(鏡夜くんと環くん)


この学校の敷地に野良猫なんて珍しい。此処の周りは全て完全な設備がされているし、それが小動物だとしても入ることは容易くないのだ。
野良猫が眼鏡の青年をじっと見詰めている。青年が一歩足を進めると、さらに野良猫は青年の足にぴっとりとくっ付いてきた。しかし青年は動物などに興味はなかった。何故なら構ったところで何のメリットもないからだ。
そのまま意地でも足を進めるが野良猫は青年の足にくっ付いたまま離れない。
「………」
腹が減っているのか。頭の回転が早い青年は直ぐにそれに気づいた。何か食べ物をくれと野良猫は青年に強請っているのだ。
確か今朝、フランスのお土産と言って女子から高価なビスケットを貰った気がする。それを思い出し、青年は鞄からビスケットを一つ取り出すと、細かく割って野良猫に差し出した。しかし青年にとってそれは優しさではなく、先に進む為の障害を排除しようという考えだった。
目の前の美味しそうな匂いに、野良猫は青年の手に飛びつくようにそれを食べ始めた。
「…たく。上品に食べるということを知らないのかこいつは」
そうぶつぶつ文句を言いながら野良猫が食べ終わるのを待っていると、此方に向かってくる足音の存在に青年は気づいた。足音は段々と近づいていき、青年の前まで来ると立ち止まった。青年にはそれが誰だか分かっていた。リズミカルな個性的な足音、それに愉快な鼻歌を醸し合わせる人物はただ一人しか思い当たらないのだから。
「鏡夜が動物に構うなんて珍しいなっ。もしかしてそれが本当の姿だったりして…ってすまん!もしかして秘密にしてたりしたか!?鏡夜のプライベートをおお俺って奴はあ…っっ!」
「俺に変な疑惑を作るのはやめろ環。離れさせる為に餌を与えただけだ」
そんな騒がしい青年に眼鏡の青年がぴしゃりと言葉を返すと、それと同時に野良猫はビスケットを食べ終え、野良猫は何事もなかったように去って行ってしまった。
「むむ。食べ物が目当てだったのか」
「そんなものだろ。あの野良猫はきっとああやって餌を与えてもらい生きているんだろう。人間にあそこまで慣れているのもその所為だ」
そう言い終えると、眼鏡の青年は歩きを再開しようとした。しかし真後ろのおバカな青年が行き成り『あ!』と大きな声を出したものだから、その足は停止してしまった。何事だろうと眼鏡の青年がゆっくりと振り向いた時には、眼鏡の青年の腕はもうおバカな青年により捕らわれていた。行き成りのことに、思わず眼鏡の青年は目を見開く。
「鏡夜大変だ!血が出ているぞ!」
そう言われて状況に気づく。見てみると、掴まれた手の人差し指に微かな切り傷があり、そこからうっすらと血が溢れて出てきていた。きっと野良猫にビスケットをあげた時に爪痕を残されたのだろう。証拠に、確か爪が鋭かったような気がする。
しかし特に大したこともない。切り傷と言っても一ミリ程の長さだし、血も溢れているというよりは滲んでいるという程度だ。寧ろ、彼に対してよく気づいたなと思うくらいである。
「大袈裟に心配することじゃないだろ」
しかしおバカな青年は発想が違うのである。
「駄目だ!傷口は放っておくと水戸○門が放送打ち切りになるという危機をもたらすのだと父さんが言っていたのだ!こうしちゃいられん!鏡夜!消毒をするのだ!!」
また理事長が変なことを教え込んだのかと眼鏡の青年は息を吐いた。
しかしおバカな青年の手から逃れようとした指先は、思いもしなかった場所へと向かっていくのである。そこは必要以上に暖かく、柔らかなところだった。
「……っ!?」
見れば、人差し指は彼の口内に収まれていた。指先は巧みな動きで舐められ、裂け目を温かな体温で満たす。その中で微かに響く水音が、厭らしく指先を火照らすようだ。何だか変な気分だ。
珍しく頭が真っ白な状態になり、限界に近づくと同時に眼鏡の青年のもう片方の腕から鞄が落ちた。それが合図となって口内の人差し指も引き抜かれた。
「ん。これで一先ず大丈夫だろ。っと、鏡夜なに鞄落としてるんだ…ってああ!!こんなところで道草をしている場合ではなかった!可愛いハルヒが待っているんだった〜!!鏡夜!早く部室に向かうぞ!!!」
そう叫ぶと彼は眼鏡の青年の前を慌しく走っていった。
馬鹿にも程があるのではないだろうか。

その後姿から目を離すことが出来ない。
胸をとんっと叩かれたような感覚が何回も続いている。
「……俺にホモ要素はないと思っていたが、な…」
そう温もりの残るそれを眺めて呟いた言葉は、何の意味を示しているのやら。




指先に残されたの

は恋心


(そのとき芽生えた何か)




鏡夜×環キタ━━━━(゚∀゚)━━━━!!!ぇ
光馨の次はこっちのBLやっちまいました。
このCPも大好きです。
私は今までBLに興味はなかったのですがホスト部を読み始めてからなんか目覚めました(ぇ)この作品は環にちょっとだけ恋愛感情を感じてしまう鏡夜のお話v書いてて楽しかったですvv