(鏡夜せんぱいとハルヒちゃん)


部室に置き忘れていたぞ、と言ってアパートのドアの前で鏡夜はハルヒに財布を差し出した。第三音楽室の戸締りの時にハルヒの財布を見つけ、そのまま帰り掛けにアパートに寄ったのであった。ハルヒは”有難う御座います”と言うと、ゆっくりと鏡夜から財布を受け取った。さらに”財布が見つからなくて困っていたんですよ”と付け足す。
その言葉を確認すると、鏡夜は”それじゃまた明日”と言ってドアを閉めようとした。しかし、それだけで終わろうとしていた空間を、自らハルヒの言葉がそれを遮った。
「…どうかしたんですか?」
その言葉に、鏡夜はドアを閉めようとした手を止めた。ハルヒは何故か少し切なそうな表情をしている。しかし彼女に対し、鏡夜は何も言葉を返せぬまま、そのまま無表情と無言を返した。そんな彼に、ハルヒはまた同じ言葉を繰り返す。
「どうかしたんですか?鏡夜先輩」
「……何を言っている?」
引っ込んでしまっている声を懸命に押し出し、鏡夜は問い返した。すると、ハルヒの表情は先程より一層切なそうな表情になり、ゆっくりと鏡夜の制服の裾を掴んできた。
「何時もと様子が違うように見えるんです。何かあったんですか?」
先程より詳しく話す彼女に、鏡夜は押し殺していたものが段々と崩れていくのを感じた。胸の奥でうずうずと絡まっていた気持ち悪い程の固まりが、今にも飛び出していくような気がする。
「…どうしてそんなに、悲しい顔をしているんですか?」
何かが大きく音を立てた。途端、彼は持っていた鞄などを投げ捨て、目の前にいる彼女を力一杯に抱き締めた。行き成りのことに、一瞬ハルヒは驚いたものの、それからはただ何も言わず、押し戻さずに抱き締められたままでいた。
暫くその状態が続いたとき、鏡夜がハルヒの肩先で震えた声で話し出した。
「…別に…今始まったことじゃないさ。今まで背負ってきたプレッシャーや不満の重みに耐え切れなくなり、突然こうなってしまうことは珍しいことでもない」
そう言って抱き締める力を強める鏡夜にハルヒは言った。
「一人で背負い込んだりしないで下さい。辛いときは、こんな風に自分や皆を頼っても良いんですから…」
ハルヒの声音がふんわりと鏡夜の心を撫で、途端、鏡夜の瞳からきらりと光るものが静かに流れていく。その光った粒が地面にぽつんと落ちたと同時に、鏡夜の身体はハルヒの身体と共に脱力したように崩れ落ち、跪【ひざまず】いた。小さく細い身体を折れんばかりに抱き締め、鏡夜はハルヒの耳元で囁いた。ハルヒ、ハルヒ、と。切なそうに、何度も。
その声を受け止め、ハルヒもゆっくりと鏡夜の背中に両手を回すと、柔らかにそれを抱き締め、そっと目蓋を閉じた。その温もりに浸るように。悲しみを共に受け止め、そして溶かすように。




切ないときは名前

を呼ぶから


(苦しみが切なさが、嗚呼とかれてゆく)




誰にしようかな〜と思い、やっぱり鏡夜に切なそうに「ハルヒ」と呼んでほしいなと思い鏡夜にしました。私は基本的に頭が悪いので、間違った漢字や意味になっていると思いますが笑って見逃してやって下さい^^;