何時からだったろう。彼のことをこんなにも気になるようになったのは。自分はよく人に言われるようにとても鈍感だから、この気持ちに気づくのに随分と時間がかかった。
でも最近自覚した。自分は、彼の姿ばかり見詰めている。気がつくとその後姿を無意識に目で追いかけてしまうのだ。自分は彼の人柄の良さや、仲間を思う気持ちに尊敬を抱いていた。それは認める。だけど何時の間にかそれは恋心へと変化していったのだ。
最初はただ彼が目立つ存在だからなのかと思っていた。でも気がつくとそこに彼の真剣な横顔に見惚れてしまっている自分がいた。それに気づく度に自覚させられた、自分は彼が好きなのだと。
どうやら自分は、気づくと直ぐに伝えてしまいたくなる性ならしい。それは今気づいたことだ。無論、今までそんな経験がなかったのだから。それにモワモワとした慣れない気持ちをずっと抱えているのなら、いっそ伝えてすっきりしてしまった方が気分が良い。自分はそういう奴だ。
だから偶々部室に二人きりという今を、自分は利用してみようと思った。
「環先輩」
ソファに座り、ぼうっとしていた彼の名をきっちりとした声音が呼ぶ。行き成り名前を呼ばれた為か、彼は”わあ!”と大きな声を出し、ソファから思わず腰を浮かせた。そんな彼を見、くすりと笑いが浮かびつつも、自分は気を取り直し、ゆっくりと彼に近付いていった。
しかし自分が思い描いていたものと現実は大分違うもので。簡単に言えると思っていた”好き”は、そう容易いものではなかった。息苦しさが生じ、自分が確かに緊張しているということが分かる。自分はゆっくりと深呼吸すると、ソファに慌てて座り直している彼の前に姿勢良く立ち、真剣に見詰めた。
「自分は、環先輩が好きです」
懸命に声を出し、そう伝えた。彼は目を見開き、口をぱくぱくとさせている。さらにその白い肌が一気に赤く染まると、同時に彼は抱えていたクマのぬいぐるみを落とした。
「はっ…は…ハルヒが……俺のことを…っっっっ!!?」
彼がとても嬉しがってくれているということが十分に伝わる為、自分は少し安心していた。もしかしたら迷惑がられるかもしれない、という不安を少しながら感じていたからだ。しかし恋愛というのは、やはり自分が思い描いていた単純なものとは程遠いものだったのだ。
「…っハルヒが初めて俺のことを好き、と…!!すぐに連絡しなければ!!お母さああーーん!!ハルヒが…っハルヒがお父さんのことを好きだと言ったよーーー!!!」
そう叫び、彼は携帯を取り出した。理解していなかった。自分の言った”好き”は彼には”家族愛”と解釈されたらしい。
何時もは”まあいいか”と流す自分だが、その時は何故か違った。苛立ったのは勿論、自分は”知ってほしい”と強く思ったのだ。番号を四つまで押し終えた彼の携帯を奪おうと、自分は咄嗟に手を伸ばす。しかし勢い良く手を伸ばした所為か、止める為だけに奪おうとした彼の携帯は、自分の掌で大きく撥ね除けられ、かしゃんと落ちた。さらに彼の身体は仰向けに倒れ込み、自分の身体は倒れ込んだ彼の腹の上に乗っていた。
「ハル、ヒ…?」
「…今言った好き…は、父としてなんかじゃありません」
自分の声が熱を帯びていくのが分かる。こんなに必死になったのは、そしてこんな気持ちになったのは多分初めてだ。誰かに伝えたい、受け止めて欲しい、そして愛しい…という、この気持ちは。自分の下にいる彼は、先程と違った真剣な表情をし、大きく目を見開いて、瞬き一つしないで見上げてくる。ずっと見詰めていたら、眩暈【めまい】がしてしまいそうだ。
「自分は、環先輩を一人の男性として見ているんです。好きなんです、環先輩が」
意味分かりますか?、そう付け足すと、急に彼の表情が変わった。大きく見開いていた瞳は、すっと薄くなり、優しげな穏やかなものに。しかしそれは何時にも増して真剣な表情にも見えた。そんな彼に思わず釘付けになっていると、彼が手を伸ばし、ふわりと自分の頬に触れてきた。触れられた途端、至る所から熱が集まり、頬が熱くなっていくのが分かった。彼は時々、自分を麻痺させる。
彼のもう片方の手が項に回ったかと思うと、直ぐに自分の顔は彼に引き寄せられ、そのまま彼は自分にキスをしてきた。言葉を交わさない、数秒の合間の出来事であった。
触れるだけの一度目のキスを終えると、次は無意識に自分からキスをしていた。彼の胸に手を置き、角度を変える深いキスを。自分の顔を引き寄せていた彼の手の力は段々と強くなり、最後には二人、ソファの上で抱き締め合うようにキスを交わした。そっと唇を離し、彼が囁くような声でそっと言う。
「…最近ずっと考えてた。俺はハルヒを見ると可笑しくなるんだ。可愛くて、それはお父さんだからなのかと思ってた。だけど今ハルヒに言われてやっと気づいた、俺もハルヒが好きだよ。勿論一人の女性として」
そう言って可愛らしくエヘへと笑って、またぎゅうっと抱き締めてくる温もりが心地良い。この匂いも、この声も、この熱さも。嬉しくて嬉しくて、自分も思わず彼をぎゅうっと抱き締め返した。その時、改めて実感する。ーああ、自分はこの人が好きだ。
恋心
(鈍感二人の恋愛図)
*
【おまけ】
「(ガチャ)…お前ら、何をしているんだ?」
「きょ、きょきょ鏡夜…!!;
(しかし、ここは正直に話さなくては…っっっ)
じっ実はな鏡夜。ハルヒと俺は…実は両思…」
「さっさと離して下さいよ先輩。ペットが恋しいのは分かりますけど、
ここにはアントワネットはいないんですよ?」
「えっ!?は、ハルヒ!!?;どうして!!?」
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ただ環の上に乗って「好き!」と必死に伝えるハルちゃんが書きたかっただけです。
それに環ハルの甘々はそういえばなかったな〜と思い。
というか本当は「ハルヒ視点バージョン(これ)」と「環視点バージョン」二つ作ろうと
思ったんですけどなんか面倒臭かった難しかったんでやめました。
ってか実際のハルヒはこんな風になるのだろうか…。
それにしても鈍感二人の恋愛は大変ですね。どっちかが気づいて必死に伝えて
相手もやっと気づくみたいな…。まあ私の発想上で。