(棗くんと蜜柑ちゃん)


白い霧の中から、青色が浮かび上がる。映された広くて青い海の中心に、黄色いウキワがぷかぷかと浮かんでいる。そのウキワの中から私に手招きしてくるのはベビーピンクのウサちゃん人形。ウサちゃん人形の後ろの背景には光輝く夢の国。私は夢中でそのベビーピンクの愛らしい姿までバタ足で向かっていく。
『うさぎさぁ〜ん!ウチも夢の国に連れてって〜!!』
ああ、なんて愉快なんだろう。そんなことを思いながらバタ足で必死に進んでいくと、あっというまにベビーピンクまで追いついて、私はぷかぷか浮かんでいる黄色いウキワに手を添えた。ゆらゆらと揺れているベビーピンクは、肩で息する私と目を合わせるとニコッと微かに微笑んだ。と思ったら、急にベビーピンクが大きく口を開けて、鋭い牙を出してキシャーと私に襲い掛かってきた。
『ギャーーー!!うさぎさんに食べられるーー!!!』
咄嗟にウキワから手を放し、元いた位置までバタ足で逆戻りする。足がつって思うように泳げない。溺れてしまい、ごぼごぼと口内に水が入り込み息苦しい。恐る恐る振り返ると、小柄なベビーピンクはいつのまにか巨大化していて、人を飲み込んでしまうくらいの大口を開けて猛スピードで向かってきていた。あと数メートルで追いつかれる距離、もう駄目だと思った。そんなとき脳内に揺らぐある人物の顔。私は微かな望みを託し、その人物に助けを求めようと大声で叫んだ。
『…っっなつめぇぇーーー!!!!』

視界が真っ白になり、そこにゆるゆると色んな色が映し出されていく。それと何だか名前を呼ばれているような気がした。みかん、みかんみかん、と。ああ、確かに聞こえた、彼の声だ。
ふっと目蓋を開くと、一気に視界が広くなる。一番最初に目に付いたのは、彼の深紅の瞳だった。私を上から見下げるような形の彼は小さく息を吐いて、何だか呆れたような表情をしている。
「…何叫んでんだテメェ。今何時だと思ってる」
「…なつ…め……」
あまりの恐怖に身体中に汗をかいている。私の身体はベッドに横たわっていて、辺りはシンプルな室内。そう、ここは彼の部屋だ。先程見た海や、黄色いウキワ、そしてあの狂暴なウサギの姿はない。朦朧とする意識の中で、やっとのこと理解できた、あれは夢だったのだ。
「涙なんか流してどうしたんだよ。怖い夢でも見たか?」
そう優しく尋ねて、濡れた頬をトレーナーの袖で拭いてくれる彼に、私はぎゅっと抱きついた。本当に怖かったのだ。優しくて甘い夢だと思って着いていったのは間違えで、私は牙の鋭い大口開けたウサちゃん人形に食べられそうになった。いや、あれはもうウサちゃんなんてものじゃないか。
でも間一髪だった。食べられそうになる瞬間、耳元でよく知る低い声が聞こえ、彼は私を怖い夢の中から暖かい現実に引き戻してくれたのだ。たったそれだけのことなのに、すごくすごく嬉しくて、一層愛を感じた。
「…っなつめぇ…ありがとな。ほんまに怖くて…っ棗がいーひんかったらウチどうなってたことやら…ほんま有難う。大好きや。愛してる」
「…おいおい、大袈裟だっての」
「せやって…っほんまに怖かったから。ウチが危ないときには、また棗が助けにきてや?ウチのこと守ってな、約束やで…?」
「はいはい…助けにいくよ、例え夢の中でもな」
大袈裟な彼女でも、やはりこんな風に言ってくれることは嬉しいし、何より可愛くて愛しい。彼も彼女をいつも以上に強く抱き締めた。そして雰囲気は盛り上がり、彼は彼女に深いキスを落とす。それから鎖骨に唇を移し、そのままベッドになだれ込もうとすると、彼女が何か思い出したのか”あっ”と声をあげた。邪魔されたのが気に喰わない彼は不機嫌そうに”あ?”と返す。
「そういえばウチが寝とる間、棗なんのDVD見てたん?」
彼女が彼の部屋に遊びに来て数十分、やることがないので彼が”DVDでも見るか”と言っていたことを突然思い出した。彼がDVDをセットしている間、彼女は襲ってくる睡魔に負けてベッドの上で眠ってしまったのだ。それから怖い夢を見て起こされて、そして今に至るという訳で。その為、彼女はDVDを見逃していたのだ。
彼は”ああ”と思い出したように言うと、それからぼそりと言った。
「ジョーズ。」




海の中のラビット

(原因はオマエか)




ええとこのお話はネタ決まってない状態でなんか適当に書いてて途中でオチを思いついて、まあなんだかんだで出来上がった作品。ウサちゃんがいきなり狂暴に変わったのは棗がジョーズを見ていたせい。黄色いウキワとか別にとくに意味ないので深く考えないで下さい。ってか皆さんジョーズ分かりますよね!?サメのやつですよ!あのサメが襲ってきて人が食われるやつ!うわぁ知らなきゃ伝わらないなこの作品…。ちなみに二人は高等部くらいで付き合ってる設定です。