ある国のどこかに、毎日お姫様のお城を訪問していた王子様がいたそうな。
今日は、一つそんなお話をお聞かせ致しましょう。
棗という名の王子は、透き通る深紅の瞳を持ち、冷たいクールなイメージを持たせる美少年でありました。
王子が十七歳になった時、父である国の王様は王子に言いました。
『お前もそろそろ妃を迎えなさい。私は何も口出しはせぬ。お前が心から惹かれ、心から愛した女性を好きに選べば良い』
それから王子は、家来達に国の沢山のお姫様の情報を持ってくるように命じました。百近い姫の情報が見つかりましたが、どれも王子はしっくりいきませんでした。しかし、情報の中に気になるものがただ一つだけありました。
家来の話を聞いて、耳に止まりましたのは隣町のお城に住むお姫様の情報でした。その姫は人々が驚く程の美貌と可憐さを持つ絶世の美女だというのです。しかし王子が気に止めたのはそんなことではありません。何でもそんな噂がたっているのにも関わらず、その姫の姿を家柄の者以外誰一人と見た事がないというのです。生まれつき身体が弱い為外に出ることが出来ないということになっているようですが、多分確かではないでしょう。
王子はすぐさま姫の住む城に向かうように家来に言いました。姫の姿が見たい、そう思ったのです。人々が驚く程の絶世の美女とはどのようなものだろうか。
「日向の城の者だが。姫に会わせてはくれないか」
日向は誰もが知ります大きなお城だった為、この城の家来は直ぐに慌てて門を開けました。家来に導かれそのまま中に進んでいきますと王子はある部屋に案内されました。部屋は広いですが、家具も何もなく、ただそこには金で作られたチェアがありました。
そこにゆっくり座ってすぐに目に付きましたのが目の前の金のドアです。ぼうっとそれを見詰めていますと家来が言いました。
「そのドアの先に姫様がいらっしゃいます。姫様に何か尋ねたい事がありましたらそこからドアに向かって声をお出し下さいませ」
言い終えますと、家来は部屋を出て行きました。その言葉に王子は初めて姫の姿を見るという事の難に気づきました。最初から城の者達は姫のお姿を見せる気などなかったのです。許されているのは声だけ。
金のドアには微かな穴が幾つかあり、声が通りやすくなっています。試しに穴から中を覗いてみますが、やはり微かな隙間なので中はぼやけて見える程度です。
それにしても何故こんな部屋が。きっと棗王子と同じように姫をお妃に迎えようといらっしゃった王子が他にもいたのでしょう。
してやられた気分で短気の王子は少々お怒り気味でしたが、気を取り直して家来に言われましたとおりドアに向かって声を掛けました。
「日向の城の王子、棗と申します。あなたの名前を教えては頂けないでしょうか」
優しい口調でそう問いますと、微かに小さな声が返ってきましたので王子は耳を澄ませました。
『…ようこそいらっしゃいました。私の名前は蜜柑と申します。今日はどのようなご用で』
聞き取った姫の微かな声は王子の想像していました声とは程遠いものでした。透き通るような細くて美しい声を聞かせて下さるのかとばかり思っていましたから、真逆の少し低い声を聞いた時には王子の気分も下がってしまいました。
ですがやはりそのお姿を見るまでには諦めることなんて出来ません。王子は負けず嫌いであり、何より自信家でいらっしゃいましたから。
「美しいと噂のあなたの姿を、一度見てみたいと本日足を運んだのです」
そう淡々と言いますと、姫が黙り込みました。しかし王子はそれを追い詰めるように言葉を進めます。
「どうしてあなたはお顔を見せてはくれないのです」
『…恥じらいの為、身体中熱くなり、胸が苦しくなるからで御座います』
「どうしてあなたはその金のドアの先に私を入れては下さらないのです」
『…恥じらいの為、胸が苦しくなり、声が出なくなるからで御座います』
何を問いましても、優しい言い方で姫は王子の質問に答えていきました。六つ目の質問の答えが返ってきた時、王子は一度城に戻りますことを決めました。そしてその時心に誓ったのです。
ー必ず姫の姿を見てやる、と。
それから王子は毎日のように姫のお城を訪ねました。他に訪ねてきました王子を追っ払いましてでも姫に会いに行きました。
しかしもう二十三もの日が経っていますのに、王子は一度も姫の姿を見ることが出来ませんでした。そしてこの頃、勘の鋭い王子はやっと気づいたのです、あることに。
「どうしてあなたはお顔を見せてはくれないのです」
