「雫の中のラブストーリー」


季節も、天気も気まぐれだ。今は、夏だっていうのに時々こうやって冬みたいに寒くなる。
「あっ、雨……」
空を見上げれば、ぱらぱらと降ってきたのは冷たい雨。今、まさに帰ろうとした瞬間。そんな気まぐれな雨に蜜柑は眉を潜めた。
ただでさえ寒いのに、こう雨が降られちゃ……。
でも、呆れたその表情は直ぐににっこりスマイルに変わった。
「ふふんっ、こんな事もあろうかと傘ちゃんと持ってきたもんねっ」
ぱんっ
跳ね上がるような音と共に右手に持たれた鮮やかなオレンジの傘が開かれる。開かれた途端、大きな傘に空から降ってきた雫がぱつんぱつんと次々に音を立てて行く。その音はリズム良く耳に響いてきて、何だか楽しかった。正に気分はトトロである。
(まぁ、雨も良いもんかな……)
そんな事を考えながら右手に持った傘をさしながら少し楽しそうな足のリズムで寮への道を歩いていく。リズムにのった足で、しまいにゃ歌までうたって歩いていたのは最初だけの事で。やはり、季節外れな寒さからなのか、自然と足は遅くなり、歌も何時の間にか消えていた。


手袋もってくれば良かった。
夏なのにそんな事を考えてしまう程に手は冷え切っていた。傘を握る手にぽつぽつと傘をつたって降りてきた冷たい雫が落ちてくる。雨さえ、降っていなければこの冷え切った手を暖かいポケットの中に入れる事が出来るのに。何時の間にか、何とも思っていなかった筈の雨の存在が敵へと変化していた。
「………はぁ」
時に握る手に吹き掛けていた息は何時の間にか溜息へと化す。
寮への道はまだまだだ。



そんな時、後ろから誰かの足音。足音は早く、どうやら走ってくるようだ。
誰だろう、と蜜柑が振り向こうとしたそのとき。

ばっ!
「…………………っ!?」
後ろから来た人物が勢い良く自分の真横を擦り抜けていった。
それだけじゃなく、傘をも奪われた。
目の前に映ったのは、見慣れている黒髪の後姿。
振り向いたその顔は……棗。
「な、何するん棗!?ウチの傘返してや!」
棗の息は荒く、相当走ったように見えた。
「うるせぇな。傘忘れたんだよ、入れろ」
その後の蜜柑の叫び等聞かず、棗は盗った蜜柑の傘をさして、そっと蜜柑の横に立った。自分だけさして行ってしまうかと思ったけれど。しっかりと、棗の持った傘は蜜柑の頭上にもあって。
ーというか、これって……


相合傘………。

そんな事を思って蜜柑は頬を桃色に染めた。
言うと、余計に恥ずかしくなるので、あえて言わない事にした。


少し下を俯きながら歩く。先程まで傘を持っていて冷え切っていた手は、今となってはポケットの中に収まって。先程とは、正反対に物凄く暖かくて、冷えた手はどこかに消えていた。
ちらり、と代わりに傘を握る棗の手を見てみた。
(………寒そうやな…)
もしかして、この為に態々傘に入ろうとしたんだろうか。
冷たくなった自身の手を気遣って……。
その証拠に………
(あれで隠してるつもりなんかなぁ………)
カバンに無理矢理詰め込まれた棗の傘。カバンの間からひょっこり持ち手が見えていた。必死だったんだろうか、骨まで折れていて、もう使い物にならない。

素直じゃないなあ……。

何時だっただろうか、動物フェロモンの少年が棗の事をこんな風に言っていたっけ。
『いつだって自分のことより人の事ばかり考えて…』
だから………

「―――…ありがとな。」
「……あ?」
「ううん、何でもない」
今は、その言葉を信じてみても良いかもしれない。


END
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この頃、優しくて素直じゃない棗くんにハマってます。
何だかこの頃、最初の詩と、題名が考えられなくなってきた…。