(棗くんと蜜柑ちゃん)
溢れんばかりに雪が積もっていた放課後。
雪は、まだ止む気配すらなく、その真っ白な結晶を振り撒いていた。
そんな雪の姿を教室の窓からツインテールの少女が興味津々に覗いている。少女の親友は先に寮に帰ってしまったらしく、少女は一人教室に残っていた。
親友に置いていかれた事で先程まで沈んだ気持ちになっていた少女だが、その雪の姿を見た途端、その沈んだ表情は、笑顔に変わっていた。雪のお陰だろうか。
「わあっ、きれー!」
誰かに語りかけている訳でもなく、自身に語りかけている訳でもない。独り言だ。やはり、まだあどけない幼い子供。雪の姿には、その口元は思わず緩んでしまう。
すると、急に教室の戸が開き、少女しか居なかった教室に見慣れている黒髪の少年が入ってきた。
「…お前、まだ居たのか」
なんだなんだと此方に振り向いた少女の姿に気づくと、少年は小さくそう呟いた。見れば、少女の表情はにんまり笑顔で。少年は不思議そうに眉を捻った。
そして、その表情のまま、何となく蜜柑が腰掛ける机の間隣に自身もよっと座り込む。
「なに笑ってんだよ」
「だって!ほら雪降ってんやんっ!」
雪、そう言って指を差された窓に目をやると、其処にはしんしんと降り続く真っ白な雪。その雪の姿を見て、少年は一瞬目を見開いた。
興味が無かったのか、何なのかはよく知らないが、雪が降っていた事に言われるまで全く気づかなかったのだ。
しかし、その時の反応は、少女とは大きく異なっている。やはり、興味がないのか少年は自身の席にかけてあるカバンを肩に背負うと、さっさと教室を出ようとした。
「棗、帰るん?」
くるり、と雪の景色から少年の方に顔を向け、少女は少年の後姿に問うた。しかし、捻くれた少年は言葉を返す事もなく、挙句の果て足を止める事もなく、少女を無視して教室を出ていこうとする。
少年が帰ってしまえば、一人になる。つまらない、そう考え、少女は正に今教室から姿を消そうとしている少年の後姿にまた声を掛けた。
「なあっ、雪で遊ばへん?」
・
・
それは少年の意志なのか、それとも少女に強引に連れてこられたのか、少年は少女と共に初等部前の庭に居た。
外に出た瞬間、降りてくる数々の雪の姿に感動した声を漏らした少女に対し、少年はぶるっと肩を震わせ、寒そうな様子で両肩を抑えた。その姿は、かったるそうにも見える。
「…さみぃ」
「あんた、そんなに帰りたいんかい」
諦めな、そう付け足した少女の言葉で、少年が少女に無理矢理此処に連れて来させられた事が分かった。
大きく深呼吸してからその白い地面に背中から倒れ込む。ぼふっと冷たいクッションが背中に心地良い感触をおくってくれた。
しかし、その気持ち良さは背中だけであり、何も覆われていない素足には少しきついものがあった。その刹那、思い切り飛び上がる少女の身体。
「…つっめた!!!」
「馬鹿か、お前」
少女のそんな姿を今だに突っ立っている少年が上から見下げるように馬鹿にする。憎たらしい少年の表情を、足だけ浮かせた状態で見上げ、少女は拗ねたように頬を膨らました。
それからというもの、少女は少女で降り積もる雪で雪だるまを作ったりと、彼女なりに楽しんではいたが、少年は雪に見向きもせず、ただ其処でだるそうに突っ立っていた。
そのせいか、少女が雪合戦をしようと少年に雪の固まりを投げつけても投げ返そうともしない。完璧に冷めている。
「なあ、棗。雪嫌いなん?」
「嫌いっつーかウザい」
嫌いなのか、と問うと直ぐにそう返ってきた。そう即答で答えてしまわれ、蜜柑は思わず眉を困ったようにU字に捻った。
