「世界観、思考観」 |
五限目の授業が終わり、休憩時間。双子は女子から"分からない所がある"と理由を付けられて先程の数学の御復習いを女子達に説明していた。
一頻り説明し終えて今気づいた、彼女の姿が無いことに。きっと教室を出てぶらぶらしているんだろう。気が付くと自由にそこらをふらついている彼女の何時もの行動だ。
特に慌てる事もなく、片割れの攻めの方が"呼んでくるよ"と言って教室を出た。如何しても彼女の存在を常に此処に置いておきたいと思うのは、きっと二人の彼女に対する独占欲からなのだろう。
(…あ、いた)
広い廊下を暫く走っていくと、見慣れている小柄な後姿が見えてきた。短髪のこげ茶がかった透き通る髪に、ほっそりとした腕足。そして微かに漂う温和なオーラを見れば、後姿でもその彼女だと見分ける事が出来る。
「ハル…」
しかし、途中まで言いかけた名前は、もう一つの存在に気づいた事により停止してしまう。彼女の隣で、彼女の肩を軽く囲み、爽やかな笑顔を見せる青年一人。
見知らぬ人物。自身のクラスの奴ではないから、多分違うクラスの奴だ。爽やかな笑顔はどことなくあの人物を思い出させる。彼女の中学時代の同級生、荒井…だっただろうか。
如何やら彼女はあの様な爽やか青年に好かれる事が多いようだ。きっと青年の方は彼女の愛らしさ溢れるその顔立ちと、可憐さに親しみを持ったのだろう。
(…むかつく)
じりじりと彼女に近づいてみるが彼女は一向に気が付かない。青年とはと言うと、ペットボトルに入った紅茶を飲みながら未だ笑顔で彼女に話し掛けている。彼女の方も満更ではないらしく、普通に笑顔を返していた。自分達には何時もしかめっ面なのに。
「でも俺、藤岡みたいな友達が出来て嬉しいよ」
「そう?」
「うん。あ、そうだ飲む?」
青年が飲みかけのペットボトルを彼女に差し出した。しかし彼女が間接キスだとか乙女ちっくな事を思う筈がないのだ。彼女は表情一つ変えず、そのままペットボトルに普通に手を伸ばした。
「いいの?有難う」
そう言って彼女は差し出されたペットボトルを受け取り、其れを口元に運んだ。しかし其れを独占欲の強い片割れが許す訳がないのだ。
ぱしっと音がした時にはもう彼女の手にペットボトルの姿はなく、一気にそれは間に入ってきた片割れによって飲み干された。ぷはっと満足気に息を吐き出すと、片割れは嫌味気に笑ってそれを青年に返した。
「どーも。丁度喉が渇いてたところなんだ」
「ひ、光…!?」
「…あれ?友達?」
「…う、うん」
彼女は顔を少し引きつらせながら、片割れの名前とクラスを添えて青年に紹介した。荒井に似た単純な青年は爽やかな笑顔を見せて、宜しくと言うと片割れに手を差し出した。しかしそれを片割れは、技とらしく無視した。
そんな片割れに、青年は苦笑い、彼女は青褪めるしかなかった。
「…あ、そうだ。藤岡さ、放課後でも良いからまた勉強教えてよ」
「え、うん。それは全く構わないけど」
片割れの細い眉が勢い良く吊り上る。独占欲から作られる苛々が青年と彼女の取り組みを見ている事に積もっていくのだ。
「なんか技とらしい〜。放課後に呼び出して何するつもり?や〜らし〜」
後ろ頭に手を回し、片割れは技とらしく掻きながら挑発的な声を漏らす。荒井の時に感じた感情と全く同じものが胸に込み上げてくるからだ。彼女に近づく男に無性に腹が立つんだ。
「…っちょ!光!」
「何って…俺はただ勉強を…」
反抗する事もなく苦笑いを返した青年に対して、片割れは構わず言葉を続けた。
「さっきだって飲みかけの紅茶ハルヒに渡して。間接キスでもしたかった訳?」
「…っっ光!!」
ぱんっと音が立ち、一気に頬に痛みが走る。あの時と全く同じだ。歪んだ視界で見えた彼女の表情は怒りそのものだった。