『…恥じらいの為、身体中熱くなり、胸が苦しくなるからで御座います』
「どうしてあなたはその金のドアの先に私を入れては下さらないのです」
『…恥じらいの為、胸が苦しくなり、声が出なくなるからで御座います』
何時もの質問をドアを挟んで問い、六つ目の質問に入りましょうときに、王子は思い切りチェアから立ち上がりました。そしてずかずかと金のドアに向かっていきますと、勢い良く金のドアを蹴りました。金のドアの厚さは薄い物でしたから、金のドアは簡単に外れてしまいました。中から低い悲鳴が微かに聞こえ、家来に取り押さえられながらも王子は中に入っていきました。
ーやはり勘は当たっていました。
「…こいつのどこが"お姫様"だって?」
思わず地の声を出しました王子の目に映ったのは、黄色の華やかなドレスを着て、怯えている中年男の姿でありました。今まで王子が話していました姫は、本物の姫ではなく、姫を偽装した城の家来だったのです。この事実に、堪えてきた王子の怒りも頂点に足しました。
「本物の姫に会わせろ」
王子はそう言いますと、勝手にお城を物色しだしました。お城から追い出したいところですが、大きなお城の王子となりますと家来達も手がつけられません。
暫く幾つかの部屋を見回っていますと、王子はある部屋の前で止まりました。そのドアはとても大きく、金で作られているためきらきらと光っていました。明らかにこの部屋だけ特別な空気が漂っています。
王子はドアノブにそっと手をかけました。
すると家来達がそれに気づいて慌てて叫びました。
「そ、そこはいけません!そこには姫様が……っっ!!」
そう言いかけて家来は慌てて口を覆いました。その途端王子の表情が微かに緩んだのが分かりました。その表情ときましたらまるで悪魔のようでいらっしゃいました。
がちゃ、と静かにドアを開けて直ぐに飛び込んできましたのは甲高い細い声でした。
「あっご飯〜?今日はなんやろなあ〜!いつもありが………」
食事係が来たのかと勘違いして出迎えてくれましたのは、オレンジ色のドレスを着た少女でした。城のお姫様というレッテルを覆したような元気さを持つ少女は、正真正銘このお城のお姫様。
くりくりとした大きな瞳を持ち、『誰?』と小さく動きます桜の唇は光を含んで潤い、垂らされた透き通る茶金の長い髪は神々しさをも生み出す。鼻筋、輪郭、瞳、全ての部品がどことなく丸みを帯びていまして、何だか美しいというよりは可憐と思わせる愛らしさでありました。女性に惹かれたことのありませんでした王子は、その姫の愛らしさに思わず目を見開きました。これなら絶世の美女と言われましても可笑しくはないでしょう。
「…お前が……」
そうぽつりと声を出された王子の表情は何時にも増して悪戯そうに微笑んでいました。王子は静かに部屋のドアを閉めますと、家来達が入って来れませんように中から鍵を閉めました。何か様子の可笑しい見慣れぬ人物に、姫は思わずたじろぎました。
家来達が外でドアを叩いてきますのを無視し、王子は姫にゆっくりと近づきました。姫がベッド近くまで引き下がりましたところで、王子は姫を強引にベッドに押し倒しました。抵抗する姫の愛らしい唇を無理やり奪い、そっと離しますとこう言います。
「俺と一緒に城へ来ないか?」
しかし姫はすぐさま王子を睨みつけました。ですがそれが王子には逆に魅力的に見えてしまうのです。穢れを知らない一直線な純粋なこの姫がどうしても欲しい、思いは募るばかりです。
「城から出れば求婚が増えるばかりで…っウチはもう懲り懲りなんよ!だから今までこの城の者以外には姿を見せへんかったんや!ほんまは外に出たいのに!妃がなんなんよ!ウチは絶対妃なんてならへん!!」
叫ぶような姫の訴えに、王子は思わず口を噤みました。そしてゆっくりとベッドから起き上がりますと、部屋のドア近くに戻っていこうとしました。
諦めたのか、いいえそうではありません。王子はやはり負けず嫌いで、自信家でありましたから。
「…絶対に俺を好きにならせてやる」
明日も来る、そう付け足して王子は部屋から出ていきました。
そこから姫を求めての本当の訪問が始まったのです。
その後、王子様とお姫様が結ばれたのかは、また別の話。
訪問王子
(我の姿がうつるまで、さあいくらでも)
*
疲れた…。
なんとなく思い浮かんだアンデルセン風のお話(ぇ)
訪問王子とかそんなセンスのない題名は適当なので気にしないで下さい。
ってか棗くんいきなり姫の唇奪うなよって話ですがまあ気にせずに。
ってかなんか色々と中途半端でごめんなさい。