気に入らない。
唯一、私にあそこまで刃向かってくるアイツが。


「読めない心」


だから偶然、寮へ帰る途中のアイツの胸倉を掴んで壁に押し付けてやった。運良くアイツは一人だった為、こうするのには丁度良かった。
「あんた、何でそう人の嫌みばっか言う訳!?」
「何って…楽しいから?」
そう言って、何一つ表情を変えない間抜顔。生まれつきなのかは知らないが何時もにへらと笑ってて憎たらしいその表情。気に喰わない…。

「私の事、嫌いなの!?」
頭に血が上ってその声は迫力を増す。何故か、叫ぶ度に込み上げてくる大粒の涙を堪えながらその答えを待った。先程までにへらと憎たらしい表情をしていた彼が『嫌いなの!?』と言った瞬間に見た事もない真剣な顔に変わっていったのが分かった。でも、それが何故かなのか分からない。
ただ、その見た事もない表情に思わず心臓が大きく跳ね上がっただけ。
「……別に」
彼は、真っ直ぐと、目を反らさずに私を見詰めてそう言った。予想外だった、彼なら迷わずに私を『嫌い』と言うだろうと思っていたのに。そう言うと思ったから色々と覚悟していたのに。
変に気を入れていた心が彼の言葉で一気に崩れ落ちる。その瞬間、我慢していた大粒の涙が一気に頬を滑り落ちた。彼の胸倉を掴んでいた震える手にも次から次へと落ちていく、綺麗な涙。
「パーマ…何泣いてるの」
その小さな声に我へと戻る。すっかり弱さを見せ付けてしまった自分に後悔して、震える手でまた強く胸倉を掴み返した。

「う…うるさいわね!泣いてなんかないわよ!」
そう適当な言葉を投げ捨てて、その場から走って逃げた。これ以上そこに居たくなかった、これ以上あそこに居たら、もっと自分の弱さをアイツに読まれてしまいそうで。
其れから先は、一目散に寮へ戻って行ったからアイツの顔なんか見てない。走る途中もアイツがどんな顔してるだなんて見たくなくて、見るのが恐くて、後ろを振り返る事なんて出来なかった。寧ろ、振り向く事がカッコ悪く思えたんだ。
けど、微かに後ろから聞こえた声がまだ耳に残ってる。
心を読めるアイツらしいその言葉。
それは、私の心を全て表していた…。

『………パーマの強がり』







翌朝。天気はうざったいくらいに良く、風も全く吹いていなかった。
そんな日にひとつの声がある部屋から響いてきた。
「うぅ〜!なんなのよもーー!!」
頭まですっぽり布団をかぶり、何か嫌そうに叫んでいるそれ。少し布団から顔を覗かせたそれは頬を真っ赤にさせていた。覗いた瞳は時計にあった。只今、九時。何時もならとっくに学校で授業を受けている筈の時間だ。
けど、今日は違った。強く握っている布団の裾を離そうとはしない。
(こんな顔じゃ…教室になんか行けないわよ!もーこうなったら今日は一日中引き篭もってやるんだから!)
こんな真っ赤な顔をして行くなんてもってのほかだ。
やはり浮ぶのは、アイツの顔と、アイツの言葉。

『……別に』
『………パーマの強がり』



「そうよ!アイツが悪いのよ!アイツがあんな事言うから!アイツが私の事嫌いって言ってれば済んだ事で………っ」
でも………
なんだろう、この気持ちは。
とても安心しているような…。
なんだか嬉しいそんな気持ち……。
「あー!もうやめやめ!!なんで顔真っ赤にしてんのよ私!!」
本当、どうかしてる……

考えたくないのに考えてしまうアイツの事に気持ちがイラだつ。気持ちが荒々しくなって思わず寝起きの髪を両手でぐしゃぐしゃに掻いてやった。
その刹那、荒く響いたドアを叩く音にビクリとなった。

ドンドン!
(…………誰……?)
『パーマ!いるんでしょー?先生心配してるよー?(多分)』
その、のろのろとした能天気な喋り方はアイツだ。今まで自分が噂していた張本人である来客に思わず驚いてベッドから飛び降りた。そして、自分の今のめちゃくちゃな髪型に後悔した。
(…!!どうしよう!髪めちゃくちゃじゃないの…!!)

