「19:悲しみを分かち合う」

決して強い人間な訳じゃない。心につけられてゆく小さな傷も大きな傷も全て、胸を抑え込んでしまう程に痛く、苦しい。”大丈夫”と自分に何度も言い聞かせても、やはり心は素直なもので、すぐに止まらない涙が頬を滑り落ちていった。黒い教師と言葉を交わす度に大きくなる不安と怒り。だけど”怒り”の次に出てくるのは、決まって”悲しみ”だった。
「あ〜っ棗や!何してんの?」
少女のことは嫌い。転校初日から生意気な態度をとるし綺麗事ばかりを並べるから。少女の脳を埋め尽くしているのは、学園に対してのありったけの夢と希望。そんなものこの学園にはないと自身は分かっているから、何も知らない暢気な少女が気に食わなかった。
「無視すんな!あんたウチのパートナーやろ!?返事くらいせんかい!」
「………………」
言葉を交わしたくない。その甲高い声を聞くだけで腹が立つ。でもそれより、自身は自分の感情を押し殺すので精一杯だった。今は怒りを通り越して悲しくて仕方がないときなのだ。毎日やりたくない仕事をし、火の海を瞳に焼き付け、傷だらけになって帰ってくる日々が頭の中をゆらゆらと揺れている。いつまで続くのか、どうしてこんなことしなければならないのか、悲しくて切なくて、きりがない。そんなときに少女は目の前に現れて…本当にタイミングが悪い。今は一人になりたいのに。隙を見せたくはないのに。だけど少女は、
「…なあ、心チクチクするん?悲しいん…?」
隣に座ってきたかと思ったら、その一言。思わず目を見開き、少女の顔をまじまじと見てしまった。心配しているのだろうか。というか、表情に出していなかった筈なのに、何故分かったのだろう。
「……何がだよ」
「”悲しい”って訴えてるような気がしたねん。大丈夫?」
「…………………」
そんなことを言われるとは思っていなかった。だけど、これで少女への好感度が上がった訳ではない。ただの少女の当てずっぽうだ。偶然に決まってる。
そう思いながら少女を無視し続けていると、耳元で急に水の音が聞こえた。吃驚して少女の方を見ると、少女が瞳に溜まった沢山の涙をポロポロと流して泣いていた。
「…おい…何で泣いて…」
「っ昔のこと思い出してん…。飼ってた金魚死んでもうて、その時じーちゃんと一緒に大泣きして、そんで庭にお墓作ってあげたんや…っっ」
少女は両手で顔を覆いながらそう嘆く。意味が分からない。何故少女が泣いているのだろう。泣きたいのはこっちの方なのに。人をおちょくっているのか?こいつは。
「…なんでそんなん思い出してんだよ」
少女のことは嫌い。転校初日から生意気な態度をとるし綺麗事ばかりを並べるから。少女の脳を埋め尽くしているのは、学園に対してのありったけの夢と希望。そんなものこの学園にはないと自身は分かっているから、何も知らない暢気な少女が気に食わなかった。
ーだけど、きっとこの時から、変わり始めてた。
「…せやって!!棗だけ悲しい思いしてたんや不公平やろ!せやからウチも悲しむの!」
いや、出会った当初から少女に対して何かを感じていたのかもしれないけど、でも、この時一層分かった。少女は本当に変な奴だと。
「……は…?」
こいつはめちゃくちゃだ。馬鹿で阿呆で、考えることも非現実的なものばかり。それでいてこうやって自身に近付いてきて、心の中に入っていこうとする。真っ白すぎて、輝きすぎていて、うざったかったものが、今こうやって自身の心の隙間に入り込もうとしている。
思わず少女の顔から目が離せずにいると、急に少女がすくっと立ち上がった。さらに少女はゴシゴシと制服の裾で溢れた涙を拭うと、頭上に広がる青い空を強い瞳で仰いだ。そしてまだ座ったままでいる自身の方にゆっくりと顔を向けると、こう言う。
「今度からウチがあんたの悲しみ分かち合ったるわ!」
「…何、言って……」
「…っでもその代わり!!ウチと”楽しみ”も分かち合ってよな!」
”悲しみだけの人生なんていややから”そう付け足すと、少女はニカッと笑う。それから勢い良く駆けていって、少女は初等部の校舎に消えていった。
悲しさを一人で味わうのは悲しくて。それはとても心細くて。きっといつも一緒に感じてくれる誰かを求めていたんだ。それは頼っているだけなのかもしれない。巻き添えにしているだけなのかもしれない。だけど、側に自分以外のもう一人いるってこと、それはすごく心強いことで、嬉しいことなんだ。
楽しいだけの人生なんてある筈がない。それと同じで悲しいだけの人生もある筈がないんだ。ムカついていたはずなのに、だけど何故かそのとき、急に笑みが零れた。


END
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………え……?(何)いやごめんなさい無理矢理作った話なんで…ちょっと意味わかりません。自分で書いといて意味わかりません。なんか上手く話まとまらなかったなあ;
正しいことなのかよくわからない。ん?んーー??(落ち着け)まあ人それぞれ考えた方ってあるよね(ぇ