今は、まだ届かぬけれど。
今は、まだ言えないけれど。
内緒にしておこうか、
何時の日か言える日が来るまで。


「想いよ、とどけ」


自身が好いている少女は鈍感だ。自身は無意識にこんなに分かりやすい態度をとっているのに。そう思っていると、よく溜息が出る。
「…っくしゅ!くしゅん!………くしゅっっ!」
「あー、蜜柑ちゃん、三回くしゃみしたぁー」
「……ふえ?」
真っ赤な鼻の蜜柑に話し掛けてきたのは野之子ちゃん。何だか、楽しそうにニコニコしながら此方に寄ってきた。蜜柑は、何故か楽しそうにしている野之子ちゃんを見て頭の上にハテナマークを浮かべていた。
「くしゃみをすると誰かが噂してる、って言うでしょ?あのね、二回くしゃみした場合は悪口、三回の場合は誰かがその人の事好いてるんだって!」
楽しそうにしていた訳はこれか。
「ええ〜っ、二回やと悪口なん?いややなー…」
悪口、という言葉に蜜柑も反応して、話題を進めた。何故、女子という生き物はそういう話題が好きなのだろうか、B組男子は、そんな光景を影で見ながら疑問に思っていた。
そして、流架もそんな光景を影から実は見ていた。

「悪口はともかく!三回くしゃみしたって事は誰か蜜柑ちゃんの事を好いている人が居るんだよ!」
野之子ちゃんの声のテンションは話が進むつれに上がっていった。恋愛話には、人一倍興味がある少女といえば、皆そろってこの少女を指差す事だろう。
「え〜っ、居る訳ないやん。だってウチ、モテた事ないよ?」
モテた事ないよ?、その言葉で野之子ちゃんは苦笑いをした。
(……鈍感だなぁ、本当に)
頭の良い野之子ちゃんは知っているのだ。蜜柑がもう既に棗や、流架、他を合わせて何人もの人に好かれているのを。
でも、そんな鈍感なところも蜜柑の可愛い所、良い所でもあるから、野之子ちゃんは、ふふふと笑みを見せながら蜜柑の柔らかい頬を両手で軽くつねった。蜜柑は、訳も分からず『いでで』と声を小さくあげていた。そんな所も可愛く、思わずもっと強くつねってしまう親馬鹿のような野之子ちゃん。

ー自分を好いてる相手って誰なんだろう?
でも、少し気になった蜜柑であった。





ーあっという間に放課後。
皆より、少し遅れをとって一人教室で荷物を整理する蜜柑。如何やら、蛍は蜜柑が遅すぎた為か先に帰ってしまったようだ。鼻歌なんぞを唄いながらカバンを持ち上げ……
刹那。
がらっ
「……あ。」
「あ、流架ぴょんや」
教室のドアを開けて入ってきたのは流架。蜜柑の存在に気づいた瞬間、ほんのり頬を桃色に染めたのだが、そんな事、鈍感な蜜柑には全く分からなかった。
「どうしたん?」
そう聞けば、少年は恥ずかしそうに目を反らしながら『忘れ物』と小さく呟いた。そして、ぎくしゃくした動きで自分の席である少女の隣の隣の席に近づく。
すると、行き成り少女が嬉しそうな顔をして距離を縮めてきたもんだから流架の心臓は大きく動く。

「一緒に帰ろっ」

本当は、こんな顔を見られたくないと直ぐに忘れ物をとって教室から出て行きたいと思っていたが、少女からそう言われては適わない。流架は少し顔を引きつらせながら『うん』とまた小さく呟いた。





夕暮れ時に影二つ。
にこにこ顔の蜜柑と、恥ずかしそうに下を俯く流架の姿。
「…そういえば」
急に思い出した様な表情をして立ち止まった少女。
「くしゃみ三回すると誰かがその人んこと好いてるんやってね」
ードキリ。
大きく心臓が跳ね上がったのが分かった。
けれど、必死に堪えて、息を呑み込んだ。
「……うん、知ってる」
(……だって、見てたし…)
そう、心の中で付け足すと熱い頬がバレないように木の影で誤魔化した。

「本当なんかなあ?何か嘘のような気ぃするけど……」
う〜ん、と人差し指で軽く頭を掻く少女。
その好いている誰かが自身だと知ったら少女はどんな顔をするだろう。
言ってみたい。
知ってほしい。
そして、無意識に口は開かれていて……

「ー嘘じゃないと思うよ」
「……え?」

何時にもなく真剣な表情で言ってみる。
ずっと胸に秘めていて、ずっと言えなかった自身の胸の内を。
少女は、特に動揺した気配もなく、ただ流架の言葉を興味津々に口をあんぐりさせながら待っている。その表情を見ていると、何だかどんどんプレッシャーがかかっていって、勢いが失われていった。
ーだって、実際に…………

「………おれ…は……………………………」
「……おれは?」
言葉が続かない。やはり、少女の顔が目につけばつく程に目の前が真っ白になって言葉がつっかえていく。そして、また頬の熱さが何倍にも増えて戻ってきた。
自分は今告白をしようとしている。『告白』という文字が頭を何回も駆け回って思うように言葉が出ない。



「…………な、何でもない……」
先程までの勢いはどこに消えたのやら。
流架は人一倍プレッシャーに弱い少年のようだ。
「ええ〜っ、何なん?気になるやんっ」
「……ごめん。後で、ね…。」
『後で』とは、何時になる事やら。何だか、物足りないような感じを心に残しながら二人はまた夕暮れの道を歩き出した。また一歩、また一歩、と。成長への道を歩き出した。



ー俺は…………
―――――――――佐倉の事好きだから。


言おうと思っていた言葉を思い出し、溜息ひとつ。

(でも……まぁ、まだいいか)


今は、まだ届かぬけれど。
今は、まだ言えないけれど。

内緒にしておこうか、
何時の日か言える日が来るまで。


END
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ちびまるこちゃんでくしゃみの話題が出ていたのでネタにさせて頂きました。
るかんも楽しいものですよね。

ああ、何で私はるかんのラブラブが書けないのだろう…。
何だか、いつも流架の切ない恋でおわっちゃうよ。
だって、私なつみかん本命ですもの。