って……そうじゃなくて。
何で私出る気満々なのよ…。
今さっき引き篭もるって決めたばっかりなのに…。


でも、なんでアイツが…。

「な、何であんたが来るのよ!?」
言葉が震える。変に緊張する。
昨日の事が頭の中でぐるぐる回ってて、何だかぎこちないようなそんな後ろめたい気持ち。
『僕以外、誰かあんたを呼びに行く人でも居るんか……』
と、ぼそり。何時もの毒舌を聞こえないように呟いた。
「……何か言った??」
『何も』
ドアを間に挟んだ会話。何時も傍に聞こえる声が今はドアに邪魔されて聞き取り辛かった。そう思うと、何故か変に切なくなった。
アイツとの距離を挟んでいるドアにぴとりとくっつく。ドアさえなければ暖かい体温を感じる事が出来るのに、これじゃろくに感じる事も出来ない。寧ろ、ドアの冷たい温度に邪魔をされている。
このドアの向こうにはアイツが居るのに…。
普段、思わない事をこういう時には大切な事のように感じてしまう。
人の気持ちとは不思議なものだ。
そんな事を考えていて、すっかりアイツの声なんて聞こえなくなっていた。
『――…マ!パーマ!』
「…はっ!な、なによ!?」
(何馬鹿な事考えてんだろ私……あーほんと謎!謎!謎ー!!)


『なによ、じゃなくて。教室行こうよ』
(………………)
「……いい。今日は、休むわ」
こうやって話すだけでも何だかドキドキしてしまうから。
こんな状態で顔を合わせるなんて絶対出来ない。
『具合悪いの?』
「…そうじゃないけど」
もういいから帰ってよ、お願いだから…

『昨日の事…気にしてるとか?』
「……………………」
『よく分かんないけど、僕なんか変な事言った…?』
理由なんてない。ただ、合わせる顔がないだけ。
「……べ、別に…あんたは関係ないわよ…」
一々、聞いてこないで…

「…でも……」
「あー…!もう!!あんたなんか大っ嫌いなんだから!!出てってよ!!!」



―――――――……

私…今、何言った………?

後悔した、と思ったのは言った後で。言うつもりは無かったその言葉。そんな事、思ってもいなかったのに。でも、何だか何かに耐え切れなくなって、思わずその適当な言葉を投げ捨ててしまった。
先程まで聞こえていた筈の声が急に静かになった。きっと、今の言葉でアイツは酷く傷ついてる。そう考えると、言ってしまった自分が馬鹿みたいで己を殺したくもなった。
刹那、追い討ちをかけられたかのように響いた一つの声。


『…ごめん』


なんて馬鹿だろう、私は……。
「………っっ!!」


バンッ!!
『ごめん』その声に何かが一気に込み上げてきて、一瞬だが我を忘れて間を封じていたそのドアを思い切り壊れてしまうくらいに開けた。けど、そこにはもう彼の姿はなくて、冷たい誰も居ない廊下だけがそこに居た。

また人を傷つけた。
きっと、今まで沢山の人を傷つけてきただろう。
そんな事しか出来ない自分の力が憎くて憎くて堪らない。

確かにアイツは謝った。
アイツは悪くないのに。



「あ〜…もう!!馬鹿馬鹿!私の馬鹿!!」
自分の勝手さに怒りと、虚しさが込み上げてきて、思わずスリッパを履いた右足でダンダンと激しく床にやつあたりをした。
訳が分からない。
訳が分からない。
そんな事を考えて色んな物にやつあたりをしていたら、もっと重要な事に気づいた。

…っていうか、私なんでこんなに事になってるの?
だって、可笑しいじゃない。
別にあの時大した事言われた訳じゃないし…。
なんで、私あの時泣いたの?
なんで、私こんなに意識しているの?
なんで、アイツに対してこんなに戸惑ってるの?

「……え…?ちょっと待って……何だろ、これ…」

この気持ちの名前が分からない。







翌日、パーマは出席日数が減るのを恐れ、学校に登校した。勿論、アイツの事をこれまでもかというくらいに考えながら。B組の前まで来れたものの、足が思うように進まない。ドアを開けるのが恐い。ドアを開けようと置かれた手が虚しかった。
刹那…
がらっ
自分が開ける前にドアが開かれた。
出てきた相手は……
「あれ〜!?パーマや!!」
ある意味、敵である蜜柑だった。今までの展開からして心を読めるアイツが出てくると思っていたパーマは、がくりと一気に肩の力を抜いて安心の長い息をついた。
そのまま、蜜柑の後ろに隠れながら、ぎくしゃくした足を教室に運ばせた。教室に入って一目散に目についたのはやはりアイツ。自分が見る様子だと何時もと何ら変わりない様子。でも、何だか自分と目を合わせないようにしている感じに見えた。そんな事を考えてぼーっとしていると蜜柑が話し掛けてきた。
「復帰したんやねぇ〜」
と、蜜柑。パーマだから、と差別はせずににこやかにそう言った。
「そうよ。私が居ないB組なんてB組って言えないからね」
と、相変わらずの勘違いっぷりのパーマ。
ここで蜜柑のブーイングが入る事は変わりないが、もう一つ、足りないものがある。
必ずここで、アイツのつっこみが入るのだ。
きっと、アイツは『誰も思ってないと思うよ』そう言っていた筈。そんな事自分では思いたくないが、それが何時もの事だからもう慣れてきていた。それに、そのアイツの一言で、ある意味自分の存在が成り立っていた、という事もあるのだ。

