「きっと、それはまだ先」


隣の少女は、きゃらきゃらと可愛らしい笑い声を出す妹分だ。
実際血が繋がっている訳ではないが、ギャグを言うと大笑いしてくれる所だとか、自分を慕ってくれる所が妹の様だった。中でも、頭を撫でてやると嬉しそうに綻ぶその顔が、可愛らしくて堪らない。現実、自身には妹がいなかったので、少女の事は妹の様に可愛がった。それに、妹が欲しいと思っていたし。
兄弟愛として、独り占めしたいと思った。
『翼先輩、お話しよー』
少女が暇だと言うので、放課後の特力部屋で会話をする事にした。自身も暇だった為、タイミングが良かった。其れに、少女からの誘いが何よりも嬉しかった。
「ほんでなーっ棗がまた〜〜〜…」
眉を捻りながら愚痴を溢す少女の言葉に、何か違和感を感じた。何時もはこんな気持ちを感じる事は無かったのだ。寧ろ、少女のそんな愚痴を面白そうに聞いていた。
然し多分其れは、以前の少女の愚痴の中に"想い"が無かったからなのだろう。
「〜んでな、ウチは悪くなかってんけど棗が…」
「…なあ、蜜柑。お前って、最近棗のことばかり話すよな?」
机に張り付いた体勢で少女の顔を覗きながら、ニット帽の少年は苦笑いしながら問うた。其の言葉に少女は一旦硬直し、ぽかんとした表情をすると、直ぐに椅子から飛び起きてオーバーなリアクションをした。其の意味有り気な少女の反応に、少年は面白くない顔をした。
「…っええーー!!?そうやったかな!?」
「あー、棗ばっかー」
「えーーっ…」
また椅子に座り直した少女の頬は、トマトの様に真っ赤だった。そして何か焦っている様な戸惑っている様な表情をしている。其れで全てを悟ってしまった。机に寝そべっていた身体を起こして、何も無かった様な表情を演じて問うてみる。

「好きな訳?棗のこと。もしかして」
そう思い切って問うてみれば少女がまた勢い良く椅子から飛び起きた。そんな何度もやっていたら椅子が壊れるだろ、少年はからかう様に付け足すが、実際は面白くなかった。
少女と話す度に少女の性格や人柄を知り、絶対にこの少女は恋愛には無縁だと思っていた。例え恋愛に目覚めたとしても、其れはもっと数年先の事かと思っていた。妹として少女を大切に思っていた自身には、正直ショッキングな現実だった。
「…っ違うよ!ウチあいつのこと大っっ嫌いやし!!」
「そうは見えないけど?」
「っっほ、ほんまに違うんよ!!」
分かり易いなあ、そう思い真っ赤になる少女を見ながら少年は溜息を吐いた。何だか苛々してきて少女の頭をぐりぐりしてみれば、少女が高い声で泣き叫んだ。そんな少女も愛らしかったが、そんな少女をあの黒髪少年が何時も見ていると思うと腹が立った。
最近では黒髪少年も自身に可愛い所を見せる様になってきた。距離も一歩近づけたかな、という実感もある。然し、其の少年はこの少女が好きで、この少女も少年が好き…この状況はあまりにも複雑だった。素直に喜ぶべきのめでたい両思いが、憎たらしい両思いに変わりつつある。あの無愛想少年が憎たらしい。
「ウチのことばっか言うけど…っ翼先輩こそ好きな人いーひんの?」
「…え、俺?そんなんいねえに決まってんじゃん」
ここは"お前だよ"と言ってみた方が良いのだろうか。いや然し、自身の少女への愛は恋愛とは違う訳だし。そんな事を考えて自分の世界に入っていると、少女が問うてきた。
「美咲先輩は?」
そう言われて心の中では否定していなかった。勿論、本心だとしても少女とは違うのでオーバーリアクションもしない。恋愛に切り替えればそりゃあそう納得されても否定はしないが、今の自分は"兄弟愛モード"であり、今は自分より少女が気持ちが気になっていた。
惨い事なのか、其れはよく分からないが、正直言って今の自分には少女が何より大切だった。
「さあな。まあ言える事は、あいつにとっての俺はただの腐れ縁だよ。
…って事で、俺の話はどうでもいい。お前だっ!」
「っえ!?」
「正直に言え。お前は棗が好きなんだろ?」
ここまでして少女の本心を聞く理由があるのだろうか。そうは思ったが、今の自分は其れが気になって仕方が無かった。曖昧な答えじゃ、多分寮に戻ってから考え込んでしまう。だから、いっそのこと少女の口からはっきりとした真実を知ってしまった方が、どちらかというと楽なのだ。
少女は膝の上で両手の拳を握りながら戸惑っていた。頬はこれまで以上に真っ赤で、目が泳いでいる。其れは答えを物語っていた。そして噤んでいた口は静かに開いた。


