「何故にさっきからウチんこと冷たくしよるん」
「いつものことだろ」
「そうやけど…いつも目くらいは合わせてくれるやん
 ウチなんもしてへんやん」



小 さ な イ タ ミ を



話し掛けると無視されるのが当たり前。それでも目くらいは合わせてくれるようになったはず。けど、何故か今日の棗は『ブス』の言葉もないし、目すら合わせてくれなかった。

放課後、何枚もある教室の窓から静かに、そして眩しく夕日が教室を照らしてきた。教室には荷物をまとめている棗と、じっと椅子に座って棗を見つめている自分しかいなかった。そして、今日一日中思っていたことを棗にぶつける。

「何故にさっきからウチんこと冷たくしよるん」

ぶぅ、と頬を膨らまして怒りながら言ってみても相手は目を合わせてくれないのだから意味がない。そんな苛立ちもまざってか、蜜柑は座っている椅子をガタガタいわせた。

「いつものことだろ」

確かにいつものことだが、目すら合わせてくれないほど冷たくされる覚えはない。夕日が眩しくて、相手から自分の顔が見えないことをいいことに蜜柑は隠れて『あっかんべー』と棗に舌を見せた。そして、また頬を膨らませ、いじけたような表情を見せると棗にこう言う。



「そうやけど…いつも目くらいは合わせてくれるやん
 ウチなんもしてへんやん」

会話が進むにつれ、椅子のガタガタという音はどんどん早くなる。
けど、その音は棗が此方へ近づいてきたとたんに止まることになる…。





" ぐに "


「自分の胸に聞いてみろ」

近づいてきた棗の視線は蜜柑の小さな胸。
そして、右手はちゃっかり蜜柑の片胸に置かれていて…






がたあぁぁん!!!

一瞬止まったかのように思われた椅子の音はすぐに大きな音へと変化した。赤面の少女が椅子から落ちる瞬間と一緒に…。

「お、おお女の子の胸に触るなんて…!最低や!変態!ちかんー!!//;」
「痴漢ってのは馬鹿が下心もってやるから痴漢なんだよ」

赤面しながら勢いよく起き上がった蜜柑に棗がぴしゃりと言葉を返した。確かに、痴漢とは少し違いそうだ。棗は、ふぅと息を吐くと、ギャーギャー言っている蜜柑をほっといて、机の上にあった荷物を背負い、教室を出ようとした。が、戸に手をかけようとした瞬間、後ろからカバンをぎゅっとひっぱる存在に繭を捻らせる。


「ちょ、ちょぉまってや!!」
「はっ?流架が待ってんだよ、帰らせろブス」
「理由聞かんとウチ今日気になって眠れひんやん!!」

お気楽そうに見える彼女でも、自分のせいで相手が嫌な思いをしていることが気になって気になって仕方がないのだ。棗は、蜜柑強引さに負け、また息を吐くと蜜柑の方向に顔を戻した。そして、やはり蜜柑とは目を合わさずに俯いて、目をつむった。

「今日一日のこと全部思い出してみろよ」
「…はぁ?何故に思い出さんとあかんの?」
「さっさと思い出さねーと髪燃やすぞ、ブス」
「………っっ!!」

蜜柑は苛立ちながらも目をつむって今日のことを思い出そうとした。

まず、朝…めちゃくちゃ速い蛍を追いながら遅刻寸前で学校へ到着、そのあと、蛍と委員長とでお喋りして、蛍に殴られて、気絶して…そのあと、翼先輩と話をして、そんでもって一緒にお茶して…翼先輩に抱っこしてもらって、そのあと2時間くらい翼先輩と会話して……




「―…で、そのあと翼先輩に教室までおくってもらって…あと…」
「……………………………。」





思い出した結果は…

「…ウチ、今日翼先輩とずっとおったし…棗に迷惑かけた覚えないで?」


鈍感な少女は棗に迷惑をかけていないし、話してもいない、と結果をつげた。
それを聞いた棗の頭には、やはりムカツキマークが浮かんでいる。

「……それが原因だってのがわかんねぇのかよ」

やはり、鈍感な少女には彼の言っている意味が全く解らなかった。
ムカツキマークの彼に対して、少女はハテナマークで対抗した。

「こないだからテメェはアイツのとこばっか行きやがって…」

そう、蜜柑が翼先輩のところへ行っていたのは今日だけでなく大分前から。そして、棗が蜜柑と目を合わせなくなったのも大分前からなのだ。けれど、翼先輩のことしか頭になかった蜜柑は大分前から棗が目を合わせていなかったことなど、気づきもしなかったのだ。

