(棗くんと蜜柑ちゃん)
面倒臭い、そんな理由で保健室にやってきた少年はシャッと開けたカーテンの先に少女が気持ち良さそうに寝入っているのを発見すると溜息を吐いた。
確か、少女は昨日親友の少女と喧嘩をし、泣いたり喚いたりしていた。其の疲れが今に来たのだろう。少女は気持ち良さそうに眠っている。
疲れているのだから仕方無い。其の位の優しさは少年にだって勿論ある。然し、今は五時間目。確か、少女は今朝学校に着いてから直ぐに保健室に向かった筈。保健室に向かった時間から計算して考えると、少女は七時間程寝ている事になる。どう考えても寝すぎだ。
少年は少女が握る様に包まっている毛布を強引に剥ぎ取った。好い加減起きろ、と言いたいのだ。其れに、少女が寝ているベッドは偶然少年のベストポジションだったから。
「…んーーーっ」
布団を剥ぎ取られた少女は、寒くなったのか毛布を探す様に手をさわさわと上下左右に動かし始めた。其の可笑しな様子を少年は面白そうに見詰めていたが、諦めたのか直ぐに少女は手を止めてしまった。
気に喰わなくなった少年は今度は普通に起こし始めた。
「おい水玉。起きろ」
予想はしていたが、やはり軽く声を掛けるだけでは少女は起きやしない。寧ろ、また心地良い寝息を響かせ始めている。
好い加減にしろ、そう思い布団に広がる少女の長い髪を思わず引っ張ってやろうとすると、急に其の腕を暖かな両手に包まれた。吃驚して、咄嗟に少女を見やるが、少女は起きた訳では無く、ただ寝ぼけているようだ。
掴まれた腕に広がる暖かな温もり。其れを心地良く思っていると、直ぐに其の寝ぼけた腕は離れてしまった。
離れてしまったが、其の微かに感じた暖かな温もりで、もう如何でも良くなってしまったと思ったのは確かだ。少年は剥ぎ取った毛布を再度少女に掛け直してやると、別のベッドに移ろうとした。
然し、そう思った直後…
「んん〜〜…との、せんぱぁ…い………」
少女が寝言で絶対に言ってはならない人物の名前を口にしてしまったのだ。途端、ぴきりと反応する少年の後姿。当然、今正に自身に降り掛かろうとしている危機に完全に寝入っている少女が気づく筈も無い。
しかも、もう一発…
「…う〜ん…だいす、き……とのせんぱ……」
途端、影に包まれる少女の愛くるしい姿。真っ白な壁に映る二つの影は、其の刹那一つに重なった。少女の安らかな寝息と、少女の呼ぶ先輩の名は其の途端に消え、代わりに鈍い声が途切れ途切れに響き始めた。
「………………っん…ふぁ…っんんんんーーーー…!!!!」
息をする間も無い少年の過激なキスが少女の眠りを妨げた。途端、ばちっと完全に見開く少女の大きな瞳。然し、少年は少女が目覚めたと分かっていながらも其の行為を止めようとはしない。
強引に、強く唇を押し付け、何度も何度も角度を変える舌を絡めたキス。まるで、何かを奪うかの様に。目をぱちくりとさせていた少女だが、さすがに息が苦しくなってきたのかぎゅーっと苦しそうに瞳を閉じ、眉間に皺を寄せていた。
やっと離れた唇と唇を溢れた息と、銀の糸が繋ぐ。少女を囲む様にベッドに両手を掛けた少年は赤い瞳をギラギラとさせ、少女を睨み込んでいる。其れに対して少女は行き成りの事に混乱しているのか息を切らせながらぱちくりと瞬きを繰り返していた。
「…ってめぇ、好い加減にしろよ!ブス!!」
「…!?な……っなな………」
息が苦しくなったと思ったら、何故か少年が自身にキスをしていて、何だと思ったら行き成り怒鳴られた。少年の気持ち等知る筈も無い少女は其の侭保健室を出て行った少年に何も言い返す事も無く、混乱した様子で、ただ言葉を失っていた。
そして、今更。
「そ、それはこっちのセリフやあああーーーーー!!!!!!」
其れからというもの、少年の殿への殺意は一層深まり、少女が居眠りしているのを発見すると直ぐに髪を燃やす様になったという。
眠りの妨げには、
(僕だけの君でいて)
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この話に深い内容はないです(見たとおり)
ただ寝てる蜜柑をキスして起こす棗が書きたかっただけ。
だから内容はどうでもよかった。