小学生になると同時に、なっちゃんのご両親がそれぞれフランスと中国へ旅立った。私がいつ帰ってくるの?って問うたら、二人は”当分戻らない”と言ってさっさと空港へと向かってしまった。なっちゃんは優しいから、何も文句を言わなかったし、”寂しい”って言葉を一言も口にしなかった。
でも私は怒った。まだ小さななっちゃん一人を残して外国へ行ってしまうだなんて。それも、決まったのはつい昨日のことだと言うのだ。そんなことを勝手に決めて、あんな大きな家になっちゃんを一人にして、あの二人は狂っている。
だけどそんな私になっちゃんは言った。”二人は仲が悪かったから仕方ないんだよ”って。とても悲しくて、切なくなって、私はなっちゃんを抱き締めて泣いてしまったんだ。
「なっちゃん。ウチん家でご飯食べてって」
土遊びをした手でなっちゃんの手を握り、強引に引っ張る。あんなに眩しかった空は今ではもう真っ赤に燃え上がっていて、何羽かのカラスが鳴いている。こんな光景を見ながら家に帰っていくのが何時もの習慣で、なっちゃんを晩ご飯に誘うのも習慣だ。
なっちゃんは手を引っ張る私に薄い笑みを見せて、私もなっちゃんに微笑み返した。
「…なあ、なっちゃん。やっぱり寂しい?」
「なにが?」
問うている内容は分かっているのに、技とらしく”なにが?”と返すのはなっちゃんが”大丈夫なふり”をしている証拠だ。それは私にも分かってしまって、私は小さく微笑んで首を振った。
「ううん。なんでもない」
ご飯を食べている時のなっちゃんは、とてもゆっくりで、口に運んだ肉じゃがを、これまでかというくらいにしっかりと噛み締める。では私と祖父より食べ終わるのが遅いのか、ということではなくて、なっちゃんは食べるのがゆっくりだけどちゃんと私達のペースと合わせて食べていた。
食べている最中になっちゃんはよく時計を見ている。多分ゆっくり食べるのは、出来るだけ長くここに居たいと思っているからではないかと私は思っていた。その証拠に、なっちゃんは祖父が”遅いから帰りなさい”というまで帰らない。
帰りたくないのなら、ご両親が帰ってくるまでここに住めば良い。そう言ってみれば、なっちゃんは”母さんと父さんの家だから”と言って断る。なっちゃんはとても優しくて、とても寂しがりやだった。
「…なっちゃん、おやすみ」
お隣のなっちゃんの大きな家の前で、手を振る。
「…ああ。おやすみ」
そうぼそりと言って、なっちゃんはゆっくりと背を向けた。私の家でご飯を食べた帰りのなっちゃんの横顔は、とても寂しそうで、何だか影があるように見えた。それはなっちゃんとお別れをするときに何時も見る表情である。なっちゃんはやっぱり寂しいのだ。
何だかとても悲しくて、愛しくて、思わず私は後姿に叫んだ。
「…っっウチ!なっちゃんと結婚したい!」
手をドアノブにかけたまま振り向いたなっちゃんの顔はとても驚いていて、口をぽかんと開けていた。だけど私は構わず言葉を続けた。
「ほんで…っあったかい家族を作ってあげるから!」
声が震えて、頬が一気に熱くなった。なっちゃんはドアを半分開きながら、私に向かって小さく頷く。私にはその時のなっちゃんの表情が少し照れ笑いしているように見えた。
なっちゃん
〜小学生・春〜
(あったいひと)
*
「なつめちゃん」じゃちょっとあれだから「なっちゃん」にしてみた。
パラレル、はまってまあす。なんでいつも私の書くパラレルの棗は可哀想なめにあっているんだろう。まだ幼い棗くんなので性格はまだあどけないです。