お前は俺のもの。 それは、誰にも渡さない…。 小 さ な 恋 の う た 最近、棗の様子が可笑しい。普段よりも眉を潜めてご立腹のようだ。多分、その理由は、昼休み、初等部に最近よく来る中等部の先輩のことだろう。文化祭の『眠りの森の白雪姫』を見てから、蜜柑に一目惚れをしたらしく、度々初等部に顔を出すのだ。 (ああ…また来たよ、あの人…) 生徒たちの心の中で噂されている中等部の先輩は、今日も嬉しそうな笑みを見せながら初等部の戸を思い切り開け、蜜柑に近づいてきた。その瞬間、まだマシだった棗の表情が激しきひきつった。それに気づいた他の生徒たちはただただ何も言わず、争いがないことを願うだけだった。棗は、目の前にあった椅子を思い切り蹴り、誰もが『怖い』と思う程、恐ろしい顔をしていた。 今回の棗は、一段と恐ろしく、今まで耐えてきた憎しみが今日こそとばかりはちきれそうな勢いだった。生徒たちもそんなことなど知らない浮れた中等部の先輩を見て『あの人殺される…』と誰もが思った。 「蜜柑ちゃーーん」 蛍と向かい合って喋っていたところ、座っていた蜜柑の後ろから中等部の先輩が嬉しそうな声を出して、蜜柑を後ろから抱きしめた。その瞬間、棗と蛍の息のあった反撃の手がぴくりと動いたような気がしたが、蜜柑と先輩はそれに気づきもしなかった。どうやら、蛍もその先輩を気に入ってはいないらしい。 『べったべった触ってんじゃ(ねぇよ・ないわよ)』 蛍と棗の気持ちは、お互い同士は気づいていないが、全く同じだった。 「あー、先輩やぁ!今日はどうしたん?」 先輩にまわされた手を振り払おうとはせず、蜜柑は笑顔で先輩に問うた。そんなところは、その先輩にとって嬉しいことで、自然と先輩の表情がにやにやと怪しい笑みに変わってくる。その笑みで蛍と棗は怒りが爆発しそうになったが、ここはぐっと堪えた。 「どうしたって〜決まってるでしょ?蜜柑ちゃんに会いに来たんだよ」 「ウチにぃ?先輩、ウチに会いたかってん?どないして?」 「分かってるくせにぃ〜、それはね、俺が蜜柑ちゃんのこと好きだからだよ」 「そうなん?ウチもねぇ、先輩のこと好きと思っとるで!」 「蜜柑ちゃん教えてあげようか、それはね、恋だよ。両想いなんだよ、俺と」 「あとね〜、ウチ苺も好き〜。あ!でも一番は蛍やねんで!」 (この勘違い野郎……) 誰もが二人の会話を聞いてそう思った。 そして、『佐倉も気づけよ』と誰もが心の中で訴えていた。 「っていうか、二人全然話かみあってないしね」 「言っちゃだめよ、心読みくん」 それからというもの、先輩はいっこうに帰る気配を見せず、とうとう昼休みも終わりに近づいてきた。二人のいちゃいちゃ声のせいで、最近、棗たちだけでなく、クラス全体の雰囲気も気まずくなっていったのは事実だ。初等部には早い、その口説き声に顔を真っ赤にする者が居たり、イラついたりする者もでたり、とにかく、その先輩の存在は迷惑としかいえなかった。 流架も流架、棗と同じで蜜柑に好意を抱いているせいか、この頃、元気がないことが多かった。流架を想う動物たちや、流架をあたたかく見守る会の人たちの心配は少なくはない。 「蜜柑ちゃん、今度遊ばない?」 蜜柑の表情に安心しきった先輩は、とうとう遊びの予約までつけようとしていた。まわしていた手をゆっくりと離し、空いていた蜜柑の隣にあった椅子に座り込む。そして、蜜柑の顔を覗き込むようにじりじりと近づいてきた。 それを目の前で見ていた蛍は、今こそというような感じにバカン砲を握り締めていた。棗も、その先輩の言葉にあまりにも腹がたったせいか、とうとう椅子から体を起こした。 「ええよ〜!んじゃ、蛍とか委員長も誘って…」 「いや、そうじゃなくて…」 そう言うと、先輩は怪しい笑みを浮かべて先程よりも蜜柑に近づいた。ちゃっかり先輩の右手は、蜜柑のあごを自分のところに寄せるように置いてある。二人の距離は縮んでいき、今にも唇と唇が触れそうなくらい近かった。先輩はある意味それを狙っているのだが。 それを横目で見ていた生徒達は、見るに絶えられず、思わず目をふせる。そして、一部の生徒は、あの最強の二人がここで爆発するであろうことを理解していた。 