優しさふたつ



「きもちーーっ」

暑くもなく、寒くもないそんな昼下がり。
暖かな太陽を浴びた草原の上にツインテールの少女は寝転んだ。
太陽の光が眠気を誘う。どんどん自分の瞳が閉じていくのが分かった。





眠りに落ちてからどのくらい時間が過ぎたのだろうか。
何度も響くひとつの声に反応し、閉じられた瞳はだんだんと開かれていった。

眩しい。
その眩しさの中にはひとつの影があった。

「おい、ブス」

耳鳴りが起こってしまいそうなくらい普段から聞きすぎているその台詞。その声。
完全に目を見開くとやはりあの人物が居た。棗が悪戯っぽく笑いながらこちらを見下ろしている。

驚いた、と同時に『起こされた』という怒りがすぐに込み上げてきた。

「せっかく寝てたんに…」

ぶー、と頬を膨らませ、拗ねたような表情をした彼女が可愛らしく思えた、というのは嘘ではく本音。
だが、棗はそれを行動には表さず、ただ蜜柑の腕を何も言わずに強引に引き上げた。

「ここは俺の陣地なんだよ、どけ」
「ここは学園のみんなのものやろ〜!?」
「うるせー」

いいからどけ、と蜜柑の声などろくに聞かず、棗はまた強引に蜜柑の上でをひっぱる。
けど、蜜柑も意地をはってそこをどこうとはしない。

そんな意地の張り合いのバトルの中、ひとつの声が二人を止めた。


『にゃあ〜』


その声に反応し、逸早く、声のする方に身をひきづらせたのは蜜柑。猫がおるっ、と何度も声を発し、声のする草村の方に顔を覗かす。棗は、その後を何も言わずについていった。いつのまにか、『どけ!いやだ』のバトルは忘れられていた。

蜜柑は草村に腕をつっこみ、猫らしき感触がないか腕を左右に動かして確かめる。暫く続けていると、柔らかなものが中指に触れた。蜜柑は『あっ!』と小さく声をあげるとその柔らかなものの何かを掴んだ。

蜜柑がそのなにかを掴んだ瞬間、猫が勢いよく『ふぎゃー!』と声をあげて草村から蜜柑の顔面に飛び込んできた。



「ぎゃああ!!lll;」

いきなりのことに蜜柑は思わず間の抜けた声を漏らしてしまう。
尻餅をついた蜜柑の後ろで猫は嬉しそうに棗に飛び込んでいった。

棗も慣れた手つきでその猫を胸に抱く。
どういうことなのか、ぼけーっと蜜柑はその様子を見つめていた。


「おい、水玉。お前、こいつの尻尾にぎっただろ」

それで驚いたんだ、と棗が済ました顔でそう言うと、蜜柑はつられて『はい…』と一声あげて、頷いた。

いや、そうじゃなくて。
我に返ると蜜柑は先程から思っていた疑問を棗にぶつける。




「な、なんでその猫、棗になついとんの!?」

初めてとは思えない。棗がその猫に触る手つきも慣れているし、猫だって安心したのか腹まで棗に見せて寝転んでいる。

棗は、一旦猫に触る手を止めると、蜜柑を見た。



「よくこのへんに来るんだ、この猫は」

ここで昼寝するたびに、いつのまにかなつかれてしまった、と棗は蜜柑に言うと、また猫をあやし始めた。
『へぇ…』と蜜柑は小さく呟くと、黙ってその光景を羨ましそうに見つめていた。

そして、ウチにも触らして、と言って猫に静かに近づいた。
が、猫は蜜柑に見向きもせず、棗の方ばかり見ている。
蜜柑が無理矢理触れようとすると、猫は蜜柑をそのごとにひっかいた。


