不器用な恋心 06:告白



目線が気になった。何時にもまして此方を見てくる目。棗が頬をついて此方を薄目で見てくるのだ。馬鹿にされているのか、何なのか、そう思うと気になって気になって仕方が無い。目を反らしているのも何だか落ち着かなかったから、思い切って棗に目線を返した。

すると、棗は座っていた椅子から腰を上げると此方に向かってきた。行き成りの事に驚いて、慌てて『やるか!?』と両手を構えてみれば、それを簡単に相手の手で封じられた。

何時もの悪戯っぽい笑みも見せず、ただ真剣に此方を見詰める赤い瞳。


「今日、放課後残れ」

分かったな?、と。暴言でも吐かれるかと思ったのに、ツインの少女は変に気を入れていた肩をがくりと下げた。

初めてのお誘い。でも、何で??
棗に呼ばれるなんて自分が何かしら迷惑をかけたか、気に入らない行動をとったか、のどれかに当てはまるのだが、記憶を思い出してみても全く棗に迷惑をかけた記憶等ない。

そう考えて悩んだのは三十秒くらいの事で、能天気な少女は『ま、ええか』と親友の少女のもとへとランラララと小躍りしながら去っていった。







そして、放課後。
翌々考えてみれば、どこで待てば良いのか、そんな事を考えながら誰も居ない教室で自分の机に大胆に乗っかりながらも足をブラブラとさせて考えていた。

すると、ガラリと戸は開いた。

棗だ。


「…今、お前だけか?」

「え?うん…蛍には図書室で待ってもろうとるし…」

「………そうか」


少女がそう言うと、少年はふぅと小さな息を吐いた。だが、そう言った後も誰かが来るかどうか窓や戸を何度も見回していた。何を警戒しているのだろう、この少年は。

眉を潜めながら頭にクエスチョンマークを浮かべる。だが、そのクエスチョンマークはすぐ消えた。何故なら、そんな事の前にもっと聞かなくてはいけない事があるから。



「なぁ、ウチに何の用なん?」

そう、何で自分を呼び出したのか。まだ、理由を聞いていない。少女の言葉に今だに警戒していた少年は後姿の肩をびくりとさせた。見た事もない棗の気の抜けた一面に蜜柑は思わず『おっ』と言葉を発してしまった。咄嗟に口を両手で抑え、殴られる、と思い、また両手を構えたが、棗はそんな気等なく、頭をくしゃりとひとつ掻くと、また此方を真剣に見詰めてきた。また目にしたその表情に蜜柑はどきりと胸を鳴らした。

そして、彼がようやく喋りだす。



「………お前にひとつ言いたい事がある」

真剣な赤い瞳。真っ直ぐすぎて、体、自分の瞳さえが麻痺してしまいそうだった。決して、目を反らさせない何だかその不思議な赤い瞳。


「…な、なに……?」

緊張が此方まで伝わってきて、自身も思わず声をどもらせてしまう。








「………俺………お前の事、嫌いだ……」


―――――――――――……


棗のその言葉で心臓がどくんと大きく反応したのが分かった。緊張で反応したんじゃない、何だか嫌な感じの、悲しい心臓の動きだった。

何だか切なくて、悲しくて、声が思うように出なかった。体もふらふらして、力が無くなってくる。貧血ってこんな感じだろうか。今にも倒れてしまいそうなこんな不安定な感じ。

「………な………っ……」

「お前なん、か……大嫌いだ…………」


何かを堪えたような重たい表情。先程まで真っ直ぐだった瞳が今は不思議に左右に泳いでいた。言葉を返したいけれど、思うように言葉が出ない。懸命にやっと出た言葉は途切れた言葉で何の意味も示さなかった。

呼び出して、何を言うのかと思ったら、『キライ』だなんて。

何でそんな事言われなきゃいけないのかが分からない。だって、自身が貴方に迷惑をかけた事が思い当たらない。何もしていないのに。何故、そんな事を言われなきゃいけないのだろうか。

彼に言われた言葉は、自分が思っていた以上に辛いものだった。親友の少女に言われた場合程に痛いものだと思う。けど、何だかそれとは種類が違うように思えた。何だかもう一つの何かが締め付けられるような感じ。

