彼女が振られた、って風の噂で聞いた。話によれば、昨日の放課後、彼女が彼を教室に呼び出して告白し、『嫌いだから』と言って断られたらしい。彼女が酷く落ち込んでいるという事も噂で聞いた。
にーちゃんは馬鹿だ。あんな可憐な女性を振るなんて。自身はその白い肌に触れたくて堪らないというのに。彼は何度もその肌に触れ、口付けを落とし、そこまでしておいて彼女を其処に落とした。
彼は彼女のことを嫌いなんかではなかった筈だ。いや反対。好き以上の感情を持っていたんだ。それは自身から見ても分かる。そして彼が闇の世界に彼女を巻き込みたくないからと、彼女を振ったという現状も、分かる。全く、彼は本当にお人好しだ。
彼のことは慕っているが、恋愛においては別だ。
この機会を、自身はチャンスだと思っている。
放課後、高等部の教室に行ってみると彼女がいた。切なげな目で窓から空を見上げている。暫くその場で見詰めていると彼女が自身の姿に気づいた。
「…よーちゃん……?」
こちらに顔を向けた彼女の目の下は腫れ上がっており、泣いたあとがあった。
「一人?」
「さっきまで蛍もおったんやけど、なんや技術系の人に呼ばれて。」
彼女は悲しさを誤魔化すような笑顔でそう言った。でもそれが作られた笑顔だなんてことは見ていれば簡単に分かった。彼女は誤魔化すのが下手なのだ。
そのまま何も言わずに彼女の座る窓際の席の隣に座った。彼女はふわふわと笑っているが明らかに無理をしている。
「昨日のこと聞いたよ。大丈夫?」
聞いた噂を口にしてみれば、彼女が動揺したように自身を見てきた。そして息を一つ吐く。握り締められた両手は微かに震えていた。
「…もうどうでもええんよ。ただちょっと切ないだけ」
彼女はふんわりと笑ってそう言う。そんな彼女が愛しくて思わず必要以上に見詰めてしまった。それに彼女は気づき、きょとんと首を傾げる。
柔らかな細い肩は手を伸ばせば引き寄せることが出来る程に近い。
桃色の潤った唇も、顔を近づければ奪うことも出来る。
彼の存在があった時は、こんなに彼女に近づくことは出来なかった。
だが、今は違う。
ー欲しくて堪らない。
「…わっ」
未だ震えている白い小さな手を強引に握り、そのまま後ろに引いた。その刹那、彼女の身体は簡単にころんと椅子に倒れ、微かな悲鳴をあげる。
そのまま彼女の上に覆い被さるようにし、愛らしい唇にそっとそれを近づけた。当然精神状態の不安定な彼女はただ呆然としているだけである。そのままその唇を奪おうとすると、急に後ろから頭めがけて何かがぶつかってきた。
こん、と落ちたものを見ると、そこには消しゴムが。そっと後ろを振り返り、投げた犯人を確認すると自然と笑みが浮んだ。予想はしていたが本当に来ていたとは。
彼女の様子が心配だったんだろう。
今更、彼女のために何をしてあげようと言うんだ。
ー自分が彼女をこうさせたくせに。
「ねえ、蜜柑。」
彼女をゆっくりと起き上がらせて、その小さな身体を抱きしめた。後ろにいる人物を彼女に見やすくするように抱きしめるのは、きっと技とだ。彼女がその人物に気づき、一瞬反応したのが分かった。
抱きしめられた彼女を見て、彼はどんな気持ちになるだろう。
「…僕のこと、好きになってよ?」
精々、自分がしたことに後悔すればいい。
空いた隙間に手を
伸ばす
(それがどんなに卑劣だったとしても)
*
よーかん書くの好きです。
自分的には黒いよーちゃんの方が好きです。
そして私はなつみかん以外は何故か片想いが好きみたいで…。
棗は蜜柑のことが好きだったけれど闇にこれ以上巻き込むのがいやだったので振っただけです。それを聞いて今まで遠慮してきたよーちゃんが動いた、と。
抱きしめたとき、あえてお互いに見られるようにしたのは、動揺させるためです。多分意地を張って蜜柑はよーちゃんをとるかもしれないし棗も自分のしたことを思い返して出ていくかもしれない。それを考えてよーちゃんはそうしたんです。この小説ではよーちゃんとことん黒いですから。