「手にしたものは」


ただ珍しくぼーっとしていたら、何時ものあいつが後ろから背を押してきた。そして、思わずびくりと身体を揺らしてしまった自身。その時、やっと我に返って『しまった』と心に思った。
珍しいギャフンとした顔付きで後ろを勢い良く振り返れば、其処にはにたぁと悪戯っぽい笑みを浮かべるツインテールの少女。
「や〜いっ棗驚いた〜!」
にたにたと幼稚な笑みを見せて体全身で自身を馬鹿にする少女が何時にも増して鬱陶【うっとう】しい。
気づけば、自身の見慣れない光景を珍しく思ったのかクラスの生徒までもがざわざわと此方を見詰めてくる。それを見て、余計に少女への怒りが増す。
(…俺としたことが……)
「黙れブス」
後悔しながらそうヤケクソで言って、今だ笑っている少女の髪に火を付けると少女は高い悲鳴をあげた。
それでもまだ無性に苛付いて、ざわざわとした空気を黙らせる為にガンッと机を足で蹴る。途端に声を止ませた生徒達の前をどす黒いオーラで通り、黒髪少年は教室を出ていった。それを気遣って、何時もの様に親友のフェロモン少年も後を追う。
残されたのは残りの生徒達と、ツインテールの少女。
恐々にまたざわざわとし始めた生徒達を他所に、蜜柑だけは焦げた髪をヘアーアイロンで直しながらそのまま愚痴を溢し始めた。
「何やあいつ!脅かしただけなんに!あんな怒る事ないやんかっ」
暫く、眉を吊り上げて愚痴を溢していた蜜柑だが、急にその表情はにんまりとした先程の悪戯っぽい表情に戻った。
「…まあ、ええもん見せて貰うたからええか…」





「…ムカツク」
しんと静かな廊下で二人の内の一人がぽつり。やはり、見られたくもないあんな間の抜けた表情を少女だけでなく生徒達殆どに見られてしまったというのが無性に腹が立つのだ。
今の黒髪少年にはツインテールの少女への怒りしかなかった。
「……ぜってぇあいつビビらせてやる…」
ぼそりと出た言葉に今までただ黙り込んでいた親友のフェロモン少年が顔色を変えた。
「…佐倉に、仕返しするつもりなの?」
「嫌か?」
少し息詰まった親友の問いに、黒髪少年は眉を吊り上げてそう問い返した。今の彼は怒り奮闘で、例え親友であってもその表情を緩ませない。そんなコントロール、今は効かなかった。
「…そうじゃないけど…」
フェロモン少年はそう小さく返すと、また黙り込んだ。それを確認すると黒髪少年はまた眉を吊り上げて前に向き直る。悪いが今は、親友を気遣っている余地等ない。
「確かあいつ、幽霊を恐がってたな」
ふと、アリス祭でのお化け屋敷の事が頭に浮び、口にしてみる。お化け屋敷を行っていたのは幻覚の持ち主、といえば飛田。
しかし、委員長といえば蛍の次に親しいと云われる程の少女の大親友で。
「…飛田は協力してくれそうにないよ」
フェロモン少年がそう言うと、黒髪少年は『そうだな』と小さく言って顔を顰めた。
「…陽一は…無理か…」
「うん、この頃体調悪いみたいだし」
「…………………」
そのまま、アイデアが浮ばずに、時間は刻々と過ぎて行った。





教室に戻ると、生徒達は自然に戻っていた。少し無理矢理にも見えるが。
一方、少女も口には出さないようになったが、目や表情で自身と目が合う度に馬鹿にしてくる。懲りちゃいない。
ただでさえ、少女への仕返しが思い浮かばなくて苛々しているのに、余計に怒りが積もる。
しかし、そのまま無視して自身の席に座る。運悪く、自身の席が自身の怒りを作った張本人の隣な為か、怒りは思うように収まらず、積もるだけ。
「…なあ、あんたまだ根に持ってんの?執念深いなあ」
ーてめぇがいけねんだろ、てめぇが。
問いかけてきた少女に向かって心の中でそう愚痴を飛ばした。余計に、少女に仕返ししたくなる。しかし、思うようにその方法は見つからない。
シャーペンを握る手を強めながら目線を何気なく机の上にやった。どこから入ってきたのだろうか、机の上に自身の筆箱の横にちょこんと団子虫。『うざってぇな』そう思いながら何の悪気もなくそれを掴み、適当にそれを投げ捨てた。
すると。


「ひぎゃあああーー!!!!!llll;」
急に真横から鋭い悲鳴が響き、黒髪少年はびくりと肩を揺らした。驚いたのは黒髪少年だけではない、クラス全員と、偶々居た鳴海までもが驚いて少女の方に振り向いた。
行き成りの事に理解が出来ず、黒髪少年は何気なく目に付いた叫んでいる少女の肩にある物に目をやった。其処には、自身が先程投げ捨てた団子虫。どうやら、適当に投げたそれは見事に少女の方に行ってしまったのだ。
しかし、何故この少女は驚いているのだろう。ふと、特力系RPGに入った時の事が蘇る。確か、少女はメカゴキを何の戸惑いもなく触っていたような。
「…お前…虫平気じゃ……」
「ッッ阿呆!!!団子虫は別じゃ!!
ウチはこのうじゃじゃした足のへんが大っっ嫌いやねん!
いややあ!!取って!棗取ってえええ!!!」
しかし、それを聞いた黒髪少年の紅の瞳には悪戯が映し出されていた。泣きながら、自身の肩を揺らしてくる少女を無視し、見下ろすように笑ってやった。
何気なく見つけてしまったのは探し求めた少女の弱点だった。今まで馬鹿にされていた黒髪少年が、簡単にそれを許す筈がない。
「ざまあみろ」
瞬間、先程まで余裕ぶっていた少女の顔に後悔したように血の気が引ける。まだ肩には嫌いな団子虫が乗っている。
それを見る黒髪少年の表情ときたら何とも楽しそうで。
珍しく楽しそうな笑みを見せた黒髪少年に喜ぶべきなのか、それとも困っている少女を助けるべきなのか、フェロモンは少年は戸惑ったという。

「誰かとってえええーーー!!!!!」
これから、手にした弱点を使って、黒髪少年が少女苛めに入る事等、言うまでもないだろう。


END
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少しギャグ(?)っぽく。
最後らへんになってくると本当は何が言いたいのかとかさっぱり無視されてきますね。