だメラメラと燃えている。
それは、幾らか見た事がある。
そして、自身がよく知る人物に、全く同じ事が出来る人物が居る。



(………………これって………)


NEXT
-------------------------------------------------------------------
※タイムトリッパーの少年は人を時空におくりこむ力を持っている、
という事にして下さい。

すいません…まだ他の連載物が終わってないっていうのに…(汗
何かこれ自分を追い詰めてるだけのような気がする…。
だって、ネタが…ネタが浮んでくるんだもん……。
少年が誰だが気づいてる人は気づいてると思います。
まあ、その答えは第二段で。