『このバカ泣かしていいのは、あたしだけだから』
ーだった筈なのに。


「下剋上はもう近い」


自身の何時もの名を呼んで腕にしがみ付いてきた親友は泣いていた。その阿呆面が気に喰わなくて、デコピンを喰らわしてやると親友は余計に泣いた。
「…何泣いてんのよ。まさかさっきあたしがあんたのチョコ食べた事まだ拗ねて…」
「違うっ…!蛍…やなくて…………棗が…っっ」
「……………え……?」
いつしかあの子は、あたし以外の外道に泣かされるようになった。それはそれは、当たり前のことのように。いつしかそれは日常茶飯事となっていて。
気に喰わない。



「蜜柑が一生懸命作ったアクセサリー壊してんじゃないわよS野郎。あたしが特注ハンマーで後でぶっ壊してやろうと思ってたのに」
「うるせー…」(てめぇも十分Sだ…)


済ました表情でさらっと短い黒髪を耳にかけて何時もこう言うんだ。
これがあたしの決め台詞。
「あたしの蜜柑、泣かさないでちょうだい。
あのバカ泣かしていいのは、あたしだけだから…」


これで大抵、彼は諦めて立ち去る……
筈だった。


「…そのバカを泣かす権利はお前にくれてやる。
けどな
そのバカを"鳴かしていいのは"俺だけなんだよ」

彼は自慢気にそれだけ言ってひらりとあたしの前を立ち去った。
何よこれ。
まるで何時もと正反対。
唖然。

嗚呼、どうして男ってもんは成長するつれにあんなオゲレツな事を言えるようになるのか。そして、何時かはあたしの大事なあの子を連れ去っていくんでしょう?
所詮は友情。恋愛に勝てっこないのは承知の上で。けど、その所詮の友情だからこそ大切にしたいと思うのは私の間違え?

「…あのバカ泣かすのも、"鳴かすのも"当分はあたしが許さないから……」
ーそろそろ焦った方が良いかしら?


END
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何時しか友情より恋愛に気がいってしまう時が来ます…(かな?)
ってことで蛍の複雑心を描いてみました。
最初は蛍が勝者だったが多分成長するつれに棗さんが上になっていく。