「…なんや、この猫。ウチに全然なつかへんわ」
「ブスになつく動物なんかいねーよ」
「はぁ!?なんやそれ!腹たつわーー!!!」


「ぜっったいなつかせてみせるもん!!!」









その一言から、どのくらい時間が経ったのか。
飽きたのか棗は木の上でお昼寝、蜜柑はというとまだ熱心にも猫をなつかそうとしていた。
体中はひっかかれたあとがたくさんある。

そして………


「なつめーー!!なつめ!起きて!!」
「っっ!!馬鹿ブス!!ひっぱんじゃねーよ!」

木の上で寝転んでいた棗の足を地面にいる蜜柑が引っ張ったのだ。
そのまま体勢がくずれて、落ちそうになった棗だが、運動神経が良いのでそのまま上手に着地した。



「…なんだよ」
「見て!見て!ほらなついた!」

「は…?」

よく見ると、蜜柑は何かを抱き上げていた。
そう、先程まで蜜柑をこけにしていた猫を。
同じ猫とは思えないくらい和んだ表情をしている猫を見て棗は声を失った。



(…こいつ、どんだけ頑張ったんだ)

目線に映ったあちこちにある傷がその努力を物語っている。


「お前…傷が……」

なかでも目についたのが右腕の傷。
どの傷よりも深く、血がにじみ出ている。その傷のひどさに思わず眉を潜める。

血がにじみ出た腕を己の手で持ち上げると、無意識に己の唇でその血をふさぐ。
その瞬間、彼女の体がびくりと跳ねたがそれに構わず続けた。



「…な、つ……っ」

顔を真っ赤にした蜜柑とその血をなめる棗に気づかず、猫は蜜柑の片方の腕の中ですやすやと眠りに落ちていた。

そっと唇を離すと棗は眉を潜めて眠っている猫に目線を移した。愛しき彼女を傷つけた痛みに怒りがこみあげてきて、思わず寝ている猫にデコピンでも喰らわしてやろうかと思ったが、それは彼女の声で止められた。


「こ、この子怒らんといて!この子も…ウチの腕心配してくれてん…」

「…こいつが?」
「……う、ん。この子も棗みたいになめてくれてん…」

その言葉にひとつ息をつくと、棗はその場に座り込んだ。
それを見た蜜柑もその横にちょこんと座り込んだ。勿論、猫を腕に。

しばしの沈黙を破ったのは蜜柑だった。





「……この猫くんと棗って…似てる」


「…俺もお前を傷つけてる、っていいたい訳?(猫くん…?)」

まぁ、当たってるけど、、そう続けると、棗はまた息をついた。
だが、そうではないらしく、蜜柑は勢いよく棗の方に体を寄せた。


「ちゃうよ!ウチが言いたいのは、その…すぐなつかんとことか、
色とか黒やし………でも、一番ウチが言いたいのは…




―――――…その優しさとか」



「…………は…?」


「猫くんも棗も…う、腕なめてくれたやんか…」


そう言うと、彼女は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
それを聞いて口をぽかーんと開けて唖然としていた棗だが、嬉しさのためか、すぐに、ふっと笑みをこぼした。




「ちげーよ」

そう言って立ち上がった棗をハテナマークを浮かべて見上げる。
立ち上がった少年はにやりと笑いながらこちらを見下げた。

(それは、似てるとかじゃなくて………)







「――…お前が好きだから」

猫も俺も。


「…なっ……ッ」

言葉を返す暇もなく舞い降りてきたのは優しいキス。
腕をひかれて、体を寄せて。

短すぎた、ほんのり血の味のキスだった。


力が抜けてまた座り込んでしまった真っ赤な姫を置いて歩き出す。
キス逃げ、と言っても可笑しくないその光景。


似てるんじゃない、それは君が好きだから。






(…そういえば…俺もしかして猫と間接キスしたのか……?)




それはまた別の話。


END....

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いや、ただ猫出したかっただけの話です。
…これ、別に猫ださなくてもよかったよね、意味ないよね。
なんだろ、この話。あああーーーー最後の方適当です。

ちなみに管理人は犬派ですから。