何時か、何時か。
また、此処で会いましょう…。
幾千の祈り U
何も出来ずまま、刻々と時間は過ぎていった。
蜜柑が渦にのまれて、あっという間に長い時間が過ぎようとしていた。とっくに下校時間を過ぎていて、何時もならば、皆すっきりとした表情をして帰っていくのだが、蜜柑が居なくなってしまった今、B組生徒達全員と、鳴海先生、岬先生等、教室で皆何も言わずに暗い顔をしていた。
そんな中、一人の女子生徒がぽつりと言葉を漏らす。
「……蜜柑ちゃん、今どこに居るのかなあ…………」
ー戻ってこれるのかな
そう付け足した。皆、その言葉にぴくりと反応を示したが、どうにも言えず、ただ下を俯いていた。
タイムトリッパーの少年が行ったアリスだ。
蜜柑が未来か、過去か…どこかの時代に飛ばされたのは分かる。
けれど、その場所が分からないし、タイムトリッパーの少年も、今回の事件については、自身とて理解出来ない事で、タイムトリッパーの少年もどうにも出来なかった。
「……ごめ、ごめん……おれが……あんな事…した、から……」
「今回の事については事故だよ、君は悪くない…」
涙をぼろぼろと流しながら跪【ひざまず】くタイムトリッパーの少年の頭を優しく撫でながら、鳴海はそう言った。
本当ならば、タイムトリッパーの少年が気を集中させてアリスを使えさえいれば、蜜柑はタイムトリッパーの少年の操作によって、帰ってこれたり、他の時代に移されたり出来るものだ。けれど、今回については、蜜柑が無効化のアリスだった為、タイムトリッパーの少年はアリスが効かないという事を決め込んでいた。だから、あの時、気を集中させずに油断して、蜜柑を自身の知らない場所に送り込んでしまったのだ。
だが、無効化のアリスを持つ蜜柑が、何故このような事になってしまったかは、今だに謎である。
「……くそっ、どうすりゃいいんだよ…ッッ」
ガン!!
「………なつめ……」
蜜柑が居なくなった事で、苛立ち、棗が近くにあったゴミ箱を思い切り蹴った。赤い瞳は狐のように吊り上り、炎のように燃えていた。それを見て、流架が辛そうな表情をしながら小さな声で棗に話し掛けたが、棗はその言葉さえ聞こうとしなかった。
そんな時、荒れている棗に、蛍が無言で近づく。
「自棄【やけ】にならないでちょうだい。
あんただけ辛い思いをしているだなんて思わないで」
その言葉を受け取ると、棗は小さく舌打した。
『あんただけ辛い思いをしているだなんて思わないで』そう言った顔は、何時もと同じ無表情だけれど、その奥深くには、辛さと、不安さが見えた。
蛍、生徒達、先生達とて皆蜜柑が居なくなった事が辛くて堪らないのだ。先程までも、必死に蜜柑を此方に戻ってこさせる方法等、皆案を出しあっていた。けれど、方法は思うように見つからず、何時の間にか皆何も言わずに俯いていたのだ。
その時、思い出したようにタイムトリッパーの少年が声をあげた。
「……出来るかどうか分からないけど…
佐倉を戻ってこさせる方法があるかもしれない!」
下を俯いていた生徒達や、先生が顔を上げると共に大きな声をあげた。
・
・
・
「いただきまーす」
白い湯気のたつ三皿の美味しそうなシチューを囲みながら、三人はスプーンを動かし始めた。そんな和やかな風景の中、一人だけ、ツインテールの少女が険しい表情で隣に座る少年をじーっと見詰めていた。
ー少年は、確かに指から火を出していた。
一旦、軽く流されて、今の和やかな食卓に至る訳だが、どう考えてもあれはアリスだ。それも、そのアリスと来たら、自身がよく知るあの人物と同じ………
「見てんじゃねーよ、ブス」
見詰めていた事がバレたのか、隣の少年が、持っているスプーンで、蜜柑のデコを軽く叩いた。何時もならば、反抗する蜜柑だが、今はあの火の事が気になって怒る気にはなれなかった。だから、何も言わずにシチューをスプーンですくうと、一口ぱくりと口に入れた。
もぐもぐと、頬張れば、この小さな少年が作ったとは思えないくらいの美味しさが口に広がり、目が手品みたいにキラキラと輝いた。
やはり、食い気ある少女は、火の事より、今はシチューに気がいって…
「……めっちゃ美味しいね、このシチュー」
何時の間にか、シチューに心を奪われ、黙々とそれを食べていた。
そんな蜜柑の一言を聞いて、妹がにこりと笑う。
「ふふふっお兄ちゃんお料理上手なんだよ」
何時の間にか打ち解けて。
「へぇ〜!このシチューもめっちゃ美味しいもんねっ」
食卓では、和やかな、えへへ、ふふふといった声がずっと響いていたという。
ザアーー
夕食が終わり、台所では、水の音とガラスがぶつかり合うような音が響いていた。
少年が夕食に使った皿等を洗っているのだ。
「へぇ、お皿洗いもちゃんとやるんやね」
「俺がしなくて、誰がやる」
「そうやね」
食器を洗う指を見てみれば、今まで気づかなかった傷だらけの指や、腕。まだ、この年だ、食事を作ったり何だりで負った怪我であろう。
そんな事を考えてぼーっとしていると、また先程見た火の事が頭に蘇ってきた。そのせいで突然黙り込んでしまった蜜柑を疑問気な表情をして少年が食器を洗いながら顔を覗いてきた。
「どうかしたか」
「えっ!ううんっ、何でもないっ!ウチ手伝うよ!」
「…いいけど、絶対に皿割るなよ?」
「まかせて!」
会話が終わると、蜜柑は、手っ取り早く少年が洗い終わった皿等を手に取ると、机の上に置いてあった布巾で軽く水気を拭き取る。
けど、そんな時にもあの火の事が浮んでしまって、頭から離れなかった。
何かの間違えだと、必死に思うようにしたが、そう簡単に見てしまった光景というのは、離れてはくれず。蜜柑は、考えないように少年に咄嗟【とっさ】に浮んだ話題を持ちかけた。
「あっ、あの…名前なんていうん?ええ加減教えてくれへん?」
少年の名前。
初めて会った直後も何度か聞いた筈だが、少年は何も思うのか教えてはくれなかったのだ。
だから、今、聞けなかった答えを質問する。
「……あれ。言ってなかったっけ」
少年は、『あ。』というような表情をした。
如何やら、本当に言うのを忘れていたようだ。
ーそして、名を言う口が動く。
「――…なつめ
――――――日向 棗」
冷たい風が吹いてきたような気がした。
NEXT
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はあい、お解りのとおり、棗君でしたー。
もうほとんどは私のアレンジ加えてますーー。
今回は短くしました。ってか前のやつが長すぎたんです。
さてさて、蜜柑が戻ってくる方法とは。
そして、その後の蜜柑の行動とは。
ご期待無しを!(何それ