「01:手を封じてしまえば」

最近少女は少年が近寄ろうとすると、技とらしく離れていく。今までは気に入らないことがあると、直ぐ少年につっかかって怒鳴ってきたというのに。今では話すこともなければ、目を合わすこともしない。自分が何かしただろうか、そう考えてみても特に思い当たることもない。
「おい」
偶然放課後の教室に一人残っていた少女に少年が呼びかけた。びくりと反応し、一瞬合った少女の瞳は微かに潤っており、頬は夕日の所為か赤い。少女は小走りで自身の横を通り過ぎ、教室を慌てて出ようとした。
しかし少年の怒りは頂点に達していた。何故急にこんな態度をとられなくてはいけないのか。どうして何時も通りに話してはくれないのか。意味がわからず、それは怒りを呼び、そして寂しさを呼んだ。
「テメェ何で避けるんだよ!?」
細い腕を力強い手が掴み、そのまま自分のところに思い切り引いた。引っ張られた衝撃でどさっと少年の胸にぶつかった少女は敏感な反応をし、また必死に少年の手から逃れようとする。少年は逃れようとする細い腕を放さずに、ただ強く掴んでいた。
「…っ痛い!」
「言えよ!俺がお前に何かしたのか!?」
今までの怒りと不安が一気に溢れ、少年は痛がる少女に構わず怒鳴った。少女は暫く黙り込むと、涙で腫れた顔を片手で隠しながら、途切れ途切れに言った。
「あんたといると…っ胸が張り裂けそうになる…!心臓が煩くてっ気持ち悪くて!こんなん初めてで…ウチ可笑しくなってしまいそうやから…っだから…!」
だから避けていたと続ける少女の頬は真っ赤に燃え上がっていた。それは夕日の所為なんかではない。
静かにすすり泣く少女をぼんやりと見詰め、少年は少女への想いが一層大きくなっていくのを感じた。愛しくて、恋しくて、自然と口元が緩んだ。
彼女が欲しいと強く思ってしまい、ゆっくりと頬に手を伸ばそうとすると、泣きながら少女が言った。
「触らんといて!ウチほんま限界なんよ…っ!」
そう言って掴まれていた腕を振り解き、少年を押し退けるために少女は乱暴に両腕を振った。それさえも愛しい。少年は少女の両腕をぱしりと簡単に封じ込めると、壁に押しつけ、そのまま深いキスをした。


END
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お題とりあえず一個完成!