(棗くんと蜜柑ちゃんと生徒たち)


先程の言葉がまだ頭から離れない。自分で言ったことだが、多分言い過ぎたと後悔しているのだ。リプレイすればする程、その言葉の重みが嫌になるくらいに感じられる。
落ち込んでいる時に追い討ちのように掛けられる言葉だとか、気に喰わないと殴られたりだとか、彼の全てに腹が立っていた。だから四時間目の数学の時間に足を引っ掛けられたのをきっかけにして自身は彼に言った。
『あんたは優しくなんかあらへん!』
ふと蘇ってきた動物フェロモンの少年の"彼は本当は優しい"という言葉を、きっと自身は頭の片隅に浮ばせていたんだと思う。
押し寄せる罪悪感が胸の中を苦しくさせる。しかし言ってしまったものは仕方がない。それに彼が悪かったのだ。茶金髪の少女はそれを自分に言い聞かせると深く頷いた。
「何か面白いゲームしようよー」
そう心を読む少年が言ったのは、体育が終わって教室に戻ろうと校庭を歩いている最中のことだ。その言葉に興味を持って近づいてみたら、後から何時ものメンバーも集まってきた。案の定、運悪く狐目の少年に連れて来られた黒髪の彼の姿も。
表情は何時もと変わらないが、彼は自身と目を合わせようとはしない。やはりあの言葉に怒っているのだろうか。ここから逃げ出したい。しかし皆が興味津々に話を進めるもんだから、今更輪から外れることも出来ない。
心を読む少年はへら〜っとした微笑みを見せてゲームの説明をしだした。その微笑みは微かに何かを企んでいるようにも見える。
「今から皆でジャンケンして、負けた人が罰ゲームで放課後三十分間理科室掃除!」
その言葉を聞いた途端、このゲームに参加したことに後悔した。理科室といえば、不可解な噂がたくさんあるのだ。例えば放課後になると呻き声が聞こえるとか、足音が聞こえるだとか、血だらけの女性の幽霊が出るだとか。全く、どうしてこの少年はそんな碌でもないことを考え付くのか。というかそれは負けた人が苦を味わうだけでゲームとは言わないんじゃないだろうか。
しかも、よりによってジャンケンだなんて…。
そんな事を考えていると、隣の親友が声を掛けてきた。
「罰ゲームは蜜柑で決定ね」
「…うう。」
そう。このゲームの罰ゲームは自身に当たると言っても過言ではないのだ。何故なら、それはゲームの内容が"ジャンケン"だからである。自身はジャンケンが大の苦手なのだ。何故だか何度やっても負けてしまう。今までジャンケンでは一度も勝ったことがない。
「いつもあんたは最初に"あの手"を出すから負けるのよ」
そう小声で言われた言葉に素早く"あの手?"と問うが親友はそれを無視して次の言葉を付け足す。
「あんたが負けるって分かってるから、だから皆そんなに怖がっていないのよ」
そう言われて改めて周りを見渡してみれば、あんな身震いもするような罰ゲームを出されたのにも関わらず皆はそんなに真に受けていないような表情をしている。心なしか、余裕気にも見える。親友の言うとおり、この少女が負けると皆分かっているからだ。もしかして"ゲーム"というのは"暇だから誰かを奈落の底に突き落として遊ぼう"という意味だったのだろうか。
「…みんな卑怯やあ〜〜…っっ!」
そう嘆き、黒髪の彼に何気なく目線を向けると丁度目が合った。しかし直ぐに彼は目を反らしてしまった。
(これでウチが負けたら、あいつはきっと"ざまあみろ"って顔で笑うんや…)
ぎろっと彼の背中を睨んでいると、ついに運命のジャンケンが開始されてしまった。
「「「っせーの!最初はぐー!ジャンケンポン!!」」」
ポン、と皆が声を揃えたのと同時に思わず目を瞑る。自身が出したのは"パー"。親友が言っていた"あの手"とは"パー"のことだ。如何やら茶金髪の少女は必ずと言って良い程パーを出す癖があるらしい。しかし少女はそれに気づいてはいない。
何秒か経つと直ぐに皆の叫ぶような声が聞こえてきた。瞑っていた目蓋をゆっくりと開き、恐る恐る周りの手を確認した。一通り見渡した結果、チョキが断然多い。
ーやはり負けてしまった。
そう思い一つ溜息を吐く。しかし次の瞬間長い溜息は途切れた。並ぶチョキの中に一つだけ自分以外のパーの手を発見したからだ。口をあんぐりと開けたまま、その手の先からゆっくりと目線をあげていく。その人物の顔を見て更に驚いた。その人物が先程喧嘩したばかりの黒髪の彼だったからだ。
吃驚しすぎて言葉が出ない。
「…な、棗君……?」
他の生徒達も驚いているようだ。この少女が必ずやパーを出すことなど勿論彼も知っていた筈なのだが。どういう風の吹き回しだろう。彼は平然としていて"負けたから何だよ"というような表情をしている。暫しの沈黙が続き、それを消すように狐目の少年が気を取り直して口を開いた。
「え、えっと〜…!じゃあ棗君と佐倉がもう一回ジャンケンだな」
「必要ねえ」
「…え?」
生徒達の視線が黒髪の少年に一斉に集中する。彼は生徒達を挑発しているかのような表情で言葉を続けた。
「罰ゲームは二人でいいだろ」
そう言い放った彼の言葉がぐるぐると頭の中を駆け巡る。同時に浮んだのは、忘れようとしていたあの言葉。
"あんたは優しくなんかあらへん"
その言葉をそっと彼の姿と照らし合わせ、ぐっと息を呑み込む。パーの形の手が未だ出しっぱなしだったのも忘れていた。
ーもしかして、これは"優しさ"なんだろうか…?
彼は、何かを誤魔化すように空を仰いでいた。




パーの中にある

優しさ


(それは意地っ張りな彼の精一杯)




彼は気にしていたんです、蜜柑に言われた言葉を。
っていうか棗君ジャンケンに参加する子なんだろうか…。
棗と蜜柑以外の台詞は心読み君と狐目君と蛍くらいしかありません。
何となく雰囲気的に二人の世界を中心にしたかったので。
っていうか他のキャラの台詞入れるとややこしくなるんで(ぉ)
続編がある訳でもなく、これで終わります。