「大勢じゃなくって、二人っき…りィィッッ!!!!」 ウワアアア!! 先輩の情けない声が響きまわり、思わず生徒達はふせていた目を開けた。目を開けた先に映っていたのは、髪に大きな火が燃え移り、そしてバカン砲をやられたのか、頭に大きなタンコブが出来ている先輩の姿。 そして、パニック状態で走り回っている先輩の近くには、そう『やってくれる』と皆から期待されていた人物二人、棗と蛍が居た。二人は、どす黒いオーラをかもしだして、そして大きなムカツキマークを頭いっぱいで表現していた。 「(あんた・お前)ごときの分際で(私・俺)の (蜜柑・水玉)に手を出そうなんて10000年早い(のよ・んだよ)」 そんなパニック状態を蜜柑は、ただオロオロして見ていることしか出来なかった。 『だって、蛍のやることには逆らうことできひんもん(蜜柑曰く、惚れた弱み)』 先輩が叫びながら、教室を出たあと、怒り爆発中の二人の足は、蜜柑のところにやってきた。蜜柑は、その影に気づき、恐る恐る自分を恐ろしい顔で見下げているであろう二人の姿を見上げた。 「あんた、あの男が危ない人だって分からなかったの?」 「危ない人…?ウチ、あの人悪い人やない思っててんけど…」 「馬鹿かテメェ。あの気色悪い笑顔を見れば変なこと考えてるくらい見え見えだろ」 他人から見れば、三者面談のような雰囲気であるその光景は、生徒達の目を密かにひいていた。 (佐倉可哀想だな…) 密かに流架はその光景を見てそう思っていましたが、あの先輩がまた来るよりはマシかと思うことにしました。その微笑ましい(?)光景を見ていた動物たちと、流架をあたたかく見守る会の人々は安心して自分たちの居た場所へ戻っていきました。 それから、どのくらい経ったのか、長かった二人の蜜柑への注意事はとうとう終わりを迎えようとしていた。蜜柑も、言われすぎた為か、少しションボリしている。 「私が言いたいことはこれで終わりよ。日向くんはまだある?」 「…ああ。個人的に言いたいことがある」 「ええ〜!?まだあんの〜!?ウチ、もう疲れ…」 「黙れ、燃やすぞブス」 「うぅ〜〜!!」 蛍は、ひとつ息をつくと、授業が始まる、と言い自分の席についた。蜜柑も、棗から逃れようとするように、わざとらしく口笛を吹きながら蛍の後をついて行こうとしたが、やはり簡単に棗に首後ろを捕まれ、止められてしまった。 そして、授業が始まるというのにそのままひっぱられ、教室を後にした。 「ちょ、ちょお!離して!棗!」 「………………」 「授業始まってまうやん!サボる気なん!?」 「………………」 何を言ってもだんまり。その後も棗は手を離してくれず、どこかに向かおうとしていた。後ろから少し見える棗の顔は、いつにもなく眉を潜めていて、怒っているような顔だった。そんなに、先程のことが気に喰わなかったのだろうか。 (でも、どうして……) それは、鈍感な彼女には分からなかった。どうしてだろう、と深く考えながら、連れられてきた場所は学園の裏庭。とても広くて、地面は鮮やかな緑と黄色の芝生が広がっている。 確か、前にもこの場所を見たことがある。…というか、殆ど棗を探しているときに見ているし、来ることもある。だって、棗はいつもこの場所で昼寝をしているから。 「言いたいことは教室でも言えるやん…」 「…言ったろ、個人的内容だ」 「皆の前では言えへんことなん…?」 「じゃなきゃ、こんなとこ来ない」 言い終わり、棗は静かに息をつくとその場に寝転んだ。蜜柑もその横にちょこんと座ったものの、説教されるために来た自分が棗と同じように寝転んでも良いものか。そう思っていた直後、急に力強い手に腕を引かれ、柔らかな芝生の上に体を落とした。 その柔らかな芝生の気持ち良さをゆっくりと感じることが出来ずに、すぐに意地悪な影が迫ってきた。地面に仰向け状態で寝かされた蜜柑の上に棗がのしかかったのだ。棗は、まだ怒っているらしく、その短い眉が急ブレーキをかけていた。 「お前は軽すぎだ」 「……それ、さっきも言うとったで」 『軽すぎ』一回だけでは言い足りないのかその言葉を、棗はまた口にした。