懐かしいカードの束をずずいとハルヒの目の前に持っていき、環は目を輝かせて言った。”カルタをしよう”と。しかしそんな彼の横をすいっと通り過ぎ、肩に掛けていた鞄から教科書を取り出しながらハルヒは淡々とこう返した。
「自分はいいです。やらなきゃいけないことも沢山あるし…」
テストが近いのだ。だからその為に勉強をしなくてはならない。しかしテストは三ヶ月後。それでもテストが近いと感じているのは、ハルヒが優等生で、そして特待生だからだ。
「…っやらないのかあ!?」
目を潤ませ、とても悲しそうに何度も環がそう言ってくる。ハルヒはこの面倒な先輩を誰かに任せたい(おしつけたい)と考えたが、生憎今は早く部室に来すぎた所為か二人きり。誰かにバトンタッチすることはできないし、ターゲットは自分だけだ。
「…だから。忙しいんです」
「本当に本当に駄目なのか…?」
「駄目ですっていうか無理です」
「……そうか…。じゃあ俺一人で楽しくカルタやってるからな…っっ!あとでまぜてと言っても、例えハルヒでもまぜてやらないんだからなあーー!!」
「はいはい」
そう言葉を交わしたのを最後にして、それから二人は自分のやりたいことをしだした。ハルヒはテスト勉強。環は地べたにカルタを並べ、和歌を読んでいっては一人でぺしぺしと音を立ててカードにタッチしていく。それが暫く続いた。
(……まだやってる…)
もう大分時間は経った筈だが。部員がなかなか来ないことより、ハルヒは環がいつまで一人でカルタをやっているのかの方が気になって仕方がなかった。和歌を読む声も段々とトーンが低くなっていくような気がするし、明らかにつまらなそうだ。それでも、ぺしっとカードにタッチする音だけは無駄に勢いが良かった。
ハルヒはその光景をぼんやりと見詰めると、それから何か決心したのか座っていた椅子からすくっと立ち上がった。そして一人カルタをしている環の方へゆっくりと向かっていく。
「……カルタ、やりますか?二人で」
「えっっ!?良いのか!?」
まぜてやらないと先程言っていたくせに、この人はどうしてこんなに嬉しそうな反応をするんだろう。まるで今までずっと待っていたかのように。
環はもう一度張り切り直すとカルタを綺麗に並べ始めた。そして自分の隣にもう一つのスペースを作って、そこにハルヒを座らせようと手招きする。その時の表情ときたら、本当に嬉しそうで。その笑顔につられて微笑みながら、ハルヒは静かに指定されたそこに座り込んだ。”偶には彼と過ごす時間も悪くはないかもしれない”と、そんなことを思いながら。
彼に費やす時間
(笑顔の彼を見れば悪い気はしない)
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ただ一人でカルタをぺしぺしやる環が可愛すぎたので書いただけです。たまちゃん可愛いから大好きです。;