声が出ない。身体も震えて麻痺して動かなかった。




「………それだけだ…」

そう、投げ捨てると黒髪の少年はその髪を揺らしながら一気に走っていった。そして、思い切り閉めたドアの音でツインの少女はびくりと現実に戻された。魔法みたいに崩され、地に落ちる身体。何だか、物凄く恐いお化けを見た後のような感じだった。

両肩に手で触れるとよく分かる。
自身はこれまでにないくらい震えていた。




ガラッ

「…蜜柑?」

教室に入ってきたのは蛍。

「…遅いと思って来てみれば…
今、日向君が勢い良く飛び出して行ったけど…」


――――…


「……………泣いてるの?」


微かにすすり泣く声は蛍の耳にも届いていた。地面に座り込んで大量に流れてくる涙を必死にその小さな両手で抑えようとしている親友の少女の姿。見たのは座り込んだ後姿だったものの、その肩の震えや、地に何粒も落ちる水の音に蜜柑が物凄く傷ついている事が嫌なくらい分かってきた。

蛍は何も言わずに、泣いている蜜柑の横へと静かに近寄ると、軽くそのでこにデコピンをお見舞いしてやった。けど、蜜柑は泣きやまず、そのまま蛍の足にしがみ付いた。



「なぁ……っウチ辛い……ほた、る…ッ」

『辛い』それだけ何回も泣きながら訴えるだけ。其れだけじゃ、何がどうこの少女をこんな風にさせたのかが分からない。

ただ分かる事とすれば、棗が蜜柑を泣かせたって事だけ…。


(この子が私以外の事でこんなにも泣くだなんて……)


それも、その切欠が日向棗…。


何時もは、すぐさま『泣くんじゃないわよ』と言って、泣き止むまで突き放す所だが、その切欠を作ったのが自分ではなくて、あの少年だという事が頭で何回も引っかかって蛍は少し戸惑っていた。

だから一応、戸惑う唇で理由を探る。




「…ねぇ、蜜柑。日向君に何を言われたの?」


気になる。
この子をここまで泣かしたんだ。
………なんて、興味深い。


泣いている少女に切欠を口にさせたくは無いが、口にして貰えなければ話が掴めないのだ。

蜜柑は、蛍の足を掴む手をぎゅうと強くした。それに気づくと、蛍は蜜柑の横にゆっくりとしゃがみ込むと、珍しくその優しい手でその頭を撫でてやった。

少女は、その震える唇をゆっくりと開いた。




「……きら、い……ゆう、て…だいきらい……ゆ…われ、て…」


彼女の口から出された言葉は本当に興味深いものだった。そして、こうやって泣き崩れているのは彼女特有の鈍感さから生まれたものでもあって。だから、思わず笑いが込み上げてきた。勿論、蜜柑に聞こえないような小さな声で。

そして、何時もの毒舌を飛ばしてやった。



「……馬鹿ね…」

「…ばっ…馬鹿って…!蛍…!?」


そんな少女の言葉など聞かずに蛍は掴まれていた手も無理矢理離して帰ろうとドアの前まで足を運んだ。蜜柑は何が何だか理解できず、『蛍!』とただ少女の名だけ呼んで身体は動けずにいた。

ドアをがらがら、と半分まで開けると蛍は少し笑いながら此方を振り向いた。




「今日、何の日か考えてみなさいよ、馬鹿蜜柑」


じゃあね、最後にそう付け足すと蛍は、ぱたりとドアが閉まる音と共に教室を出て行った。残された蜜柑は、そんな蛍の後姿と、今言われた言葉を考えてぽかーんと口を間抜っぽく開けながらそこに座り込んでいた。


『何の日か考えてみなさいよ』


そう最後に言った蛍の言葉。


「……あ、今日は…………………」




――――……


…エイプリルフール……。



「って事は……………」


その日、蜜柑の頬はずっと真っ赤だったという…。



〜〜おまけ〜〜〜

「蜜柑、泣いてたわよ」
「はっ!!?」
「あの子があんたの言葉理解する程賢いとでも思ったの?」
「……………………………」
「でも、大丈夫。私が話しといたから」
「………………へぇ」
「見かけによらず可愛いとこあるじゃない。この日を利用するなんて」
「……るせぇ」(こいつやっぱり苦手だ……)


END....

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シリアスだと思いました?いや、実はハッピーエンドなんです。
すいません、何だか最後の終わり方あっさりしすぎました…。
日記で書いてたものをUP…。
エイプリルフールの事をずっとエイプリルフルールかと思ってました。