(鳴海せんせーと岬せんせー)


偶然、次の授業の移動中に行き会った岬に、鳴海は先程見た恋愛ドラマを思い返して問うてみた。それを聞く意味はとくにはなく、ただの"何となく"だった。
「岬先生は、心から愛した人って過去にいたの?」
普段交わしたことのない種類の会話に、岬はぎゅんと思い切り鳴海の方に顔を向け、とても素直な反応をした。これだから岬先生をからかうのは面白いのだ。別に今のはからかっているつもりでも何でも無かったが。
「…何だ、いきなり」
「いや別に。何となく」
そう鳴海が淡々と言うと、岬は何かを思い返しているのか険しい顔をした。さらに思い返したことを無理矢理なかったことにするかのように慌しく首を振るとこう答える。
「いや、そんなのいない!」
「今の表情からすると絶対いたよね」
そう見透かすように言ってみれば、岬がまた素直なリアクションをし、その顔は徐々に熱を帯びていった。顔を見れば分かる。彼の顔には大きく"いた"と書いてあった。
誤魔化したって無駄だよ、そう面白気に耳元で囁いてやれば、岬は真っ赤な顔をくしゃくしゃにして諦めたように息を一つ吐いた。
「…いたよ。それが何だって言うんだ」
岬はそれを認め、少しやけくそに言い捨てた。そして照れたように窓の外を見る。過去に心から愛した人物を思い返しているのだろうか。
しかし、鳴海には何故かそれが面白くなかった。自分で問い掛けたことなのに。自分でもよく理解できない気持ちに、鳴海は眉を潜めた。胸を締め付けられるような痛みが、ある。
「もういいだろ。ほらB組についたぞ。早く行けよ」
何時の間にか鳴海が向かおうとしていたB組の前まで到着していて、岬が急かすように鳴海の背を押した。だが、鳴海の胸の奥では何か疼々した気持ちがあった。それと苛っとくるものがある。そこまで問うつもりはなかったが、思わず声が漏れた。
「それって、誰?」
無意識に彼の服の裾を引っ張っていたことに、自分でも吃驚した。自分は何を問うているのか、そう不思議な感覚に襲われたが、自分の心は何故かそれが知りたくて堪らなかった。どこのどいつだ、と。
岬は鳴海の真剣な顔にどうして良いのか分からず、ただ目を見開いて口をぽかんと開けている。
「…誰でも良いだろ」
「よくないよ。誰なの?」
「そんなこと、お前に関係ないだろ」
「……あるよ!」
そう少しだけ力を込めて言うと、丁度良く授業開始のチャイムが鳴った。途端に鳴海は我へと返り、握っていた岬の服から手を離した。
「…ごめん。」
何故こんなにも向きになっているのかと、正直焦った。




その気持ちが

分からない


(そこに僕の知らない君がいたから)




それが恋愛に対しての嫉妬なのか、友人をとられることに対しての嫉妬なのかは読者様にお任せします。私的には友人に対しての気持ち…に近い感じに書いたんですがね。
岬の過去に心から愛した人もご想像にお任せします。