いつもなら、このような状態を恥ずかしく思い、すぐに離れる蜜柑だが、今日は棗の目に操られるようにその場でじっとしている。 しばし、見つめあいながらの沈黙。その間、棗の瞳がどんどん力強い目から弱くなっていくのを蜜柑は感じ取った。『なつめ』と思わず声をかけようとしたが、その瞬間、いきなり棗が蜜柑の上に体を預けた。いきなりのことに蜜柑は目をまんまるく開けている。棗は、蜜柑の顔の横に顔を埋め、蜜柑を上からぎゅっと抱きしめる。それは、いつもの強い棗とは少し違った。 「あまり、俺を不安にさせるな…」 それは、少し嫉妬のまじった小さな本音。初めて聞けた些細な棗の本音の言葉だった。鈍感な彼女には、何故そんなに棗が不安になるのかはまだ分かってはいないが、棗がどれだけ不安なのかは理解することが出来た。そして、無意識に棗の背に優しく腕をまわした。 「…な、つ……」 「おい、ブス」 けど、それはすぐにいつものあれに戻ってしまって。蜜柑のその行動が棗の悪戯心に火をつけてしまったのである。棗は、いつものあのニヤリとした表情に変わって、こちらを見下げてきた。 「お前は俺のもんだ」 「………へっ?」 「俺以外の男には近づくな」 分かったか?との言葉に蜜柑は理解できず、頬をぶぅと膨らませる。 だって、そんなんありえへんやん…! 「ちょ、そんなんあんたが決めることやないやん!」 「俺が決めること」 「証拠は!?」 蜜柑がそう言うと、棗はまた悪戯っぽくニヤリと笑みを見せて、顔を近づける。急なことに思い切り目を瞑ると頬に生温かいものが触れてきた。唇ではなく頬だったことに少し安心して目を薄く開けたのも束の間。それを狙っていたのか、頬に触れていた生温かいもの、曰く棗の唇がすぐに自分の唇に移動し、強く押し付けられた。思いもしなかったその行動に、蜜柑は顔を真っ赤にし、その唇から逃れようとした。けれど、それはそう簡単に許してもらえるものではなく、すぐに追いかけてきて、それを奪う。 それは、しばし続くと、やっと離れた。それと同時に、また少年の悪戯の笑みが降ってくる。 「…これが証拠だけど?」 「…………ッ!!///」 そ、そんなん勝手すぎる…ッ! 『お前は俺のもんだ』 そうでなきゃ、お前は知らないうちに数々の男達から好かれるだろう。 そうでなきゃ、お前はまた変な男に絡まれる。 そうなったら……… 「――…俺が困るんだよ」 優しいキスが降ってくる。 さっきとは少し違う、あまい あまいキス。 優しく 優しく 触れたら壊れてしまいそうなそんなキス。 「…なつ、め……そんな、寂しそうな顔せんでも、ええやん………」 何故か、今日の棗は物凄く可愛く見えてしまった。 子供みたいに拗ねて、おもちゃをほしがる子供みたいにだだをこねて。 少し、棗のものになってあげても良いかなー…なんて、ほんの少し思ってしまったり。 END.... --------------------------------------------------------------------- 一周年企画小説『蜜柑に好意を抱く男出現』ひとつめ完成!!一周年有難う御座いますー!!一番最初真剣に書いてたんですけど、やっぱり最後の最後適当になってしまいました(汗)すみません、飽きっぽくて。内容もほのぼのなんだかギャグなんだかどっちかにしてくれ、って感じでしたね(ぇ) それにしても、先輩気持ち悪すぎです。一応、オリジナルの先輩なんですけど、はい、気持ち悪すぎです。そんなに気持ち悪くするつもりなかったんだけど、何故かこんな先輩になっちゃいました。 というか、蛍と棗がそろって蜜柑に文句を言いにいくなんて…なかなか見られない光景ですね…。設定から外れすぎました、すんません(土下座)まぁ、そんだけ棗も焼いてたってことです。 それにしても、あんまり自分の納得のいく嫉妬の仕方じゃなかったなー棗くん。自分的に棗くんはその先輩にやばいくらいに攻撃して暴言はいて『こいつは俺のだ、手だすんじゃねぇ』くらい言うのが私の好みなんだけど、でもなんか知らないけど違う風になってしまって、あー、ほんとすみません。期待を裏切るような作品になってしまいました(涙)お許し下さいませー。 |