鈍感の彼女はまだ完全には理解できていなく、何気なくこんなことを笑いながら言ってみた。



「……棗、やきもち焼いてたん??アハハ!そうなんや〜!」

"やきもち"彼女が何気なく口にした言葉は、本心ではなく冗談。
『ちげぇよ』そんな言葉を待っていたはずなのだが、棗は……






「――そう、やきもち」





―――――――――……

「……え。じょ、冗談やろ…?」

「冗談って言ったら?」
「………………………。」
「…うそ、ほんと」
「はっ!?どっちなん!?」

少し顔を赤らめながら混乱している彼女の顔を見ると先程の怒りなど綺麗に消えてしまう。にやり、と口をユー字にすると棗は蜜柑の耳元に唇を近づけ、不気味に笑う。そして……



「―――"冗談"じゃねぇよ。
 完璧なやきもち、嫉妬、憎しみ」

次々耳にあたる呼吸が熱い。
体全身がくすぐられているみたいな感じがした。

あまりの恥ずかしい言葉、恥ずかしい彼の行動に蜜柑は座り込んでしまった。座り込んでしまった彼女を起き上がらせるために彼女の両腰にかけた彼の手は一瞬のうちに彼女の手により振り払われてしまう。


「か、からかうんもええ加減にしぃ!ウチはそんな馬鹿やないで!?」
「からかってねーよ、理解しろよ、ブス」
「さっきからブスブスブスブスいうて!ウチはそんなブスやない!」
「どう見たってブスだろ。ブス」
「だからってそんなブスブス言うこと、な……」
「好い加減、黙れブス(ぼっ)」
「…あぎゃっ!!;;」

ギャーギャー争うことが面倒臭くなったのか、棗が蜜柑の髪を燃やしたのだ。髪を燃やされてショックをうけている蜜柑を棗は少し見つめると、何を思うのか、まだ起き上がっていなかった彼女の体の上にのしかかった。


「な、何すんのっ!はよ、おりてっ!」

蜜柑が強い口調で言っても、棗はいっこうにどこうとしない。
そして、蜜柑のあごに右手をかけた。





「―おい、あいつにこんなことされたんじゃねぇだろうな」

「………っ!?」

目に映ったのは近すぎるほどに自分の顔に近づいた棗。近づくつれに棗の長いまつ毛が自分のまぶたに突き刺さって痛かった。半開きだった唇になまったるいものが触れて、しつこく追いかけてくる。力強く閉めていた歯を何かが無理矢理こじ開けて、ゆっくりと口の中に進入してきた。そのなまったるいなにかは自分の舌をいやらしく、しつこく絡めとってきて気持ちが悪かった。

自分の唇をしつこく追い求めてきたものが離れると、冷たい空気が濡れた唇を撫でた。それと同時に棗の顔がぼやけて映る。そんな気持ち良さを充分に感じられずに、またなまったるい、それが角度を変えてしつこく追いかけてくる。それは何回も続いて自分の意識をもうばっていく。

それが終わったのは彼の服をぎゅっと掴んでいた腕がぱたりと地に落ちたときだった。

離れた拍子にまたやってきた冷たい空気と、ぺちっと軽く頬を叩く手の存在により意識を失ってつむられていた瞳は静かに開かれた。



「……ぅ…」

開かれた瞳に映ったのは、やはり先程と変わらない。教室の天井と、いまだに自分の上にのしかかっている棗の顔。どことなく悪戯っぽく笑っている棗がむしょうに怖かった。




「……今………何が起こったん…?」

まだ、完全に意識が戻っていない蜜柑は自分の上にのしかかっている棗にかすれかすれで聞いた。棗は、また不気味に微笑むと、こう言った。








「――――ディープキスの刑。」

――――…



「でぃ…でぃーぷ…??…き、キス…!!!???」

幼い蜜柑に『ディープ』という意味は解らなかったが、『キス』という言葉は理解できた。そのとたんに蜜柑の頬は濃い桃色へと変化した。

棗は蜜柑からそっと起き上がり、蜜柑を上から見下ろした。

「中等部にでもなりゃ、みんなこういうことしてんだよ。
嫌だったら、あいつにもう近づくな」
「う、嘘や!!翼先輩は…そんなことする人やない!!」

翼がそういうことをするかは定かではないが、とにかく棗は嫉妬でいっぱいだった。またひとつ息を吐くと、棗は教室から再度出ようとした。けど、後ろから言葉をかけてくる少女で、その足は止まった。




「どうして…翼先輩にやきもち焼いとったん…?」



――…どこまで鈍感なんだ、こいつは。









「――さぁ?

   どうしてでしょう」



まぎれもなく、俺はこいつが好きだから。


END.......


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『どうして?』という題で蜜柑祭に送らせて頂きました。っていうか、マジやばいですね、この小説。改めて読んでみるとやばすぎです、いやほんと削除したい。だって意味がわかりませんもん、はい。
本当にごめんなさい、そして翼が悪者みたいになってしまって申し訳御座いません。