「辿り着いた動揺は、」

少しは焦ったりした方が良いと思う。もう少し動揺してみた方が。
焦りは禁物などと言うけれど、その反対の言葉を彼にプレゼントしたい。
長い廊下をたくさんの生徒達が必死な様子で走っている。どうしたのだろう。しかし葵は気にすることもなく、生徒達とは反対の方向へ逆に進んでいこうとした。進む方向にある職員室に遊びに行こうとしたのだ。
すると、そんな葵の様子に気づき、同じく走ってきた生徒達の中から同じクラスの取り巻き達が慌てた様子で声を掛けてきた。
「葵さん!逃げた方が良いっすよ!!」
「え?なんで?」
「乃木がまた変なことして…っ動物達が暴走してんすよ!」
「流帆が…?」
そう言われて生徒達が逃げてくる元を見てみれば、そこには犬やパンダ、ジャイアントピヨまでもが居、花を散らせながらダンスをしていた。躍りながら前に進むもんだから、結構危ないのである。
しかし、葵は恐れを感じることもなく、ただそれを見詰めてにこにこと笑っている。まあそれは、この状況が動物フェロモンの流帆のいつものお遊びであり、珍しくもないからだ。
「えっ…いや逃げましょうよ!!」
「逃げる?可愛いじゃんか」
「ええっっ!!?」
すると一匹の狂暴そうなカンガルーが葵に近づき、葵の顔面を思い切り殴った。取り巻き達は一斉に悲鳴をあげたが、葵はまだにこにことしている。さらに葵はカンガルーと殴り合いを始めた。明らかに葵のが遥かにパンチを決めている。それでも笑顔なのが余計に怖い。
取り巻き達はその光景に絶句すると、そのまま忍び足で逃げていった。当たり前だ、動物よりも葵のがよっぽど怖い。
いつのまにか、葵と動物達以外はみんな居なくなっていた。
「あんた、いつも逃げないよね」
声の主は流帆。巨大くまの上に跨り、葵の前まで来るとすとんと下りた。流帆の登場に、葵はカンガルーとの対戦を止めると、笑顔で流帆に飛びつこうとした。しかし飛びつこうとした葵の身体は、流帆の右手にはめられたおさがりバカン砲によって宙に舞い上がった。
「…ったあ」
葵は一旦痛そうに眉間に皺を寄せたが、それは直ぐに笑顔へと戻った。しかしそれが流帆は気に入らない。
「あたしは遊びで動物達をこうさせてんじゃないんだよ」
「え?」
「あんたがけろっとしてるから腹が立つの」
そう言うと流帆は長い溜息を吐いて、葵の額を軽く叩いた。
動物達を暴走させるのは、嫌いな教師や生徒に仕返ししてやる為でもあるけれど、もう一つそうするのには理由がある。何をしても何を見ても焦らない葵を焦らす為だ。別にそういうところは葵の性格だし、良いとは思う。しかし、葵は自分のアリスで髪が燃えても、タイムストリッパーのアリスで自分がどこかに飛ばされても、例え幻覚で学園がいきなりなくなっても焦りはしない。やはり、その度が過ぎるとこちらとて苛立ってくるのだ。
実際、今回はボクサーカンガルーまで用意したっていうのに葵は動揺せずに、いつもの笑顔でカンガルーと対戦し始めた。
ー好い加減少しは焦ろよ、そう言いたい。
「あんまり焦るとか分からないんだよね」
そう言って葵は笑いながら頭を掻いた。葵はその言葉を純粋な気持ちで言ったのだが、それが流帆にはおちょくっているようにしか見えなかった。

どうにかしてこいつをあっと言わせたい。
焦らせたい。ギャフンと言わせたい。
負けず嫌いなところは、きっと母親に似たのだろうか。

暫くその場で考え込むと、葵が『どうしたの』ときょとんとした表情で顔を覗いてきた。その刹那流帆に考えが浮んだ。思わず薄い唇に笑みが浮ぶ。
「本当に何しても焦らないのか、試してみようか?」
妖しく言う流帆の言葉に、葵は頭上にハテナマークを浮ばせながらも『うん』とにっこりと微笑んだ。大好きな流帆の言葉は何でも受け入れるのだ。
そのまま訳もわからずきょとんとしていると、流帆が葵の柔らかな頬に触れた。そのしっとりとした手の冷たい体温に心地良さを感じていると、直ぐに桃色の唇に暖かなものが触れた。鼻に微かな吐息がかかり、押し付けられるように唇を塞がれる。硬直して、自然と手の先が震えた。
「…っ」
軽い接吻は、一瞬だったものの緊張感漂うものだった。頬はみるみるうちに熱を帯び、声は思うように出なかった。それを紫の瞳が面白そうに見詰める。
「焦ってるじゃん」
満足気な表情をした流帆が葵の耳元でそう囁くと、葵の耳は真っ赤になった。さらに恥ずかしいのか瞳をぎゅっと閉じ、ぷるぷると震えながら両手を握っている。まるで恋に溺れる女の子を見ているようだ。
「……る、るほぉっっ!!!///」
「だから。抱きつこうとしないでよ、気持ち悪い」
再び飛び込んできた葵を、流帆はでこぴんで跳ね返した。
「キス料500円ね」
「あ、うん!」
本当に払うのか、そう思いながらも流帆は葵の手のひらの500円玉を受け取った。ったく、本当にこいつは馬鹿としか言いようがない。
「…キャバクラか、っての」
葵は何をしても焦らないが、やはり流帆に積極的にされると恥じらいの為、焦ってしまうのである。それに気づいた流帆の表情ときたら、本当に満足そうなものだった。


END
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何が言いたい作品なのか全くわかりません。
流帆は流架が絶対にやらないことを簡単にする子です(動物暴走させたりとか)
暴走っていうかただフェロモン使ってダンスさせてるだけなんだけどね。
でもそれは十分に学園に迷惑かかるし、結構危ないから。

葵は棗の落ち着いたところと蜜柑の天然なとことか色々混ざってるのでマイペースです。
だから無敵な流帆さんがけろっとしてる葵にちょっと腹が立ったりする。
葵×流帆については蛍と蜜柑の関係と思って頂ければ良いと思います。
ってかタイトルが考えられなくなりました…。