どうか、私を愛して下さい。 どうか、このバラの花弁が全て散ってしまう前に―。 J e t ' a i m e . < 3 > ― 愛しています ― コンコン。 小さくドアをノックする音が聞こえ、蜜柑は『はぁい』と軽く返事をしてドアを開けた。だが、目の前には何も見当たらず、蜜柑は、きょろきょろと右左と辺りを確認した。 「こんにちは、お嬢さん。ご機嫌いかが?」 透き通った綺麗な声音がどこからか聞こえ、蜜柑は頭上にハテナマークを浮かべた。 「…だあれ?」 「ここよ、ここ」 適当な方向に問うと、自身の真下から、また透き通る綺麗な声音。 ゆっくりと、下を見てみると、其処には丁寧にお辞儀をする澄ました表情の小さなティーポットが一つ。 「…ぽ、ポットが喋ったっ!」 先程まで蝋燭と喋っていて、慣れている筈なのに、蜜柑は次から次へと出てくる不思議な城の仲間達に一々驚いた表情を見せた。 その驚いた表情を見て、クールなティーポットがふっと嘲笑う。 「これぐらいで驚いてちゃいけないわ」 『この城にはもっと凄い事が沢山あるんだから』とティーポットは付け足した。 その直後、ティーポットの後ろから、カツンと何かがぶつかってきた。ティーポット自身も驚いて、蜜柑も何気に音の聞こえたティーポットの後ろを見やると、其処には、少し拗ねた感じの小さなティーカップ。 「待ってよ、蛍…もう、進むの早いんだから………」 「あら、ごめんなさいね、流架」 また目にした不思議な光景だが、蜜柑は今回のティーカップの登場は驚かなかった。何故なら、『可愛い』と思う気持ちが強かったからだ。 蜜柑は、目をきらきらとさせて無言でティーカップを掌で持ち上げた。その瞬間、目があったティーカップは、照れるように顔を真っ赤にさせた。それが一段とまた可愛い。 「良かったわね、流架」 と、ティーポットが二人の光景を眺めて面白そうにそう言った。そんなティーポットの冷やかすような態度にティーカップは気づくと、顔を真っ赤にしながらもくしゃくしゃな表情を作って、ティーポットに見せ付けた。 「び、美女だとは聞いていたけど……ほ、本当に…そ、その……か、かか…」 「…うん?」 『可愛い』そう言いたいのだろうか、シャイなティーカップは、『か』の次が言えず、ただただ顔を真っ赤にしていた。また、鈍感な蜜柑も、ティーカップが何を言おうとしているのか理解が出来ず、頭上にハテナマークを浮かべていた。そんなティーカップと蜜柑の面白い光景を見て、またティーポットが冷やかすように笑む。 「…可愛いって言いたいんでしょ?」 やはり言ってしまったティーポットにティーカップは、ぼんっとおもちゃみたいに顔を先程よりも真っ赤にさせた。 そんなティーカップに蜜柑は少し照れながらも『有難う』と返した。 それから、ティーポットはティーカップを連れて、蜜柑の断り無しにずずいと部屋に入っていった。其処でお出迎えしてくれたのは、蝋燭の姿。 「あれ、誰かと思ったら蛍さんだったんだ」 ベッドでくつろいでいたらしく、ティーポットの姿を見ると、蝋燭は焦ったように、ばっと飛び起きた。蝋燭は、何だかティーポットのクールさや、無敵なオーラに逆らう事が出来ず、『蛍さん』と、さん付けで呼んでいるのだった。 「あら、鳴海いたのね」 笑顔を見せず、無表情でそう言うと、ティーポットとティーカップは同じベッドの少し離れた位置に腰掛けた。そんな態度に蝋燭は苦笑いするしかなかった。 だが、そんな事でへこたれない蝋燭は、何を思うのか、自身の灯を蜜柑の方に近づけた。 「今さっき、着てもらったんだけど、どうかな?」 少し気を使いながら、鳴海が灯で映し出したのは、蜜柑が着ているドレス。先程の汚いドレスを脱ぎ、其処に映し出されたのは、きらきらと光るピンク色のレースの入った綺麗なドレスだった。垂れ下がっていたいた髪は、綺麗に上で束ねられていた。 その姿を見て、ティーポットは、笑顔を見せて、ティーカップは顔を真っ赤にさせた。 「暗くて気づかなかったわ。よく似合っているじゃない」 そうティーポットが言うと、ティーカップも『うんうん』と何回も頷いた。 「…そ、そうかな?ウチ、こんな豪華なもん着た事ないよー」 うろうろと落ち着きのない行動を見せる蜜柑にティーポットは優しく笑いかけた。 「綺麗よ、蜜柑」 急に言われた励ましの言葉と、急に呼ばれた名前に、蜜柑は何時にもなく顔を真っ赤にさせた。作りは綺麗なのに、心は男前のティーポットに、蜜柑は怪しい気持ちを感じるのだった(笑) ティーポットは、そんな間抜な蜜柑の表情を見て、『嘘に決まってるじゃない』と冗談だが、痛い毒舌を飛ばすと蜜柑は泣いた。 そんな二人の光景に蝋燭とティーカップは戸惑うのだった。 そして、やっと話は本題に入る。 「あ、そうそう。蜜柑、お腹空いてないかしら?」 