「………な、なんか知らんけど……好き…なんよ……」
ちくり、と胸の内側らへんが痛かった。馬鹿な妹は、如何し様も無いことしかしないくせに、心は一丁前に成長してるのか、そう思うと何だか切なかった。きっと他の奴等が知ったら笑うだろうけど、自身にとって少女は、自慢の可愛い女の子で、手放したくないたった一人の妹だった。
人はそんな自身を、シスコンと呼ぶだろう。でもその言葉に否定はしたくない。
気づいたら少女の小さな腕を引いて、この胸で抱きしめていた。少女は行き成りの事に吃驚していて、でも抵抗はしなかった。愛しくて、愛らしい少女の温もりをこの手に感じた。
「…つばさ……せん、ぱい……?」
「……カッコわりぃー…寂しいなんてよ…」

ーこの腕の中に、ずっといりゃあ良いのにな。











「…お。」
部屋から一歩出ると、例の少年が其処にいた。少女が部屋に入っていくのを最初から見ていたのだろう。自身の顔を見た少年は、さらに細い眉をカーブさせた。さすがだな、そう心の中で思っていると少年が睨みをきかせながら足を蹴ってきた。
「…あいつ、いるんだろ?」
「さあね〜。どっちだと思う?」
「てめえ、燃やすぞ…」
「相変わらず可愛くねえなあ。蜜柑なら中で寝てるよ」
送っていってやれよ、そう言い終わる前に少年は無視して中に入っていこうとした。其の後の状況が脳に浮ぶ。きっと痴話喧嘩の様なものをして、最後には良い感じで帰って行くんだろう。
そう考えると何だか気に喰わなくて、思わず胸がずくんと痛んだ。そう簡単には掻っ攫ってもらいたくはない。ニット帽の少年は、少年に再度話し掛けた。


「…なあ、良い事教えてやろうか?」
ドアノブに掛けた手を一旦停止させ、少年は『あ?』と無愛想に反応した。
先程の少女との会話が脳裏に浮んでくる。



『正直に言え。お前は棗が好きなんだろ?』


たまには少年にも良い思いを味合わせてやろう、そうは思っていたが。
どうも自分は、卑怯なようで。






「ー蜜柑、俺のことが好きなんだって。」
そう自慢気に言ってみた時の、少年の間抜な顔が面白かった。
「…は?」
少女と少年の幸せ、運命は誰にも邪魔出来ない。別に少女と少年がくっついたって良いと思う。少女が少年の事が好きでも良いと思う。少女さえ幸せならそれで良いのだ。
けど、幸せになんのは早すぎやしないか?まだ少女を俺のものにしておいても良いだろう?


「んじゃな。」
娘はまだまだ当分渡さない。


END
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ってか翼は兄っていうよりお父さんだよね、でもなんか書くとき面倒になるから兄で。
多分、修正するだろうけど。
ネタに書き留めといたやつ書いてみた。元のネタと大分違うけど。
個人的にこういう翼先輩大好きなんですけど駄目ですかね…。
個人的に自分の中でマシな作品です。
あ、なんかずれてますけど兄弟愛ですからね、兄弟愛。