いつだっただろうか。
あの恐ろしい火の海を見たのは。
いつだっただろうか。
最後にあの愛しい声を聞いたのは。
赤いメモリー [18.嘘の約束]
親の顔は見たことがない。
物心ついたときには、もうすでに血縁のない世話係がついていたから。
親は、家と金と、俺と妹を置いて消えたらしい。
理由を聞いても誰も答えてくれない。
妹は、明るい、とても素直な子だった。
親が居ないと知っているのにも関わらず、自分に明るい笑顔を見せてくれる。
その笑顔で俺は支えられていた、と言っても可笑しくはない。
とにかく大好きだった。
いつも、俺の周りをうろちょろして、時々転んだりして危なっかしい。
『お兄ちゃん』
いつもそう言って笑顔で近寄ってくる。
危なっかしいからほっとけない。
危なっかしいからいつも俺が傍に居てやった。
親なんか要らない、と。
こいつさえ居れば何も要らないと。
ずっと、こいつを守っていこうと、そう思っていた。
だけど、悪夢はすぐにやってきた…。
何回も叩くノックの音に妹は気づき、ドアを静かに開けた。
家に流架意外が訪ねてくるなんて珍しい。
そのとき、もうすでに恐怖は迫っていた。
「ここに、十歳くらいの男の子は居ますでしょうか」
妹は、何か寒気のようなものを感じ、『居ない』と答えたらしい。
黒ずくめの男達は素直に帰って行った。
それはそれで終わるかと思っていた。
けど。
「またですか、何の用です…」
また、それは来た。
全身黒ずくめの男たち。
「やはり、当てはまるところは此処しかないようです。」
――…いるんでしょう?秘めた力を持った少年が。
「…秘めた力をも、った…少年…?」
「そんな奴居るわけねーだろ」
「お兄ちゃんっ!」
「やっと、顔を見せてくれたね……日向 棗くん」
―…どうして、名前を。
『君には、特別な力がある。他の人間にはない特別な力が。
その力を私達に貸してほしい。そうすれば君だって立派な人間になれる』
どうだ、私達のところへ来ないか?
バン!!
「お前もドア抑えろ!」
「…うんっ!」
『そんなことやっても無駄だよ、私達は君が必要なんだ』
――――――――……
その日は、その男達は何もせずに帰っていった。
少しだけ安心したが、横で震えている妹の見たこともない表情に思わず息を呑んだ。
とても深刻な顔をして、涙を浮かべている。
「…お兄、ちゃん……行っちゃう、の…?」
(――――…私達のところへ来ないか?)
「お兄ちゃ、ん…っ、行かない、で……ッ」
一人にしないで、と。
置いていかないで、と。これ以上――…。
置いていくわけがない。
置いていけるわけがない。
置いていけるもんか。
何言ってるんだよ…
「俺は…ずっと、お前の傍に、いる、から…」
そう、ずっと。永遠にだ。
愛してるから傍にいられる。
愛してるから傍にいたい。
俺は、母や、父なんかと一緒じゃない。
・
・
・
・
・
「―…お兄ちゃん!!あの人たち追ってくるよ!!」
はあ…ッはぁ……ッ
逃げても逃げても追いかけてくる。
隠れても隠れても見つけられる。
「……お前はここで待ってろ」
「…でも………」
「お兄ちゃん絶対戻ってくるからっ。
あいつら倒して……すぐにお前の傍に帰ってくるからッ」
絶対…帰ってくる、から。
「……約束だよ…?」
指きりげんまんっ、嘘ついたら針千本のーますっ
指きった
「お兄ちゃん、大好きだよ」
涙を流しながら、笑顔で手をふって。
待ってるから、って手をふって。
『お兄ちゃん、大好きだよ』
それが、最後の言葉になるとは、その時は思ってもいなかった。
ズットマッテル
ダカラ ハヤクカエッテキテネ…。
・
・
・
・
ハァッハァ…ッ
「いくら逃げたって無駄だ、大人しくこちらに来なさい」
「お前ら…ッ何か勘違い、してんじゃねぇのか…!?」
俺には、特別な力なんてない。
「まだ、自分の力に気づいていないようだね」
「なんなら、今試してみようか」
「……ッ!?」
「今までにない怒りを露にしたとき、君の力は現れる」
今までにない、怒り……?
何を言っているんだ、一体…。
「そうだな、何がいいか。ああ、、、君の妹なんてどうだろう?」
―――…!?
「何をする気だ!?」
「実験だ。君の妹を殺してみよう」
(お兄ちゃん……)
「…何言ってんだよ!?妹は関係ねぇだろ!!?」
『おい、お前ら。日向 棗の妹を連れてこい』
「やめろ!!あいつを殺さないでくれ!!」
(大好きだよ…)
――オニイチャン……
ヤメロ!
――…ヤメロ!!
「ヤメロ!!!!!!!!!!!!」
約束だよ…?
ワアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!
――――――――――……!
気づけば、あたり一面が火の海だった。
どこを見ても、どこを見渡しても全てが赤だった。
火が家に。火が木に。火が人間に。
変な声が聞こえる、沢山。
うめき声のような、悲鳴のような。
何が起こったかわからない。
いちもくさんに家に向かう。
走って 走って。
何かにとりつかれたかのように、必死で。
家で愛しい妹が待っている筈だから…。
――――…けど…けど……。
「…………な、い…」
家が、ない。
全部、ない。
何もかも。
妹の姿も…な、い…。
『絶対帰ってくるから……』
『約束だよ…?』
約束した。
小指と小指を固く繋ぎ合わせて。
「…兄ちゃん……帰ってきた、ぞ…」
「……おい…?」
指きりげんまん、したのに。
『お兄ちゃん、大好きだよ』
待ってるんじゃなかったのか。
「……うっ……ッ…」
ズットマッテル
ダカラ ハヤクカエッテキテネ…。
声が聞こえない。
いつも傍にあった筈の声が聞こえない。
どうしたの?
どこへ行ったの?
俺の愛しい妹は…。
「…………やく、そ…く……っ」
――――…俺は妹を殺した。
END
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志村風、棗の過去です。書いてる途中、本当に泣きそうになりました。
自分が書いたのに…。だって、悲しすぎる…。
大好きだったのにね、妹さんのこと。