「06:水玉」

「水玉」
「なあ、そろそろ水玉ってやめてくれへん?」
コンクリートロードで、長い髪を垂らした彼女がそう言って眉を捻った。その彼女の隣を歩く彼はそんな彼女に何時ものように無反応とノーコメントを返す。
「前に何回か呼んでくれたと思ったら、普段は水玉なんやもん」
そう可愛らしい大きな瞳で彼女は彼の顔を覗き込んだ。最近の彼は彼女に弱い。どんなに腹が立つことがあっても、気に入らないことでも、彼女の可愛らしさで全てどうでも良くなってしまう。歳を重ねることで彼女の色気が増し、そして彼の性格も落ち着いてくるからであろうか。
「…分かった。蜜柑っで呼ぶ」
彼女の可愛さにつられてそう呟いたものの、人に指図をされるのを嫌うのはやはり直らないもので。気に入らないのか彼は彼女の頭にぐりぐりと拳を捻じ込ませた。それに対し、彼女は痛そうに泣き叫んだ。
段々と風が強くなり、肌寒くなってきた。歩いている二人の距離も自然と近くなり、繋がれた手の力も強くなる。寮に着こうとする直前に、彼女が彼の肩に頭を落とし、囁くように言った。
「でも、水玉って言われるの、嫌いやなかったよ」
そう言い終えると、彼女は彼のブラウンのコートに顔を埋め、甘えるように彼に抱きついた。そんな彼女の背中に彼も両手を回し、優しく抱き締め、何回も呟いた。
ーみずたま、水玉、と。


END
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本当は蜜柑が何かしらバランス崩して倒れそうになったときに「水玉!」って言ってしまい結局水玉かみたいなオチにしようと思ったんですが、よくよく考えてみれば蜜柑が危ないときとか棗くんいつも「みかん!」と言っていたなと思い出しやめました。
だからなんか、すーーーーって終わってくような話になってしまったよ。