しかし、直ぐにその表情は、何かを思いついたようにぱっと明るくなった。
「棗っ!雪でいっぱい遊ぼ!きっと遊べば楽しなるで!」
雪を好きにならせたる!そう少女は付け足し、少年の返事等聞かずにまた雪の固まりを少年に投げつけた。鋭い速さで少年に向かって行った雪の固まりは見事に少年の顔面に的中。
その見事な光景に、蜜柑が大きな口を開けて大笑いすると、鼻を赤くさせた少年はやはり腹を立たせ、自身も蜜柑に雪の固まりを投げ返した。
少年の顔面に雪がぶつかった事によって初めてまともな少年と少女の雪合戦という名の遊びが始まる。
暫くそれが続くと、無表情だった少年の表情は穏やかに変わってきた。少女は、投げ回る雪の間からそれに気づくと、一旦雪を投げるのを停止させた。
「…なあ、まだ嫌い?」
確認を取るようにそう少女が問うと、少年は何も言わずに此方に歩み寄ってきた。
しかし、何だか分からないがその時の少年の表情に違和感を覚え、少女は本能的に後ろに引き下がろうとした。が、地面に積もる雪は想像以上に深く、足は思うように動かない。
足にばかり気をとられていた顔を、また少年の方向へと向けると、もう少年の顔は目の前にあって。
声を発する間もなく、ぼふっとの音と共に少女は簡単に少年に其処へ押し倒された。
「…な、つめ……?」
行き成りの事に焦る感情も、怒鳴る勢いも無かった。それに小学生の知恵だ、異性に押し倒されて、この先何が起こるか等考えてもいないのだ。
少女のそんな考えが本来普通の小学生としては当たり前なのだろうが、恐らく少年は違うだろう。
真剣な紅の瞳に釘付けになっていると、少女をその位置から見下げる少年が口を開いた。
「…嫌いではなくなった。お前のお陰で」
「……ほんまに…?」
幾らこの状況であれども、少年の思いがけないその一言は少女を嬉しくさせた。その刹那、きょとんとしていた少女の表情ににんまりとした笑顔が表れる。
そんな悪の無い少女の表情は、少年の悪戯に余計火を付けるだけでしかなかった。
きゃらきゃらと其処で単純に笑う少女を上から見、少年はそのまま少女に向かってにやりと悪戯っぽい笑みを見せると、そのまま唇を少女の唇に近づけた。
「…こうするには丁度良いし」
その瞬間、少女は初めて焦りを感じ始める。逃れられないように少年の手で抑えられた少女の手は、先程から素手で雪を弄っていた為か、ガチガチに震えており、押し上げる力もない。
ならば、足で蹴り上げれば良い。そう思ったがやはりこの雪や、寒さからの為か身体の体力までも完璧に奪われていた。身体が言う事をきかないのだ。
それを含めて少年は『嫌いではなくなった。こうするには丁度良い』そう言ったのだ。それにやっと気づくと、少女は今更残った力で暴れ始めた。
しかし、それは男の力というもので簡単に封じられてしまう。今だ自身を見下げて笑んでいる少年をどうする事も出来なく、少女はただ睨み込んだ。
「…あほう…棗のあほ…」
「…アホで結構」
雪がしんしんと降り続く中で、静かに甘い口付けは降ってきた。
深く深く、降り続く雪を包み込むかのように。
文句を言いながら、それでも身体を預けてしまうのは、やはり自身が少年に弱いからであろう…。
「…なつめ、唇冷たい…」
「……お前もな」
最終的にはこんな甘い展開に繋がってしまうんだ。
そう思うと、自然に呆れたような溜息が漏れた。
「もう雪の日には棗なんか誘ったらん…」
雪はまだ止みそうにない。
snowy day
(しんしん と降る雪の中で)
*
あ〜何だかいつも最終的に何が言いたいのか分からん作品になってしまう。