(棗くんと蜜柑ちゃん)


少女の顔を全部覆ってしまうくらいの大きさの恋愛雑誌を開き、”例えば”と口を動かすと、少女は一本二本と指を立てていった。
「この雑誌ではな、最初は手を繋ぐことから始めた方がええんやって。そんで帰りは一緒」
「………お前、キスとかあっち系のことぬかして読んでねえか?」
「…っな!さっ最初はこんなもんやろ!」
赤面する少女に少年は面白そうに口元を緩ませ、愛しそうに頭を撫でてやった。
少女と少年は晴れて恋人同士になった。リアルに今から。二人きりの裏庭掃除の時間、何時ものように少年が少女をからかっている時に、少年が少女に告白のようなものをしたのだろう。まあ詳細は無しとする。
現在は放課後の教室で机を囲み、二人向かい合わせに椅子に座っている。そして付き合うということに真面目で純粋な少女が恋愛雑誌を参考にして真剣に考えているという訳だ。しかし少年にとってはそんなことどうでも良かった。雑誌の通りに恋愛しようなんて全く阿呆らしいとしか言いようがない。しかしそんな風に一生懸命で可愛らしいところも少女の好きなところでもあるから、少年は暫くはその様子を面白そうに眺めていた。
「あっあとな!どちらかが他校の場合、放課後学校の前で待つのはよした方がええって!あれ嫌がる子も多いし、待つ方も待たれる方も恥ずかしいんやって!」
「いや、俺ら他校じゃねえし」
「あっそうやね」
そんな漫才のような会話を楽しんではいた。しかしだんだんと少年はその状態に飽きてしまったようで、ついに小さく息を吐いた。それがスイッチとなって、さらに少年は少女から雑誌を取り上げるとそれを横の少女の鞄の中に押し込んだ。途端、少女の怒鳴るような声が響く。
「…っ何すんねん!せっかくウチが真剣に…!」
「くだらねえんだよ」
「…っな」
もう無駄な話に付き合ってあげるのはおしまい。気が長くはないのだ、少年は。
眉を吊り上げて怒る少女を無視し、少年はゆっくりと椅子から腰を上げると、次は座っている少女の腕を勢い良く引き上げた。刹那、見詰め合うような形になり、行き成りのことに混乱する少女をお構いなしに少年はそのままキスをした。
机を間に挟んだ状態で無理矢理少女を自分の方に引き寄せ、少年はゆっくりと少女の歯列をなぞり、そこにある舌を絡めとった。息が出来るように微かな合間だけ空気を送り込んでやり、そしてまた噛み付くように奪う。何度か少女が苦しそうに胸を叩いてきたが、それを無視して進めた。暫くすると諦めたのか少女は胸を叩くことをやめた。それを確認すると、少年はゆっくりと唇を離す。すると少女が咽びながら小さく言った。
「…っ順番…狂っとるよ…キス、は…手ぇ繋いで…一緒に帰って…それからやの、に…」
その言葉に思わず笑いが込み上げてくる。こいつは覚えてて言っているのか、それとも忘れてて言っているのか?まあ、それはどちらにしても、
「最初から順番なんて狂ってんだよ。もう俺ら一回してんだろ」
いや二回だったっけ?そう続ける少年の言葉で、少女はクリスマスパーティーの日を思い出し、赤面してそれから睨んだ。しかしそれは直ぐに照れ笑いに変わる。
「…そうやね、最初から狂っとる」
それは今となっては良き思い出で、きっとそれらがあって今がある。
鞄を背負い、教室を出た。その途端、互いの手がゆっくりと伸ばされる。しかしそれは繋がる間近でぴくりと止まってしまった。それからお互い見詰め合う。そして笑い合うと伸ばされたそれはしっかりと繋がった。
「…ま、ウチらはウチらなりに始めればええよね」
「だからそう言ってんじゃねえか」
「あんたそんなこと一言も言ってへんかったやん」
「目で訴えてただろ」
「…っ分かるかそんなもん!」
順番なんてどうだって良い。何から始めるかなんてどうだって良い。自分達は自分達で愛を感じ、愛を伝え、支え合っていけば良いのだから。
些細な喧嘩も、そこから生まれる辛さや悲しみも、全ていずれはかけがえのない力に、かけがえのない思い出に変わる。嬉しいことばかりの恋愛なんかじゃつまらない。決められたルールに従うなんてくだらない。嫌なことも良いことも、全部積み重なって、それがあってこそ大きな愛に変わってゆく。作りあげてゆく。一つだけしかない真実の愛に。
『…前略じーちゃん、今日ウチに、最初で最後の彼氏ができました。』




今からはじめよう、

君との恋


(さあ、いちについて)




「棗×蜜柑前提祭り」さまに投稿させて頂いた作品です(*^^*)なんかよく分からない作品になってしまったけど…こんな作品送りつけてしまって夏奈さんスミマセンでした(汗)それでは(逃)