「それは両者同じこと」
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顔全体を引っ張った変顔状態を、少女は少年に見せ付けた。黒髪少年の隣に座っているフェロモン少年も、茶金髪の少女のその顔には思わずたじろいでしまった。黒髪少年はただ無表情を返している。そんな二人に構わず、茶金髪の少女は限界までの所謂変顔を作り、黒髪少年に見せた。クラスの雰囲気も悪くなる一方である。
「…さ、佐倉……もうそのへんで…」
「いーやや!絶対いやや!」
一回目の休み時間からずっとこの調子だ。中等部から自然と付き合い始めた黒髪少年と茶金髪の少女には現在あるトラブルが起こっているのだ。
「ぜーーったい棗を笑かすんや!!」
先程からの行動はこれ。クールな少年は、たまに優しい笑みを見せてくれる事があり、其れに少女も嬉しく思っているのだが、少女は其れだけでは足りなかった。
面白い事を言っても、笑顔を振り撒いても、少年は無愛想面。笑顔の少ない少年に、少女は怒りを感じているのだ。
「好い加減、諦めろ」
「いやや!お願いやから笑って!!」
「無理」
「お願い!」
「いやだ」
「きぃーーーっっ!!!」
ぴしゃりと言う少年に、少女は更に怒りを覚えた。そして更に変顔をして少年に近寄る。二人の間には火花が散っており、フェロモン少年は二人を止めようとただただ焦っていた。
すると、急に少女が後ろから何かに引っ張られ、少年から離れていった。
「…見苦しい顔これ以上見せつけないで、迷惑よ」
救世主の発明少女だ。発明少女の胸に背中から落ちた少女は一度吃驚したが、発明少女の顔を見ると、直ぐにその表情は笑顔に戻った。
そして発明少女に引っ張られ、少女は引き摺られていく。誰もが安心した瞬間だった。
解放された少年が居眠りに移ろうとすると、引き摺られながら少女は叫んだ。
「…っ棗の頑固!!!」
黒教師に呼び出しされていた為、少し遅れて教室に戻ると少女がいた。
喧嘩しても何しても、そんな事直ぐに忘れる少女は、何時も少年を待っていてくれるのだ。彼氏彼女なのだ、無論一緒に帰る為に。其の瞬間、苛ついていた心は、癒しへと変わった。
「あっやっと来た!はよ帰ろ!!」
笑顔で迎える彼女に、少年は休み時間の争いの事を振り返りながら、少女が馬鹿という事を改めて確信した。
然し少年は、切り替えの早い少女とは違った。根に持つタイプなのだ。少年の脳裏には少女に言われた「頑固」が浮んでいた。
「…俺が記憶力良いの、知らなかったか?」
そう静かに言うと少年は、椅子に座る少女の肩を抑えて其の侭キスをした。行き成りの事に少女は硬直して何が起こっているのか理解出来なかったが、少年が舌を入れてきた事により覚醒した。
抵抗し始める少女の肩をぐっと押して、細長の椅子に押し倒す。唇を首元に移して吸い上げると少女が怒鳴った。
「や…っやめろ馬鹿!!!」
其れでも聞かず、少年が少女の微かな膨らみに手を移すと、少女が無理矢理飛び上がった。
そして少年から素早く逃れると教室のドアに怒りながら向かっていく。それから勢い良く少年の方に顔を向けると、こう叫んだ。
「っ変態!馬鹿!そ、そういう事は結婚してからや!!」
「…じゃあ、結婚するか?」
「……っあほ!!!!!」
真っ赤な顔をして少女は教室を出ていってしまった。
結婚するまでお預けなのかと考えると可笑しくて堪らない。愛らしい少女は、付き合ってから大分経つというのに身体の関係を今だ許してはくれない。真面目で、奥手で、そして…
「…お前だって、頑固じゃねえか。」
少女に触れた微かな温もりを掴み取る様に拳を握ると、教室を出て少女を追いかけた。
きっと怖がりな少女は一人じゃ帰れないだろうから。
少年が微かに笑っているだなんて、多分少女は気づきはしないだろう。
END
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高等部に近づくくらいの中等部の二人。
あえてノーコメント。