彼女に告白しよう。放課後の教室で、僕は今そう決心した。高等部に遊びに行く度に彼女は笑顔で迎えてくれるし、彼女の方も中等部に遊びに来てくれる。その度に沢山話をした、真剣な話も、お互いの悩みも、くだらない話も。もう彼女に自分自身をアピールすることは何もない。ここで勝負にでよう。僕はそうごくりと息を呑んだ。
白い紙の上で細い棒の影が揺れて、そこに字が書かれていく。”佐倉蜜柑さま”まずそう書いた。何故手紙なのかは、彼女にゆっくり考える時間を与えてやる為だ。直接言えばあちらを困惑させてしまうだろうから…というのは多分僕の言い訳だ。内気で臆病者なんだ、僕は。
「…これでいっか」
そう小さく漏らしてシャーペンを置いた。書いた内容は率直だ。『あなたが好きです。付き合って下さい』。初めて会ったとき僕は〜だなんてぐだぐだ無駄なことを書くつもりはない。僕の気持ちは、”好き”これだけだ。
便箋を丁寧に四つ折りにし、封筒に入れた。それから開け口に貼るシールを取り出そうと鞄を漁っていると、外からよく知る甲高い声が聞こえた。その声に導かれるようにして駆けていき、勢い良く窓から顔を出して声の人物の姿を探す。下に目線を向ければ、そこにはやはり彼女の姿があった。小さくてよく分からなかったがあれは絶対に彼女だ。何か怒鳴るような声を出して誰かを追いかけている。その誰か、は……
「……にー…ちゃん…」
何時だったか、前に彼女の親友に”蜜柑は日向君が好きなのよ”と言われたことがある。僕はそれを信じなかった。だから”嘘だ”と返したら、その人は”蜜柑の顔を見ていれば分かるでしょう?”と言って僕の頭を撫でた。だけど、僕はそれでも信じなかった。嘘だと思った。いや、それは多分、認めたくなかっただけなのかもしれない。
『なつめーー!人をからかうのも好い加減にせえやーー!コラー!!』
『ばーか。誰がお前みたいなバカ相手にするかよ』
『なんやとーー!?もっぺんゆうてみーー!!』
二人の声を聞く度、視界が鈍くなっていく。ずきんと胸が痛んで、現実を突き出されたようで吐き気がした。信じたくなかった光景が、今目の前で動いている。響く声は暴言ばかりで、だけどそこには確かに歯痒くなるほどの愛しさが存在していた。思い知らされてしまう、僕の入る隙間なんてものは、最初からなかったのだと。
「……っっ」
僕は勢い良く窓を閉めると、元の席まで戻り、どさっと力尽きたように座った。そしてぼうっと天井を見上げ、息を吐く。混乱している。何が何だかあまりよく頭の中で整理が出来ていない。ただこの心は、酷く悲しく、痛くて。
ふと先程書いた手紙が目に付く。おもむろに手紙に手を伸ばし、その中の便箋を取り出した。そこに書いてある文を読み返したとき、僕は自己嫌悪で気持ちが苛立っていくのを感じた。腹が立つ、何もかも。この手紙も、現実も、僕も。
僕は持っていた便箋を手でぐしゃぐしゃにし、机の上に叩きつけるように投げ捨てると、そのまま机にうつ伏せになった。
『なつめーー!』
まだ彼女の声が外から聞こえてくる。大きくて高くて、愛らしい声。だけどその声は、僕ではないあの人の名前を呼んでいる。切なくて、悲しくて、痛くて、泣きたくなる。聞きたくなくて耳を塞いでも意味はなかった。頭の中で彼女が僕の名前を呼び、優しげに微笑んでいるから。好きすぎた、彼女を。刻み込みすぎた、彼女を。愛しくて、堪らない。
「………」
僕は、ぐしゃぐしゃの無惨に転がった手紙をぼんやりと見詰め、それから手を伸ばした。一度投げ捨てたそれをゆっくりと丁寧に広げていき、机の上で伸ばす。そして消しゴムを握り、一度書いた文字を消した。さらにシャーペンを持ち直し、そこに新しく文字を書いていく。”佐倉蜜柑さま”その書き出しは同じ。だけど、その次の言葉は…
「……やっぱ…バカバカしい、こんなの…っ」
再度書き直そうとしたくせに、僕はまた手を止めた。そして長い溜息を吐きながら便箋を紙飛行機の形に折っていく。出来上がった紙飛行機を手に取ると、窓の方へ歩いていき、それを思い切り外に飛ばした。飛ばされた紙飛行機はぎこちない動きで進みつつも、確実に前へ前へ飛んでいく。
手紙は要らない。今手紙を書いたら、僕の弱音や我儘を鬱陶しいくらいに書いてしまいそうだから。臆病な気持ちはもう捨てる。彼女が99%彼のことが好きでも、まだ1%は残っている。ゼロじゃないんだ。だからとりあえず、今は一時休戦。僕は先程書き直した文章を思い出しながら、真っ直ぐな瞳で飛んでいく紙飛行機を見送っていた。
『佐倉蜜柑さま。僕を好きになってはくれませんか?』
内気で臆病で、待っているだけの僕はもう捨てる。これからはしっかりと前を見て。彼女の気持ちを彼から奪う計画、いや作戦をたてることにしようか。
僕から君へ
(今は1%でも、いつかきっと)
*
「学アリフェス」さまに投稿させて頂きましたvお疲れさまですそして有難う御座いました!
この作品はただ、手紙で飛行機を折って窓から飛ばすよーちゃんの姿が書きたかっただけの小説なので内容とか結末が意味不明になってしまいましたスミマセン(汗)
本当は我が家でのよーちゃんは棗のことを「棗くん」と呼んでいたのですがやっぱり「にーちゃん」に戻しました。