部室の扉の前で立ち止まり、何となく今日見た夢の一部分を思い返した。独りぼっちで留守番をすることが多かった自分に、父親が言ったあの時の言葉だ。
最近天気が悪く、雷がずっと続いていた頃だった。何時ものように仕事に向かうために背を向けた父親の服を無意識に引っ張ってしまった。きっとその時の自分は、"孤独"の限界にきていたのだと思う。とても小さかったのだ。
思わず掴んだ裾を大袈裟に離した自分に、父親はにっこりと笑って言った。
『…ハルヒ、アイミスユーって知ってる?』
目線を合わせる為に小さく屈んだ父親の言葉に、自分は小さく首を振った。それを確認すると、父親は自分の頭を優しく撫でながら、言葉を続ける。
『あなたがいなくて寂しい、って意味なのよ』
『…さみ、しい……?』
『そう。ハルヒは今、そう思ってくれているの?』
続けられた言葉に、自分は嘘みたいに素直に頷いた。まるで魔法にかかったように。父親に心配をかけたくはないから、いつも冷静を装っていたのに。その後父親は仕事を休んでずっと一緒にいてくれた。一緒にご飯を作って、一緒に暖かな布団の中で眠った。
”アイミスユー”
今思えば、父親はわざとあんな言い方をしたのかもしれない。単刀直入に聞けば、多分自分が意地を張ることくらい分かりきっていたのだ。アイミスユーなんて、何だか本当に呪文みたいだ。
懐かしい匂いはそっと胸にしまい、小さく息を吐いて扉を開ける。部員は既に集まっていて、綺麗に足を組んだりして全員準備万端なようだ。
しかし、何かが足りない。ああそうだ、あの人物がいないのだ。
「環先輩は?」
「理事長がどっか色んなとこに連れ回してるらしくて、今日は来ないよ」
そう片割れのどちらかが言い、優雅にインスタントコーヒーを口に運んだ。へえ、と平然に返してはみるが、何故だか胸の奥でもわっとしたものが残った。
そのまま開店を控え、お菓子やコーヒーの準備にかかる。だが何時もテキパキやる仕事が、思うように軽やかに進まない。カップが引っくり返しだったり、インスタントの粉をカップから離れたところに落としてしまったり、何だかどうしようもないヘマばかりしている。
「ハルちゃんどうしたの?気分が悪いの〜?」
「いえ…。すいません」
とくに今日は何もなかった筈だ。遅刻もしていなし、お弁当のおかずもちゃんとあるし、何時もどおりに勉強して、何時もどおりに部活に来て…。変わったのは、部長がいないことくらいだ。
どうしてこんなにもあの部長のことを考えてしまうのか。あの煩さがないからだろうか。それがないだけでヘマを起こすなんて…そう考えるとある意味あの部長は偉大だとも思う。
ーでも、どうして。
『…ハルヒ、アイミスユーって知ってる?』
急にまたあの言葉が浮び、今度はカップ自体を落としてしまった。
アイ・ミス・ユー
(いなくなって初めて気づくこと)
*
I miss youって「あなたがいなくて寂しい」って意味であってるよね…?間違ってたらごめんなさい。無理矢理にでもそういう意味にしといて下さい(ぉ)
やっぱり無理矢理考えたネタとぱっと浮んできたネタとじゃ書きやすさが違うな。これは書きやすかったです。