「切ないね。」
如何しても気になってしまった。少し遅れて教室に入ってきた少年の身体には、何時しか見たあの傷が何箇所も埋め込まれていたから。頬、首、手、足、幾つも痛々しい傷跡を残し、黒猫の仮面を付けていた。直ぐにあの人物の所為だと分かった。
だから、早退してしまった少年の後を追い、自身も早退をした。そして、部屋の前まで行き、今に至る。
こんこん、と小さくドアをノックするが反応が無い。
「…棗?ウチやけど、開けて?」
言葉を漏らしても、やはり反応が無い。何時もなら自身の声を聞けば迷わず開けてくれた筈だ。それに、初等部卒業と共に自身等は恋人同士だから。
何度ノックをしても出て来ない。然し、まさか、と思いドアノブに力を入れれば鍵は空いていた。無断で入るのも如何かと思ったが、如何しても気になったので其の侭ドアを引いて、中に入った。
部屋は電気がついておらず、真っ暗だった。若しかして、本当に居ないのだろうか。そう思い、身体をくるりと回れ右させ、部屋を出ようとした。
然し、微かに人の息の様なものが。
何か水の様な音が聞こえた気がした。
「………なつ、め?」
ぱち、と壁にある電気を付けると、其処には下を俯きながらベッドに座り込む少年の姿があった。然し、名前を呼んでも反応をしない。ずっと、下を俯いている。
「……泣いて、るん…?」
そう問うと、微かに少年の肩が揺らいだ。其れを確認すると、少女も泣きそうな表情をしながら少年に近づいた。そして、俯いている少年の頬を両手で包み込み、そっと上に持ち上げる。
少年の紅の瞳は少し黒ずんでる様に見え、目尻には微かに水が流れていた。上半身裸だった少年の身体には痛々しい傷が幾つも浮かび上がっていた。こんな仕打を受けて、辛く無い筈が無い。涙を流さない筈が無い。今まで我慢してきたのが不思議に思えるくらいだ。
きっと、我慢が頂点に足したのであろう、少年は泣いていた。
然し、響いたのは、ぱちんと云う鈍い音。少年が少女の手を払いのけたのだ。
「……帰ってくれ」
少年はまた顔を俯かせ、ぽつりとそれだけ呟いた。少年は少女と目を合わせようとはしなかった。
「…い…いやや…こんなんなってる棗を置いていく事なんかでけへん…」
少女は瞳に涙を溜めながら、一生懸命に首を振った。然し、少年は下を俯いた侭、再度同じ言葉を繰り返す。
「………帰れ」
「…いやや……」
少女は負けじと首を振り、否定し続けた。
「…棗…ウチ、あんたの傍に……っ」
「…っ帰れよ!!!」
行き成り大声をあげた少年に、少女も思わず吃驚して後ろにたじろいでしまった。此処まで言うんだ、少女だって其の後言い返す言葉も無い。悔しいが、少年の傍に居てあげたいが、少年の望んだ事だ。
少女は何にも言わずにすごすごと涙を浮かべながらドアに向かった。然し、ドアノブに手を伸ばす刹那振り向いた先に見えた少年の姿があまりにも放って置けなかった。何だか今にも少年が居なくなってしまうんじゃないか、という不安に襲われたのだ。
途端、先程言われた言葉を無視し、其の侭走りながら少年の元に戻った。少年の驚いた言葉等聞かぬ侭、其の侭強く少年を抱きしめた。
「…っな…!おま…っっ」
「やっぱ放っておけへん!此の侭ウチが行ったら…っ
あんた居なくなってしまいそうやから…!!」
強く肩を押され、少年は狂った様に叫んだが、どれも何も答えず、ただただ包んだ身体を離さなかった。離してはいけない、そう思った。
「なあ…っウチには何でも話して…!我慢せえへんでよ…っ?」
「…っ黙れ!出てけ!こっから出てけよ……っ!!」
「ウチに話す事によって…っ居る事によって…っあんたが少しでも楽になれるんやったら…っウチ……!」
そう言い掛けた其の刹那、不思議な感覚に襲われた。身体が浮き、回転して、何か柔らかいものの上に倒される、どれも一瞬の出来事でよく分からなかった。
ただ、反射的に瞑っていた瞳を開き、其れに映ったのは天井と、闇に犯された少年の表情【かお】で。
言葉を返す間も無く、急に冷たい口付けが降って来る。強引に、舌を絡める、何時もと違う、優しくも無いキスだった。行き成りの事に混乱していると、其の侭ブラウスを剥ぎ取られていくのが分かった。少年は鎖骨に唇を強く押し付けていた。其の瞬間覚醒する。
「…っや、やだ!棗!なつめぇ!!」
「帰れっつったのに…帰らなかったお前が悪い…!!」
少年自身も混乱していた。其の侭、叫ぶ少女を無視し、強引に服を脱がせ、身体を蝕んでいく。スカートの中から太腿を撫でた時、少女の身体がびくついた。何だか頭がぱっと真っ白になる様な感覚を覚え、そっと少女の表情を見てみると、少女は今までに無い位の大粒の涙を流していた。
どれだけ少女は泣いていたのだろう。どれだけ少女は嫌がっていたのだろう。そう考え、其の時やっと覚醒し、少年は倒れ込む様にベッドから身を投げ、少女から離れた。
「……っっ悪、い……」
如何かしてた、少年は頭を抱えながらそう呟いた。そして、背を向けながら、少女の顔を見ずに、其の侭こう続ける。
「…お前…ほんと帰れ……此の侭俺に犯されても文句言えねーぞ……?」
此処までしたんだ、少女は迷わずに帰るだろう、そう思った。然し、代わりに感じたのは背中を包む柔らかな膨らみと、暖かな体温。
本当に吃驚して、思わず言葉を失ってしまった。少女は少年を後ろから抱きしめながら、こう囁く。
「…ウチを抱いて…?それであんたの気持ちが治まるんやったら……」
ウチはそれでええよ、そう付け足した少女の言葉で、戸惑ってしまったのは確かだ。
「感情任せに…っこんな気持ちで…お前を抱きたくない……」
「ウチは棗に必要としてほしい。だからお願い、抱いて」
「…っおま……」
「お願い」
我慢していた筈の涙が、また再度頬をつたる。
大丈夫だと思った。
支えがなくても、救いがなくても、自分で何でも出来ると思ってた。
でも……
この心は、酷く……切ない。
「……み、か………ん………」
其の侭、二人はベッドに倒れ込んだ。
END
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まず、題名の意味と、話の意味がわからない。
なんか意味わからん作品になってしまった。
まあ、ただ感情のままに無理矢理蜜柑を抱く棗が書きたかっただけ。