(棗くんと蜜柑ちゃん)
目が覚めたら、愛らしい寝顔が其処にあった。
赤子の様な寝息をたてる彼女の顔を見て、正直自身は目を見開いた。
ーああ、そう云えば昨日は……
思い返すのは昨晩の彼女との取り組みで。信じられない気持ちがまだ自身にはあって、思わず頭を掻いた。
起きてから直ぐに窓のカーテンを開けるのは日常茶飯事。理由は、少しでも光に当たりたいから。
何時も考えたくもない、思い出したくもない夢を見る。目覚めは最悪だ。だから、助けを求める様に光を探す。太陽の光を。然し、闇を吸い込み過ぎたこの身体は、光に照らされても癒されないのが事実。どれも無意味だった。
けど、何だか今日は違う。身体全身を太陽の光が包み込む。
目に見えるものがどれも輝いて見える。
「…ん…なつめ…?起きたん…?」
ー彼女の力なのだろうか。昨晩、自身等はひとつになる事を誓った。彼女の肌に触れる事に手先から光が生まれる様だった。今までの汚れが洗い流される様で。浄化される様で。
しあわせだった。
「おはようっ。起きるの早いんやね」
「お前が遅いだけじゃねえの」
なんやとーっと掛け布団で身体を隠しながら怒る彼女は少しぎこちない。昨晩の事を思い出してしまったのだろうか。そんな所が堪らなく愛らしい。
気分が良い。珍しく。こんな気分、何十年ぶりだろう。肩に圧し掛かっていた荷物が無くなったみたいな感覚だ。
ぎしっと彼女が包まるベッドに軽く腰掛け、彼女の頬に手を滑らせると彼女の頬は一気に熱を帯びていった。其の侭、硬く瞳を瞑る彼女に優しく口付ける。
彼女が何時もより倍増に綺麗に見えて、栗色の透き通る髪も金に見えた。
何時だったか、彼女が言っていた言葉が急に蘇る。
彼女が自身に言った…
ーあの言葉。
『…なあ。棗には見えへんの?』
『何が』
『空の星や!星!さっきからきらきらして綺麗やんか!』
『………………』
自身には何も見えない。空の星も。輝きも。
ただ、ひたすら見えるのは先の無い真っ暗な闇。
視界が曇る。
『……見えねえ』
『えーっほんまに見えへんのー!?』
『………わから……ない……』
星の色も、大きさも、どんなものかも分からない。
太陽の光も、月の光も、みんな忘れた。
全てを無くしたあの日から、全部見えなくなった。
『可笑しいなあ。でもきっと何時か見えるで。きらきら』
あの時は理解出来なかった。阿呆らしいと思った。
何が"きらきら"だ。
実際、自身には見えなかったじゃないか。
光なんてなかったじゃないか。
愛しくて。恋しくて。
幸せな時間が今此処にある。
もう大分前から欲しかったものが此処にある。
時間をかけて…やっと……
ーみつけた。
『でもきっと見えるで。きらきら』
彼女の放つパワーは人々を癒し、救い、光を照らす。
信じられないくらい。この身体を。心を。
「…なつめ……大好き……」
暗闇から光が。
暗闇を光が。
見慣れない光景。
輝きが…光が……。
ーこれは、何だろう…?
きらきら
きらきら
『…なあ。棗には見えへんの?』
きらきら
(暗かった視界が、今は何だか眩しくて)
*
お久しぶりです。かなり文を書く手が鈍っています志村です。
最後には見えましたよ、という話。
すごい単純だ、ごめんなさい。小説じゃないこんなの。