彼女が何故頬を叩いて、怒ったのかなんて、その位は自分にだって分かる。叩かれて仕方ないとも思う。だけどそれだけじゃ納得いかない。だって其れは多分、自身だけが悪いのではないからだ。言い訳かもしれないけれど、きっと彼女にだって悪い部分はある。
「…もういいよ。ハルヒなんて知らない」
そうぼそりと声を落として廊下を駆け出す。後ろから自身の名を何度も呼ぶ声が聞こえたが、無視して走り続けた。その後教室に戻っても彼女とは一言も口を利かなかった。彼女が気まずそうに声を掛けてきても、それを避けるようにもう片割れの受けに声を掛けた。
受けの方は気を遣って彼女と自身の仲を戻そうとするが、自身は彼女と仲直りをしたいとも思わなかった。
勿論自身だって悪い。けど彼女だって悪かったんだ。
それに彼女が気づくまで、口なんて利いてやらない。
もう僕は、あの時みたいに訳も分からず怒っていた僕とは違うんだ。
ー彼女を、愛しいと思う故に。
ぽーんとプライベート室の来客用のアラームが鳴って、ドアを開けた。ゆっくりと開いた先に映ったのは、今日喧嘩したばかりの彼女の姿だった。家に帰宅して着替え直した今の彼女は、父の趣味であろうレースの付いたひらひらのワンピースを着ていた。
突然家に訪ねてきただけでも驚いたのに、そんな可愛らしい格好をされたら益々気が狂ってしまう。
「…お前…どうして」
「馨に頼んで連れてきてもらったんだ。光と話したいから」
仲直りしよう、そう続けられた言葉に、片割れは眉を吊り上げた。自身が怒っている理由を知らないくせして何が仲直りだ、そう思いながら片割れは強引に彼女の両肩を押した。
「…え」
「帰ってよ。話すことなんてないから」
そう言い捨てて部屋の中に戻ろうとすると、後ろから彼女が腕を掴んできた。余計苛々して乱暴に掴まれた腕を振り解いてそのまま足を進める。彼女も部屋に入ってきて必死についてきた。
そのままベッドまで行って腰掛ける。彼女はまだついて来ていて、座っている片割れの前まで来るとまた口を開いた。
「光…何で怒ってるの?言ってくれなきゃ分からないよ」
「何勝手に入ってきてるの。不法侵入罪で訴えるよ?」
「…ねえお願いだから話……」
自身はその言葉を最後まで聞いていなかった。女の表情を見せる彼女の細っこい腕を掴んで、軽く力を入れる。くるりと身体を反転させれば、彼女の小さな身体は簡単にベッドに倒れ込んだ。そのまま彼女の上に覆い被さり、両腕を抑え付けた。
彼女は今自分の身に起きたことに理解が出来ず、ぱちくりと大きな瞳を見開いている。そして、覚醒させるのを防ぐように片割れは半開きの紅に強引に口付けた。噛み付くように口付け、舌を絡ませると同時に彼女が覚醒したのか、手足に力を入れた。
しかし所詮男と女の力とは違いが過ぎるのだ。彼女の抵抗は何の結果も示さず、ただ無意味と化すのみである。彼女の息が続かなくなったとき、片割れはそっと唇を離した。息苦しさから解放された彼女は苦しそうに咳をしている。
「…僕は、ハルヒのことが好きだよ。けど、一つだけ嫌いなところがある」
無防備で、僕より無自覚で、
ほら、今だって何の抵抗もなく僕の部屋に入ってきて…。
そっと唇を彼女の耳に近づけると、彼女がびくりと微かに震えた気がした。
「…男女の違いを、理解してないとこ。」
僕は世界観が狭いけれど、彼女の思考観はもっと狭いんだ。
END
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このあと二人がどうなったかはご想像。
なんかホスト部はどのCPが好きとか固定しない。
もう全部好きだ。なかでも光ハルヒ好きだ、いやでも環ハルヒも好きだ。
いやもう全部平等だ。上回ることなんてない。
ってか思考観っていう言葉ってあるんだっけ。ってか意味あってるかな。