「09:全部、お前が悪い」 |
茶金の長い髪を二つでくくっていた彼女は、今ではその髪を下ろし、顔付きや身体付きも前に比べて大人びてきた。ぱっちりとした愛らしい瞳、ころころと変わる表情、光を含みふわりと広がる茶金の髪は美しく、多くの男子が魅了されてしまう程だ。それに外見は成長しても、中身はあどけないままというのが男子生徒にとっては一番のツボであろう。
そんな彼女には付き合っている男性がいる、という噂があるらしく、その相手とは彼女と長いことつるんできた黒髪の彼だという。しかし実際は違った。二人は友達以上恋人未満という微妙な関係であり、実は付き合っているという訳ではないのだ。
そんな真実を確かめようと、ある男子生徒が放課後の教室で黒髪の彼にこう尋ねた。
「佐倉と付き合ってるってマジっすか?」
「訳ねえだろ」
彼はきっぱりと即答した。変に迷うのも嫌だし、馬鹿みたいに”そうだ”と嘘を吐くのも阿呆らしい。それは彼らしい考えであった。そんな彼の即答に、質問した男子生徒は目を輝かせた。
「マジっすかあ!?じゃあ俺全力でいきますからね!」
「全力…?」
「今日告ろうと思ってるんすよ!」
「………」
予想外な展開だと、彼は思った。彼はぼんやりと思っていたのだ、付き合ってるのかいないのかの問いに正直に”NO”と答えたら、ただ相手が浮かれてそれで終わるだけだろう、と。だがそれは的外れだった。男子生徒は今日早速彼女に告白するのだという。ということは、先程の質問は告白前の最終確認だったという訳か。計算外だ。
そんな時、がらりと教室の戸が開いた。全くタイミングが悪い。入ってきたのは委員会を終わらせ教室に戻ってきたその彼女であった。
「あれ?二人共まだ残ってたん?」
およ?とした表情をして、彼女が二人に近付いていくと、待ってましたというように男子生徒が少し興奮気味に立ち上がった。その瞬間後ろの彼が、眉を勢い良く吊り上げたことなど、鈍感な彼女が気づく筈もなく、そして実は彼自身も気づいていなかった。彼女は自ら男子生徒に近づき、”どうしたん?”と尋ねた。ぷちりぷちりと彼の額に怒りが埋め込まれていくのが分かる。
「…っあの…俺佐倉が…!」
それが起こったのは無意識である。男子生徒が彼女の両肩を掴み、いざ告白というところで、後ろの彼が思い切り男子生徒の頭に拳骨を喰らわしたのだ。
「…っな…ななな…」
「…………」
拳骨を受けた男子生徒は気を失い、空気の抜けていく風船のように倒れ込み、彼女は今まさに目の前で起こったことに放心状態。彼はというと床に倒れている男子生徒を見、はっと我に返ると混乱状態に陥った。
暫くすると、ぼうっと放心状態だった彼女が正気を取り戻し、震える声で彼に怒鳴った。
「…あ…あっあんた!いきなり何してんねん棗えええーーーーー!!!!」
混乱していた彼もその声で正気を取り戻した。そして何か考え込むような表情をし、それを終えると彼は彼女の目を真っ直ぐ見た。その表情は何だかすっきりしているようにも見える。
「全部、お前が悪い」
それは今”確信したばかり”の彼の声だった。
END
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今確信したばかりの声って?なにそれ?ってかた絶対いると思います。
私の小説は分かりづらいからな。
ええと、「ああ、自分は蜜柑のことが好きなんだ」と確信したときの声ってことです。
この棗君は自分が蜜柑のこと好きって気づいてないんです。
本当はそういうつもりで書いてた訳じゃないんだけど最後どうしようかなと思って
なんとなくそういうことにしてみた。それにしても男子生徒が哀れ。