どうか、私を愛して下さい。
どうか、このバラの花弁が全て散ってしまう前に―。





J e t ' a i m e . < 7 >
― 愛しています ―




「…何や外が騒がしいなあ……」

家に戻ってから次の日の朝。外の騒がしさに蜜柑は目を覚ました。祖父も起きたが、まだ体調は回復していない為動けなく、蜜柑が代わりに外を見に行く事にした。
ぎぎっと年期の入ったドアを少し開け、覗くと、其処には大きな馬車。そして、その隣には見た事もない年配の男と、その隣にはなんと殿の姿があった。周りには、ざわざわと此方を見てくる住人達が居た。

蜜柑は、不思議に思いながらその馬車と殿達に近づいた。

「…あの…何しとるん?」

そう問うと、殿は此方に気づいて驚いた表情をした。
しかし、その表情は直ぐににやりと不気味な表情に変わった。


「蜜柑ちゃんのじいさんを引き取りに来たんだよ」

急に飛び込んできたその言葉に蜜柑は直ぐに理解が出来ず、きょとんとしていた。だが、もう一人の年配の男の胸にある名札のマークで蜜柑は顔色を変えた。
そして、殿に掴みかかる。

「な、なんで…っっ。そのマーク…病院じゃ…っ!!」

そう叫ぶと、マークを付けたもう一人の年配の男が馬鹿にしたような表情で此方に近づいてきた。そして、西の森の方向を見上げると、ふんっと鼻で笑った。

「お前のじいさんが、西の森に大きな野獣が居ると法螺を吹きまわったんでな。
そんな嘘を流されちゃ迷惑なんだ」

そういうと年配の男は、他の仲間達に祖父を家から連れ出すように命じた。途端、ばたばたと強引に男達が祖父を連れ出そうと家に入っていった。
蜜柑は、慌てて男達を止めようと腕を引っ張った。しかし、男の力というものは強く、蜜柑は簡単に引き剥がされると地面に叩き落されそうになった。しかし、そんな蜜柑を殿が技とらしく受け止めた。そして、蜜柑に猫なで声で囁いた。

「…可哀想な蜜柑ちゃん。じいさんは、頭が可笑しくなっちまったんだよ。
まあ、俺が止めてやってもいいけどな」
「…っ!?」

殿は、そう言うと強引に蜜柑を自身と向かい合わせにし、にやりと不気味に笑んだ。

「その為には、俺と結婚してもらう」
「…っ!?いやや!何で……ッ」

「ふぅん。じいさんはどうでもいいの?」

けらけらと笑いながら言ってくる殿は、蜜柑が何時も見てきた殿とは全く違った。しかし、それは蜜柑が鈍感であっただけの事。村の住人の殆どは、そんな殿の本当の姿を知っていった。勿論、祖父もその事を知っていたから、蜜柑によく気をつけろと注意をしていたのだ。
蜜柑は怒り奮闘。眉を大きく吊り上げて、思い切り殿の頬を引っ叩いた。そして、抱かれていた手から逃れる。

「こんなん殿やない!!
ウチが知っとる殿は、もっと優しうて……!!」

そう叫んだ途端、殿の表情が一瞬冷たくなり、蜜柑は言葉を止めた。

「…優しくなんかないよ。優しく見せてただけだ」

蜜柑はその言葉に真っ白になり、言葉を失った。


「…とにかく、じいさんは頭がいかれてる。
蜜柑ちゃんだってそう思ってるんだろ?野獣なんて存在する筈がないんだ」

そう冷たく投げ捨てると、祖父を馬車に乗せ、殿が来るのを待っている男達の方に殿は向かった。しかし、後ろから蜜柑が殿の腕を引っ張り、それを止めた。

「っ待って!じーちゃんは可笑しくなんてない!
野獣はほんまにおるんや!今、証拠見せるから…っじーちゃんを連れていかへんで…!!」

蜜柑は涙を流しながら殿に向かって叫ぶと、自身のポケットの中にあった鏡を取り出し、それを見詰め、必死に野獣の事を願った。
すると、鏡には蜜柑が願ったとおり、大きな野獣の姿が映し出された。それを見た殿は、一瞬たじろいだものの、気を取り直し、蜜柑の鏡を奪うと、それを村人に見せつけ、こう告げた。

