ひとつになれば
きっときっと、甘くなれるよ


「あまくなれるよ」


「"棗"って苦いなあ」
果物の棗を一口食べた少女は、苦い表情をしてそう呟く。給食に出た棗は鼻がきんとする程苦いものだった。辺りを見回せば、殆どの生徒がその棗を一口食べただけで残している。同じ棗という名のだけに黒髪少年は何となく不機嫌だった。しかし、ふと横に目をやると、先程『苦い』と正直に言った筈の少女がもくもくとそれを食べている。そんな矛盾した少女の行動に、黒髪少年は目を見開いた。
「…苦いんじゃなかったのかよ」
横目でぼそりとそう言うと、頬に沢山の蜜をつけた少女が一旦食べるのをやめ、此方を向いた。
「苦いけど、不味くはないし」
それだけ言うと、少女はまたそれをもくもくと食べ始めた。苦いと言いながらそうもくもくと食べるとは。棗を残した殆どの生徒もそんな事を思いながら不自然な目で少女を見詰めていた。
それから数秒後、あっという間に少女はそれを食べ終わり、満足したように皮だけになったそれをどんっとおぼんの上に置いた。
そんな光景をぼーっと見詰めていると、少女が行き成り此方を向いてにんまりと笑顔を見せた。
「あんなっ、"棗"はウチが食べると甘くなるんよ」
「……は…?」
訳が分からない。
水玉が食べると甘くなる?何言ってんだ、こいつは。
そんな事を思いながら、顔を顰める黒髪少年は、頭上にハテナマークを浮かべた。
すると、少女はにんまりとしながら、急に黒髪少年を指差した。そして、今度はその指を自身に移動させる。


「なつみかん」

指を移動させたかと思うと、急に少女はそう呟いた。また意味の分からない事を言い出した少女に、黒髪少年は理解が出来ず、ぽかんとしている。
すると、また少女は黒髪少年を指差した。そして、指を差す事に一つ言葉を漏らしていく。
「…なつ」
それだけ言って、今度は自身に指差す。
「…みかん」
そう分かりやすく説明すると、少女はまたにんまりと表情を見せる。
そして、今だ理解の出来ていない黒髪少年に向かってこう言う。

「なつみかんは甘いやろ?」
そう、少女は黒髪少年の名である『なつめ』の『なつ』と、自身の名の『みかん』を合体させると『なつみかん』になると言いたいのだ。確かに棗と蜜柑を合体させたなつみかんは甘い。
しかし、名前ではそう甘くなるかもしれないが、実際、少女が食べた『棗』が甘くなった訳ではない。まあ、それは、幼い可愛い小学生の単なる悪のない考え。
少女の言っている意味は理解出来たが、黒髪少年は今だにぽかんとした表情していた。そんな黒髪少年の顔を少女は心配そうに覗く。
「…せやから、ウチと居れば…一つになれば…棗は甘くなれるよ?」
残されている"なつめ"で、黒髪少年が沈んだ表情を見せたので、少女なりに励ましているのだ。
そんな単純な少女に顔も合わせず、急に黒髪少年は、席をたった。少女と親友の呼ぶ声等聞かず、黒髪少年はさっさと教室を出て行った。

しかしそれは、怒ったのではない。






どかどかと廊下を歩く。
「…ったく、あいつは馬鹿すぎる……」
そう愚痴を飛ばしながら歩く黒髪少年の頬は、何と真っ赤。
あの顔で、ある意味積極的に言われたもんだから、調子が狂ってしまったのだ。

(…あーー、心臓うるせー……)
黒髪少年の理性がもつのは、あとわずか?


〜おまけ〜
「おい、水玉」
「ん?」
「なつみかんになんのは結構だけどな、早すぎんぞ?」
「…へ?」
「一つんなんのはもう少し先だ。まあ、お前がいいなら今でもいいけどな」
「ん?なんのこと言うとるん??」
「…だから、まだ早すぎんだって」


END
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また「なつみかん」ネタ。
実際、「甘くなれるよ?」と言われた時棗君は理性ぎりぎりでした。
ほんとは棗君に襲わせようと思ったんですがあえて止め。
ってか「なつめ」って苦いもんなんだっけ?