何時か、何時か。
また、此処で会いましょう…。
幾千の祈り V
がしゃんっ!!
「…ってめ!落とすなっつったのに……っ」
「…あ!ご、ごめん…!!」
上手く行き過ぎた事実に唖然とし、思わず『落とすな』と言われていた持っている皿を落としてしまった。
こんなことってあるのだろうか。
何かの間違いじゃないのか。
それか、ただ名前が同じってだけ………
でも
『…んだよ。鍋に火つけようとしただけじゃねぇか』
ー出来すぎている…。
忘れる事を大得意とする蜜柑だが、今回については思うように忘れる事は出来ない。それが感情に出すぎて、文句を言いながら皿の破片を拾っている少年の目の前で不自然にぼーっと立ち尽くしてしまった。
それに気づくと少年は、しゃがみ込んだ体勢のまま不思議そうに此方を見上げてきた。
「おい?何ぼーっとしてんだ」
その言葉で蜜柑は一瞬我に返り、慌てて自身が落とした皿の破片を少年の横で拾い始めた。そんな蜜柑の姿を、当然少年が不審に思わない筈がない。
「…俺の名前聞いてからお前変じゃねぇか…?」
そう静かに問うと、蜜柑は不自然にぶんぶんと激しく首を振った。気になっている事を然も気になっていないように演じる事は蜜柑にとって一番の不得意とするものだった。
「べ、別になんでもないんよっ。気にせんといて…!」
蜜柑が無理矢理会話を終わらせた事により、その晩は直ぐに就寝になった。少年は、気になるのか寝る直前まで蜜柑に問い続けていたが。
当然、蜜柑は眠れる筈がない。
もしかしたら、と思ったある少年の事。
予想は当たった。
顔付き、性格、名前…そして火のこと。
当てはまりすぎているのだ。
壁にかけてあるカレンダーを見ればよく分かった。
2003年12月09日(仮です;)
(ウチ……棗の過去に来てもうたんや………)
・
・
・
「えっ!?チビちゃんが!!?」
一方現代の方では、何故か殿の姿が加わっていた。殿の増幅の力でタイムトリッパーの少年のアリスを大きくさせれば、どうにかして蜜柑を此処に戻せられるかもしれない、とタイムトリッパーの少年が自ら考えついたのだ。
偶然、学園に居た殿は、鳴海に急に此処に連れてこられ、聞かされた事実に唖然とした。
「…チビちゃん……
少しは自分のアリスをコントロール出来るようになった筈だろ…?」
「それがよく分からないのよ…。とにかく先輩に協力してほしいの…」
「…それは全く構わねぇけど……」
蛍がそう言っても、殿は直ぐには行動しなかった。突然聞かされた事実があまりにも衝撃的なものだったからだ。
呆然としている殿に苛立ったのか棗は、急かすように背の高い殿の胸倉を無理矢理掴んだ。
「…ッ動揺してる暇はねんだよ、さっさとしやがれ」
初等部程のタイムトリッパーのアリスは長時間未来や過去に居られる事は出来ない。飛ばされた一定の場所の空気を長時間吸ってしまうと現代へ戻って来られなくなってしまうのだ。
増してや、飛ばされたのはタイムトリップを力とする人物ではない。慣れていない力に浸る為、尚更早く帰って来る事を必要とするのだ。
何時もは、反発してくる棗に言い返したりする殿だが、それを考えると直ぐにタイムトリッパーの少年の方向に足を進めた。それに、何時もの様に棗と言い合っている程の気力は殿にも棗にも当然ないのだ。あるのは、蜜柑を取り戻さなくてはという気持ちだけ。
静まる生徒達に囲まれて、それは始まる。タイムトリッパーの少年は、教室の真ん中で何かを願うように両手を囲み、何処にいるかも分からない蜜柑を如何にかして操作しようと気を集中させた。さらに、同じように気を集中させた殿が、手をタイムトリッパーの少年の頭に乗せた。
途端、爆発したように光に包まれる教室。その眩しさに誰もが目を瞑った。
・
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「…っ!?」
空き部屋のベッドで眠れない瞳を懸命に瞑らせていた時、急に蜜柑は幻覚を見た。自身が浮いてどこかに飛ばされている。周りを見れば、よくアニメ等(ドラ○もん)で目にする時空の光景とやらが広がっていた。
色は黒や紫で、幾つもの時代を示しているであろう時計のようなものが一緒に幾つも浮いていた。
そんなものはアニメでしか通用しないものだと思っていた蜜柑はそれを夢だと思い、あまり慌ててはいなかった。
そう、それは蜜柑が此処に飛ばされてきた時にも通った時空の道。しかし、その時蜜柑は気を失っていた為か覚えてはいないのだ。だから今、タイムトリッパーの少年によって自身が本物の時空を彷徨っている事等思ってもいなかった。
「うわあ〜っすごい夢やなあっ」
完全にそれを夢だと思い、楽しんでいた直後、急に蜜柑の身体は停止し、ある時計に向かって突撃しようとした。行き成りの事に吃驚し、『ぶつかる!』そう思い、目を瞑った。
しかし、何時になってもぶつかった痛みは訪れず、代わりに何か地面のような場所にすとんと下りた気がした。
刹那感じたのは、聞こえてくるキリキリと耳に嫌でも響く人間の悲鳴と、めらめらと肌を刺激する熱い何かの存在だった。
瞬間に恐れを感じ、恐る恐る瞑っていた瞳を開けた。
其処には……
「…な、なんやこれ………」
映し出されたのは火の海。火に焼かれる人も居れば、巻き添えを喰らった少女を必死に助けようとしている家族の姿もあった。悲鳴をあげながら逃げる人々は狂ったように蜜柑の横を走り抜けていった。
絶望的な光景だった。
心が痛かった。
火は、町全体に広まっていた。あまりにもリアルすぎて、蜜柑は言葉を失った。本当にこれは夢なのだろうか、確認するように勇気を振り絞って燃えている木に手を伸ばしてみた。
熱さを感じなければこれは夢、しかし熱さを感じれば……
「……っひぁ!!!」
伸ばした手は、じゅっと惨い音をたてて真っ赤になった。蜜柑は鋭い声を出して伸ばした手を引っ込め、身体の力が一気に抜けたのか思わず其処に座り込んだ。そして、動揺しながら真っ赤になった手を冷やすように自らの息を吹きかける。
ー夢じゃなかった。
そして、もう一つある事に気づく。火の広がるこの町の風景は、よく見るとあの少年の町の風景に似ていた。
真っ赤に燃えている為、よくは分からないが何となくそんな気がする。
どうして?
