(棗くんと蜜柑ちゃん)
彼女が授業中寝るだなんて何時もの事。
寧ろ、授業中でなくても何時でも、少し耳にくる鼾【いびき】を出して寝ている奴だ、こいつは。授業中寝るのは自身も同じだが、本気で睡眠に入る事は滅多に無い。然し彼女は本気で寝る。
普通男子というのは好きな女子の寝顔を見ると自然と興奮してしまう生き物なのだが、自身はそんな彼女を見て何も思わなかった。いや、何も思えないのだ、こんな女らしさも無い寝顔を見て。
然し、今日は違った。
お昼も済み、五時間目。隣の彼女は睡魔と闘っているのか、がくっと首を下げては戻す、其れを繰り返していた。食事をした後の授業は眠気が襲う、其れは皆思っている事。其の隣でMDを聴いていた自身は、其の様子を何気無く横目で覗きながらも特に何の反応もしなかった。其れが何時もの事だからだ。
(…そのうち、机に頭が落ちて、寝始めるんだろ)
そう何時もの様に一つしか無い答えを予想する。
彼女の頭は、かくかくと上下に振る回数を増してきた。
そろそろ落ちる。そう思ったのだが、刹那、予想もしなかった出来事が。
こつん
「!?」
揺れていた彼女の頭が、何を思ったのか瞬間的に左右に揺れ、其の勢いで彼女の頭は彼の左肩に。予想外な出来事に、彼は思わず耳に入っていたヘッドホンを落としそうになってしまった。微かに、左耳に流れてくるのはとても安らかな寝息。其の寝息には少し寝言の様なものも混ざっている。
「…な……つ………待た…ん…かい…」
自身を追っている夢でも見ているのか。
夢でも俺は…、そう思うと自然と口元が緩んだ。
然し、
ー之は、どうしたら良いものか。
柄にも無く、焦っていた。何時もの彼女を見すぎていた為か、こんな静かで穏やかな彼女を見慣れていないのだ。調子が狂う。でこぴんをして起こしてやろうとも思ったが。
今のこの状況を壊し、彼女を押し戻し…たくは、無い。其れに、嬉しいのも確かだ。
「はあ」
隣の親友は、其れに気づいていないし。
他の生徒は、真面目に授業を聞いているし。
ー席は一番後ろだし。
「…起きんじゃねーぞ」
とりあえず、そっと寝顔にキスをした。
そっと寝顔にキス
をして
(ちいさな愛をひとつぶだけ)
*
はい、またまた過去ネタ。
なんか棗くん視点ばっかだな、元からか。