「これを見ろ村の者!!この野獣は人を襲う!
子供なんかひとたまりもないぞ!今のうちに退治しなければ!」

思いもしなかった殿の行動に、蜜柑は慌てて鏡を取り返そうとした。しかし、殿は返してはくれず、そのまま村人に叫び続けた。

「…やめて!!違う!!野獣は人なんか襲わへん!!鏡を返して!!!」

諦めずに鏡を取り返そうとする蜜柑に、
殿は一つ息を吐くと、困った表情で、蜜柑を見下げた。

「諦めてくれ蜜柑ちゃん。君は恐い目にあって混乱しているだけだ。
俺達がこの野獣を退治する。そうすれば、蜜柑ちゃんも安心してじいさんと暮らせるんだぞ?」
「違う違うっ!!野獣はそんなんちゃう!!見かけよりもずぅっと優しい人で…っっ」

そう言った途端、また冷たく変化した殿の瞳。
蜜柑は、その変わり様に思わず息を呑んだ。


「……まるで、野獣に恋してるような口ぶりだな」
「……えっ…」

蜜柑の反応を見終えると、急に殿は無言で蜜柑を抱き上げ、近くにあった地下室の中に蜜柑を乱暴に放り込んだ。

「…ぎゃっ!ちょ、何を…っっ」
「おい、お前ら。じいさんもこの地下室に入れろ」

計画を変更したのか殿は、馬車の周りを囲んでいた仲間達にそう命令した。仲間達は、馬車の中で弱々しく倒れこんでいる祖父を抱き上げ、蜜柑の居る地下室の中に祖父も閉じ込めた。
殿は、冷たい表情のまま、がちゃりと鍵をかけ、その鍵を蜜柑達が取れない場所に投げ捨てた。

「…っ出して!お願い…!!」
「大丈夫だ。きっと退治してやる。
蜜柑ちゃんは、それまでじいさんとその地下室で大人しく待ってて」

そう一言言って、殿は、村人に無理矢理退治道具を持たせ、西の森に向かって行った。蜜柑は、小さな手でがしゃがしゃと力の限り地下室の戸を揺らしたが、鉄で頑丈に作られているそれはびくともしない。力尽きて、蜜柑は、へなへなと其処に座り込んだ。

「…っう…、ウチがいけへんねん…っ。
ウチが鏡を見せへんかったら…!棗に危ない事知らさへんと……っっ」

泣いてしまった蜜柑の頭を、祖父は弱った手で撫でてやった。

「……蜜柑、お前が悪い訳やない。全て殿が仕組んだ事じゃ…」

そう言い終わった刹那、急に地下室の戸ががちゃがちゃと勝手に音を立てた。そして、一気に真っ暗だった地下室に光が差し込み、戸がぎいぃとゆっくり開いた。
ぽかんとした蜜柑達の目の前に現れたのは城に居る筈の小さなティーカップの姿だった。

蜜柑は、声をあげ、ティーカップに駆け寄った。

「…る、ルカぴょん!!何で…っ!もしかしてついてきてたん!?」

小さなティーカップを持ち上げて蜜柑がそう言うと、ティーカップは少し照れた表情をしながら、小さくこう呟いた。

「……棗が危ないんだろ?早く城に戻らないと…っ」

その瞬間、戻ってきた光。そして希望。笑顔。

「ありがとうルカぴょん!!」
「…っうん!早く!!」





「なつめさま」

城の廊下を歩いている途中、後ろから洋服箪笥が野獣の名を呼んだ。

「…スミレか」

野獣は、蜜柑の事で頭が一杯なのか、洋服箪笥の方向に顔を向けもせずに、そのまま足を進めた。洋服箪笥は、もうっと一つ息を吐くと、小さな身体でこつんこつんと野獣を追う。

「…っ少しお尋ねしたい事が御座います」
「忙しい。後にしろ」

そう適当に言い捨てて、自身の部屋に入ろうとした直後。


「……蜜柑、という娘の事で。」

その言葉に、野獣の足が止まった。




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じ、神野せんせーーーー!!!!(何
なんか…すいません…。
書くうちにどんどん適当というか意味わかんなく……。


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