親友が先に帰ってしまったと言われ、少年は”あっそ”と答え、あんたは?と問われると、少年は”親友はウサギを追いかけてそのまま帰った”と答えた。途端、少女が少年の腕を引っ張り、あっという間にセントラルタウンへ到着。今に至る。
「…テメェ、何のつもりだ」
「ええやん。あんたもウチも親友に帰られて暇な訳やし」
そう笑顔で少女はぐいぐいと少年の腕を引っ張っていく。嬉しそうな表情と、強引に引っ張る腕は、少女が少年を”ある場所”に連れていきたいという気持ちの表れでもある。
暫く少女にリードをとられたまま歩いて行くと、少女がある場所で立ち止まった。”ここや”と少女が指差した所に目線を向けると、すぐに”肉まん”と書かれた看板が目に飛び込んできた。予想外の展開に、少年の目は点。何故、こんなところに?
「最近出来た肉まん屋さん!ほんまに美味しいって有名なんよ」
一度行ってみたかってん、と続ける少女の口からは涎【よだれ】が。阿呆らしい、そう思った少年はムスっと眉を捻ると、ぐるんと背中を向け、帰ろうとした。
「ちょお!何で帰るん!?肉まん嫌いなん!?」
「うるせえ。暢気に肉まん食ってられるほど俺は暇じゃねえんだ」
「っっせやったら暇作ったらええやん!肉まん食べてこーーやーー!!」
「…はあ!?」
少女が後ろから必死に少年の腰にしがみつき、暫く”食べよ”帰る”の繰り返しが続いた。しかしもう暫くすると、自分達をじろじろ見てくる通行人に少年が苛立ち始め、耐え切れなくなったのか最終的には少年が折れた。結果、肉まんを食べることに決定したのである。代わりに少女の頭には幾つものたんこぶが出来たなど言うまでもない。
「お熱いので気を付けて」
店員から一人一個ずつ肉まんを受け取ると、少女と少年は近くのベンチに座った。銀色の景色にほこほこした湯気がたつ。肌寒い季節には丁度良い。
ぱく、と少女の方が先に肉まんにかぶりついた。相当熱いのか、最初は一口目の肉まんを頬張ったまま顔をくしゃくしゃにしていたが、それは直ぐに幸せそうな表情になり、にんまりと口元を緩めた。その表情に見惚れながらも、少年も気を紛らわすように豪快に肉まんにかぶりついた。捻くれたこの性格の所為か、正直そこまで美味しいものだとは期待していなかった。しかし、口の中で噛んだ途端、それを覆すようにそこに微かな甘味と香ばしさが広がった。さらにジューシーな肉汁が舌の上を滑る。あまりの美味しさに、少年は思わず目を見開いた。
「うは〜っ幸せ!こんな美味しいもん食べたことないわ〜」
そう本当に幸せそうな表情をした後に、少女は”どうや?”という表情で少年の顔を覗き込んできた。別に勝ち負けではないが、これでは何となく負けているような気がする、そう思った意地っ張りな少年は当然のように無言を返した。
一口、二口、肉まんを頬張るごとに、白っぽかった空が赤みを増し、あっという間に夕焼け空になった。少女は先程と同じように湯気のたつ肉まんを幸せそうな表情で食べている。二口三口、全てが一口目かのように。少年は無意識にそんな少女の表情を横目で眺め、ぼんやりと思った。”肉まんみたいだと”。
肉まんを頬張るときの頬がぷっくりと膨れ、寒さのためか真っ赤になり、それが湯気がたっているように見える。さらにあの幸せそうな表情。この肉まんは人に美味しさの幸せを与えてくれる。少女も少年にとって幸せを与えてくれる存在でもある。そして何より、少女も暖かいのだ。
そんなことを考えていると、肉まんを食べていた少女の横顔が急に真剣なものになり、少年は肉まんを口に運ぼうとしていた手を思わず止めた。
「…今日、棗をここに誘った訳、ウチが肉まん食べたかったってのもあるんやけど…
ほんまはもう一つ理由があるんや」
少女はゆっくりと少年と目を合わすと、きゅっと下唇を噛んだ。
「最近あんた、元気なかったやろ?せやからウチ、少しでもあんたに元気になってもらいとうて。やけど、どうしてええかわからんくて…」
「…な、」
「一緒に肉まん食べることしか考えつかんかった…ごめんな。」
そう言って俯いた少女は、とても優しく、美しく、やはり暖かった。
少女が言うように、最近少年に元気がなかったというのは確かだ。最近任務がきつくなり、黒い教師にも色々と追い討ちのような言葉ばかりをかけられていたのだ。体力的にも、精神的にも、参っていた時だった。
そんな時に少女に誘われ、ここに来た。最初は態々肉まんを食べになど阿呆らしいと思っていたが、知らない内に少女が少年の心を徐々に癒していくのを感じた。幸せそうな表情を見るだけで癒された。その度に心の中に湯気のようなものが生まれ、それはほこほことした暖かさに変わっていく。本当に彼女は肉まんのようだ、と少年は改めて思った。そしてさらに思う、”ならいっそ、食べてしまえばどうなるのだろうか?”
夕焼けに変わった空を仰ぎながら、少年は食べかけの肉まんを一気に口の中に放り込んだ。そしてすっと立ち上がると、まだ空を仰いだまま、そっと目蓋を閉じ、呟く。
「…肉まん食いてえ。」
途端、”今食べたやん”というつっこみが飛び交うが、それを断じて否定するように少年の声が”まだ食ってねえ”と返した。
肉まん、そして少女
(それを食べてしまえたら、)
*
「なつみかん祭"2"」さまに投稿させて頂いたものです。
この小説は、私が”肉まんが食べたい”と思い書いただけの作品と言っても良いです(苦笑)
それとほのぼのが書きたいと思っていたので、二人でベンチに座り、肉まんを食べているという姿は、個人的には好きな絵だったので。けど、ただそれだけで全く何が言いたいのか分からない作品になってしまいました;すみません。とりあえず読者様も一緒に肉まんを食べたくなって頂ければ…私はそれで満足です(マテ)
もうこの際、蜜柑が肉まんに似てるとか似てないとかいう話はどうでも良いです(ぉ)