何だか虚しい。
ここでアイツの言葉が入れば隙間なんてないのに。
何で、何も言ってくれないの?
やっぱり昨日の事だろうか…。

『大っ嫌いなんだから!!!!』


でも…アイツは心を読める。
あの言葉が嘘くらい、アイツにだって分かる筈。

じゃあ、何で何も言ってこないの…?
結局、学校が終わってもアイツは話し掛けてこなかった。目さえも合わなかった。何時もは嫌なくらいにひっついてきたり、嫌みを言ってきたりしてくるのだが。それが当たり前になっていたから余計に寂しく感じた。



放課後。思うように進まない足を引き摺らせながら歩いていると、ぶらりぶらりとその個性的な歩き方をするアイツの背中を発見した。
驚く前にもう体が動いていた。無意識に走って。少し距離があった筈なのに、どんな速さで走っただろう。何時の間にか、ぶらりと揺れているその腕を掴み取って前の日のように壁に押し付けていた。
「……捕まっちゃったぁ」
そう、何時もの顔で言う謎少年。数時間とはいえ、全く近くで見ていなかった顔に、感情がどっと溢れてきてまたあの日みたいに涙が流れてきた。
「…あん、た……私の事…無視してた、でしょ…?」
涙で邪魔されて言葉が途切れ途切れぶつかる。
「あ〜…、バレちゃった?」
「バレるもなにも…バレバレよ馬鹿!!」
だって、何時も傍に居たから。
だから、急に消えたりすると何十倍も苦しくなるんだ。
あんたがこんな存在になってたなんて…初めて知った。
涙が溢れてくる。
握る手にあの日のように幾つも滑り落ちて。
「…あの言葉が……嘘、くらい…あんた心読めるんだから分かるでしょ…!?」


「……うん、分かってたよ」
どんな顔でそう言ったのか分からなかった。
興奮して、感情を抑え切れなくて、アイツの顔なんて涙が邪魔して見えなくなっていた。それと共に抑えていた感情が全て言葉になって露になる。とにかく止められなくて、自分の思っている事を全てぶつけた。
「じゃあ何で無視したのよ!?私の事嫌いなんでしょ!?」
「ちょ…っパーマ…」
「私がどれだけ悩んだと思ってんの!?あー!!もう!!
言ってやるわよ!あんた心読めるんだからこれも知ってるわよね!」
「……パーマ…っ??」
アイツの声なんて聞こえなくて、もう無我夢中で叫んでた。だから、今まで自分の中でもやもやしていた本当の真実を勢いで伝えてしまった。

「私は……っ私はね………!


――――――――あんたの事が好きなのよ!!!」




あなたが居なかった時、凄く辛かった。
一緒に居るのが当たり前だったから、気づかなかった。

だけど、今分かった、今、心の中でもやもやしてるこの気持ち。

名前は…………………恋。

何時もの間違った恋じゃなくて、これが本当の恋。
ある意味これが初恋なのかもしれない。


握る手に力を込めて、瞳を深くつむりながら下を向き、震えながらアイツの言葉を待っていた。何時もの自信はどこへ消えたのか、今のパーマは信じられないくらい恋に臆病な少女漫画のような女の子になっていた。

そして、かけられる言葉は。


「…僕ね、今まで色んな人の心を知ってきたつもりだけど……ひとつだけ、読んでも読んでも分からなかったものがあるんだ」
何時もの笑ってる顔だけど、どこか違う。真剣な優しく微笑むような笑みになっていた。また出てきた見た事もない表情にパーマは何時の間にか目を奪われていた。
「分からなかった…も、の……?」
「パーマを無視した訳…それを知りたかったからなんだ。パーマがどういう反応するだろう、と思って」
言っている意味が分からない。
何を言っているのか、この人は。