何時の間にこんな?
それに先程通ったあの不思議な空間は…
ーあれは本物の時空の渦だったのだろうか。
蜜柑は今更気づくと、何を思うのか火から逃げてくる一人の男性の腕を引いて止まらせた。当然、男性は吃驚して蜜柑の方に振り向く。
「なんだいあんた!?」
「す、すいませんっ…今日って何日なんですか!?」
「はあ!?あんたそんな事聞いてる場合じゃないだろ!?」
火に慌てている男性は、蜜柑にそう怒鳴って掴まれた手を振り解こうとした。しかし、蜜柑はその手を離さない。
「…っお願い!何日かだけ教えてくれればいいんです!!」
「何なんだよ!?…っ12月の11日だ!11日!分かったら離してくれ!」
男性はそう慌てて言うと、一気に掴まれた手を振り解いて火のない場所へと逃げていった。蜜柑は、空き部屋にかけてあったカレンダーを思い出した。確か、あの時見たカレンダーには『2003年12月09日』と書いてあった筈。
そして、先程男性に言われた日にちは……
ー11日……
(…あれから2日後や………)
「なつめぇーーー!!奈々ちゃーーん!!」
二人はどこにいるのだろう。
とにかく蜜柑は二人の姿を探そうと必死に逃げ回る人々と反対に、火の方に走っていった。先程負った火傷の痛みに耐えながら、蜜柑は暫く燃え上がる火の中を探し回ったが二人の姿は思うように見つからない。
しかし、そんな時。少年のような細い叫び声が聞こえた気がし、蜜柑は声の聞こえた方に振り向いた。そして、その方向へと走っていく。
目に映ったのは、めらめらと燃える火の姿と、燃えて既に黒くなった家に飛び込んでいくあの少年の姿。
必死に『奈々』と呼んで、灰になって崩れた家を漁っていた。
「…なつ……ッ」
その場から、少年の名を呼ぼうとしたがその光景と、少年の様子を見て呼ぶ名を途中で止めてしまった。
一体、少年の身に何が起こったのだろう。
其処に奈々と呼ばれる妹の姿はなかった。
知りたくなかったが、その光景である程度想像はついた。
それは、本当に本当の絶望だった。
・
・
「……ごめん…っなんか操作が暴走するばっかりで…思うように……ッ」
タイムトリッパーの少年と殿の操作は、まだ続いていた。しかし、思うように上手くはいかず、タイムトリッパーの少年は梃子摺っていた。それを見守る生徒や先生達にも焦りが走る。
「多分…っ今佐倉は色んな時代に飛ばされている状態だと思う…。
なんだか映像が見えてきて…火のような……」
タイムトリッパーの少年が気を集中させてそう呟いた時、蛍が何を思うのか動き出した。生徒達が不思議そうに見ている中、蛍は何処から取り出したのかある機械を持ってくると、ヘルメットのような形の部分をタイムトリッパーの少年の頭に被せた。
さらに蛍は、大きなスクリーンを取り出すと、それを皆に見やすいように壁にかけ、ヘルメットとセットになっていた機械のボタンをぽちっと押した。
途端、大きなスクリーンに映し出されたのは蜜柑が今居る火に覆われた町の様子。如何やら、この機械は人が感じているものを映像として人に見せる事が出来る機械ならしい。しかし、初等部であるタイムトリッパーの少年の力はまだ未熟であり、電波が悪い上映像も悪かった。
映像を見た途端、ざわつくB組。
「…何だよこれ…火…?佐倉こんなとこに居るのかよ……」
一人の男子生徒がそう言って『ねえ棗さん?』と棗に持ちかけた。しかし、映像を見詰める棗の姿は何時もと少し違っていた。言葉を失ったようにその画面に釘付けになっている。何かその映像に覚えがあるかのように。
様子の違う棗の姿にその男子生徒と、流架は気づいた。
「…なつめ…さん……?」
それは、嫌でも覚えているあの残像に似ていた。
忘れたくても忘れられない、あの映像に似ていた。
「……棗…佐倉が居る時代って……」
「…そんなん…ありえねぇだろ…気にすんな流架…」
「……………うん……」
有り得ない。
そんな筈がない。
あいつがあの日に行く必要なんて無いじゃないか。
「佐倉だ!佐倉が映ってるぞ!!」
「あれ!?誰だろあの男の子…!」
「〜〜!!?」
「……!!」
有り得ない。
そんな筈がないんだ。
でも、目に映ったのは確かに……。
それは、あの燃える赤い日。
俺が何もかも失ったあの日だった…。
NEXT
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大分遅くなってしまい申し訳御座いません;
幾千の祈りを愛して下さっている方をメールで知り、我に返って大急ぎで続き作りました。こんな小説や、こんなサイトを愛して下さるなんて本当嬉しい事です(涙)
妹の名は適当です(凝るのもあれなんで…)
さてさて結構話が進みました。どうなることやら…。