その途端、蜜柑のお腹から、ぐぅぅと小さな可愛らしい音が響いた。その刹那、蜜柑は顔を真っ赤にさせてお腹を抱える。 その音にティーポットは、素直にふっと嘲笑う。すると、ティーカップが恥ずかしがりながらも蜜柑の所に寄ってきた。 「夕食食べようよ!棗と一緒に!」 『なつめ』その言葉に、蜜柑は理解が出来ず、頭上にハテナマークを浮かべた。聞いた事もない名前が行き成り飛び込んできたからだ。 「…えっと、なつめって?」 そう問うと、辺りは少し、しーんとなって、その間から蝋燭が少し曇った笑みを見せながら蜜柑に近づいてきた。 「…ああ、殿下の事だよ」 『殿下の名前は棗って言うんだ』と付け足すと、蝋燭は黙った。 蜜柑が、その言葉を聞いた瞬間、顔を引きつらせたからだ。 そして、下を俯いた。 「…悪いけど……それは出来ひん…」 やはり、祖父との事を思い出してしまうのか。 そのきっかけを作ったあの野獣と一緒に夕食を食べる等、出来る訳がないのだ。 そんな蜜柑に、ティーカップが必死になって言う。 「な、棗は…、時々人に誤解されるような事しちゃうけど…っ! でも、本当は優しいんだっ…!だから…ッッ」 「流架」 言おうとした瞬間、ティーポットがそれを止めた。ティーカップは、ぐっと堪えて下を俯くと、すすすとティーポットの後ろに身体を隠した。 暫しの沈黙。だが、それを破ったのはティーポットだった。 「…いいのよ。食べたくないならそれで」 「……………ごめん………」 蜜柑が小さく最後に呟いたその時だった。 途端、ドアがドンッと激しく叩かれるような音がした。 蜜柑は、驚いて、少しだけそのドアに近づいた。 だが、叩いた人物は、中に入ろうとはせず、其処で話し出した。 「…俺と……食べるのがそんなに嫌なのか………?」 野獣だ。どうやら、先程までの話を全て聞いていたようだった。ドアを間に喋る野獣の声は、何時にもなく弱弱しく、今にも死んでしまいそうなくらい悲しかった。 蜜柑は、下を俯きながら、ドアにもっと近づくと、右手だけドアに触れた。 「………ごめん……なさい……」 ドアの向こうに聞こえる少女の声に、野獣は物凄く辛そうな表情をした。野獣の隣にちょこんと立っている小さな置時計【岬先生】は、静かに野獣にアドバイスを送る。 「…殿下。女性には優しくなければいけませんよ」 野獣は、その言葉に反応して、息をごくりと飲んで心を入れ替えると。 「……っ一緒に……食べない、か……?」 そう控えめに優しく問うた野獣だが、蜜柑はやはり一緒に食べようという気にはなれず。 「…ごめん」 それだけ言った。 その刹那、先程よりも激しいドアを叩く音が響いた。 その音は凄まじく、部屋にいる者が全員耳を塞ぐ程に大きな音だった。 そして、野獣が怒鳴る。 「…ッそんなに嫌ならそこで一生閉じこもってろ!! 俺と共に食うというまでは何も食わすんじゃねぇぞ!!」 どかどかと部屋を離れていく大きな足音は、どんどん小さくなっていき、直ぐにそれは消えた。蜜柑は、断った事に少し戸惑いを感じたが、それはそれで良いと思った。 こんな気持ちのままで食事をしても、野獣に憎しみを感じるだけだし、全く野獣と喋る事等何も無い。あるとしたら、苦情、暴言だろうか。 野獣が去った後、後に残されたのは、途方に暮れる家具達と、何も言えず、ただ下を俯いている蜜柑の姿だけであった。 ・ ・ ・ 「…バラは、もう萎【しお】れ始めている」 ある真っ暗な部屋の家具に置かれている花瓶の何本ものバラを見詰めて置時計は言う。目線の先のバラ達は、大分前から存在しているらしく、十束近くあるバラの殆どは、カラカラに枯れてしまい、地面に落ちていた。 残るは、数本にしか及ばなかった。 時計の隣に、蝋燭も近寄ると置時計と同じく深刻な表情をした。 「…岬。でも、殿下は………」 そう、蝋燭が置時計に言おうとすると、置時計が急に此方を真剣な瞳で見てきて、その言葉は止まってしまった。 「……鳴海。殿下が心を開かなければ彼女とて心を開かないだろ」 「だけどさあ……」 「まあ、まずは彼女の名前を聞くところから始めないとか?」 「…あ」 置時計のその言葉を聞いて、蝋燭は『そうか』というように声を漏らした。その表情を見届けると岬は、蝋燭に向かって苦いような微笑みを見せた。 「…仲良くなるのはそれからだ」 そう笑みを見せながらそう言うと、蝋燭もその笑みに向かって笑みを返した。 「…そうだね!」 二人、共にその真っ暗な部屋を出た。 ------------------------------------------------------------ ちなみに、みんな蛍ポットおかんには勝てません(オーラで負ける) ティーカップである流架の『か』シーンは原作の「眠りの森の白雪姫」にて。 どうしても、鳴海と岬のツーショットシーンを書きたかった!! →4へ進む |