「…僕、パーマの心が少しだけ読めなかった」
私……?
「………どういう、こと…?」
アイツが心を読めない、なんて重大な事だ。それもその読めないものが私の心だなんて。そう思い、パーマは気になって心を読む少年の服をぎゅっと握って先程より近づいた。
少年はまた優しく笑った。

「…大嫌い、が嘘と分かっても…何でパーマはあんな事言ったのか、何でパーマは泣いたのか……それは分からなかった」
それは自分も先程まで分からなかった事。
少年はゆっくりゆっくりとそのひとつひとつの言葉を口にした。
「でも、今パーマが言ってくれたから…その答えが分かった。パーマは僕の事考えてくれてたんだ…」
恥ずかしい。彼がそれを口にする事で自分はとんでもない事を言ったんだ、なんて改めて赤面してしまう。てっきり、彼はもうこの『好き』という心に気づいていると思っていたから、勢いで言ってしまったけれど………。
考えれば考える程恥ずかしくなる。自分が思い切って爆弾発言した場面がリプレイされて蘇ってきた。
そんな事を考えてパニック状態になっていると、彼がまた話し始めた。

「ダメだねぇ、僕の力【アリス】って相手が僕の事を考えている限り読む事は不可能なんだ。
だからかぁ、パーマの心が読めなかったのは…」
聞くのが恥ずかしくて、聞くのが嫌になって、調子にのってぺらぺら喋ってくるアイツの声を流していた。聞いてないのにも関わらず、少年はそのまま独り言のように話を続けた。
その話を聞くのは嫌だったが、でも終わって欲しくはなかった。何故なら、その後には自分の告白の返事が待っている。きっと振られる、そう確信していた。だから、出来るだけこの瞬間だけ近くのままで居たくて、話が終わってしまうのにびくびくしていた。

話が終わったら、きっとさよならだから…。
刹那。


「…それと、もうひとつ読めなかった理由が分かった」


もうひとつの…理由……?
その言葉には少し興味が出来て、伏せていた顔を上にあげて彼を見つめた。




「それはね、僕もパーマの事好きだから」





……………………は………


「はああああああ!!!???」
まさかの両思い。信じられない事実にパーマは思い切り大声をあげた。何気ない言葉にあっさりとした爆弾発言。パーマの驚きは大きかった。アイツの性格らしいのほほんとした告白の仕方。
「憎いもんだよね。両思いの場合、その相手の恋心読めないなんてさ」
(でも、読めなくて良かった。だってきっと読めたら自分は凄く戸惑ってしまいそうで)

「ちょ…ちょっと!!
あんたはムードってもんがないの!?」
けど、嬉しい。
今までにないくらいに嬉しかった。
驚いたり何だりで少し止まりかけていた涙がまた溢れてきた。今度は、切ないからの涙じゃない。嬉しい涙だ。怒っていきなり泣くのは変だと少し戸惑ったが、もう嬉しくてしょうがなかったからそんな事関係無しに思い切り泣いてやった。
「………………馬鹿…っ!!」
心を読める少年は、涙を流して自分に抱きついてきたパーマを抱きしめた。
優しく優しく、宥めるように抱きしめて。

「…泣かないで、パーマ」






「あ、それとねパーマ。これずっと皆に見られてたみたいだよ?」
と、心を読める少年。心を読めるだけに学園の生徒の心までもう把握していたらしい。
「……………え」
心を読める彼との恋愛なんてそうロマンチックで終われる筈がないのだ。



END
------------------------------------------------
終わりましたー…。ごめんなさい;なんか最後の方訳がわかんなく…。今回はパーマにとって心読み君の存在は…ということに気づくお話でした。

ええと、私の発想ですが、心読み君は人の心を読めますが、相手が自分の事を考えている場合(好きな場合)心を読めません。そして、今回では心読み君もパーマの事が好きなんで尚更読めません。好きな子の心は軽く読ませたくはないので(謎)ああ!!訳わかんない!ほんとすみません!すみません!!

なんか素敵サイトさんに心×パーマのイラストを書いてらっしゃる方が居てそれがものすごーく萌えて萌えて萌えまくってしまって、もう書いちゃいました。すいません、やっぱり志村の小説は最後の方が適当になってしまうようです…。パワーがなくなってしまいます…。すいません、なんか期待されてたのがぶち壊しになったりしたら本当ごめんない;許してやって下さい。ではーw書いてて楽しかったです。

ここまで読んで下さった方有難う御座いました☆